【書評】 喜多由浩著『台湾の日本人』 加地 伸行(大阪大学名誉教授)

 一昨年(2020年)4月1日から産経新聞に喜多由浩・文化部編集委員による「台湾日本人物語 統治時代の真実」の連載が始まり、本年3月30日の第53回まで、実に丸2年にわたって掲載されました。

 連載中、「『いのちの水』引いた警官 瀧野平四郎」(第22回:2021年1月20日)では本会理事の山本厚秀氏、「『太平洋の女王』を救え 基隆築港部長・吉村善臣の奮闘」(第27回:2021年3月31日)では、善臣の孫で会員の吉村伸一氏、「日本を今も忘れぬ『台湾少年工』」(第48回:2022年1月19日)では理事の石川公弘氏が登場し、本会会員や関係者が登場したときには本誌でも紹介してまいりました。

 本当によく調べて書かれており、毎回、興味深く拝読していました。最終回で単行本になると知り、待ち望んでいたところ、このほど単行本になり産経新聞出版から5月31日に発売されました。

 そして、このほど加地伸行氏(大阪大学名誉教授)が「今後、台湾問題を論じるとき、必読文献となるであろう」と最高級の賛辞を呈する書評を産経新聞に寄せています。下記に紹介します。

 なお、本会でも本書を「本会推薦図書」として、会員の皆さまには廉価でご紹介する予定です。

—————————————————————————————–『台湾の日本人 証言と史料が示す「親日」のルーツ』喜多由浩著 歴史的事実を克明に発掘評・加地伸行(大阪大名誉教授)【産経新聞:2022年6月19日】https://www.sankei.com/article/20220619-VI6Q4MS365LKRA5VERYXI62QW4/?254751

 ロシアのウクライナ侵略からいろいろな展開が論評されているが、その最大のものは、台湾の将来である。しかも、日本にとってそれはウクライナ問題と異なり政治的にも経済的にも文化的にも切実である。

 しかし、その台湾について、現代の日本人はどれほど知っているのであろうか。大半の日本人は〈単なる旅行先〉としか思っていないのではなかろうか。

 それは違う。日本は今の台湾を創ったのである。しかも欧米先進国が他国に植民地を作り、奴隷的に働かせ、そこから生まれた富を収奪したのとは異なり、日本は朝鮮半島・台湾に対して、収奪ではなくて建設を行った。もっとも朝鮮人はそうは思わず、収奪されたとごてて今日に至っている。しかし、台湾人は日本時代の建設に感謝している。決定的な相違である。

 もっとも現代日本人の大半は、日本の台湾建設を知らない。せいぜい八田與一(はった・よいち)(灌漑(かんがい)事業を指揮し台湾を穀倉地帯にした)の名を知るぐらいである。

 しかし、現実は八田與一だけではなく、膨大な数の日本人が台湾の近代化に力を尽くしたのである。台湾の人々が親日的であるのは、そうした日本人が多くいたからである。けれども、その事実をほとんどの日本人自身が知らない。

 これに対し、かつて日本人がどれほど台湾の近代化に協力したかという歴史的事実を本書は克明に大量に発掘している。

 そして驚くべき事実を次々と明らかにしていっている。例えば、台湾総督府の民政長官だった後藤新平は、欧米列強の植民地政策に対して参考にするのは必要だが、その模倣はならぬと戒めている、と。

 これは、台湾に対する日本の在りかたの根本的態度であり、明治人の気骨を示している。そういう人間性が台湾の人々の心を打ち、初めは反乱し抵抗した台湾人が協力していった。

 そういう台湾に、中国共産党に敗れた国民党が来たが、日本時代の遺産が彼らを助けた。

 本書は台湾がなぜ親日であるのかということの根本的理由を多種多様な方面から光を当てて立体化している。今後、台湾問題を論じるとき、必読文献となるであろう。文体は読みやすく一気に読了した。(産経新聞出版・1650円)

評・加地伸行(大阪大名誉教授)

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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