【書評】『日本とインド いま結ばれる民主主義国家』  楊 海英(静岡大学教授)

・書 名:『日本とインド いま結ばれる民主主義国家 中国「封じ込め」は可能か』
・編著者:櫻井よしこ・国家基本問題研究所
・版 元:文芸春秋
・定 価:1,680円(税込み)
・発 売:2012年5月24日
 http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784163752709

【産経新聞:平成24(2012)年8月12日】

◆価値観と歴史観を共有

 7月上旬、日中戦争をめぐる国際学術シンポジウムに参加した。進歩主義史観の系統をく
むいわゆる「左側」の研究者らは相変わらず「日本による中国侵略」について熱弁し、
「日本悪玉論」を展開していたので、コメンテーターの評者は違和感を覚えた。

 対照的なのは、本書の執筆者たちだ。中国とは今年で国交回復40周年にあたるが、日本
は過去に昭和天皇から今上陛下、歴代首相と官房長官まで実に累計36回にわたって謝罪を
繰り返してきた、と櫻井よしこ氏はいう。歴史は「連動する生き物」だから、「侵略」を
絶対悪と見なすならば、中国によるチベット侵略や新疆のウイグル人弾圧、それに内モン
ゴル自治区におけるモンゴル人大量虐殺の歴史についても、「左側」は自らの見解を示す
べきだろう。

 もちろん中国は一度もチベット人など少数民族に謝罪したことがない。「悪いのはすべ
て相手で、中国に非があるなんて考えられない」という一点張りだ。

 国内の少数民族だけでなく、日本を含むアジア諸国に対しても強権的な態度を取る中国
に、国際社会はいかに対処すべきかが問われている。極東国際軍事裁判で「歴史の加害
者」として断罪された日本人は心に深い傷を負い、そして今や尖閣諸島が奪われかねない
という国難に遭っていても、左派は相変わらず無条件で中国を賛美することで母国の近代
を反省する。

 日露戦争は有色人種が白人に挑んだ闘いで、大東亜戦争は祖国独立の契機になったとイ
ンドはグローバルに理解しているので、歴史観の共有が可能だ、と編者らは主張する。安
倍晋三元首相や元駐日インド大使ら識者たちの見解を要約すると、東シナ海だけでなく、
インド洋側からも中国の覇権主義的動向に注視すべき時代だという。

 天竺(てんじく)と呼ばれた昔と比べれば、インドは手に取るように近くなった。民主
主義という普遍的な価値観と過去を振り返る際の歴史観の共有こそ、生き残るための戦略
を支える根本的な要素だ。中国とはそれがない事実を、日本人はきちんと認識すべきであ
ろう。


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