【新刊紹介】井尻秀憲『李登輝の実践哲学』(ミネルヴァ書房)

よく考え抜かれた構成だ。こういう本に巡りあうと嬉しくなる。

 本書は、李登輝元総統がいかにして台湾に民主化をもたらし、中国との外交チャンネ
ルを維持しつつ、どのようにして国交のない国々との外交を通じて台湾の国際的地位を
向上させてきたのか、その歴史的偉業である「台湾経験」の背景を、「李登輝のどのよ
うな素養、資質が『一二年間の施政とその後』の政治生活で役に立ち、思想的バックボ
ーンとして働いてきたのか」(第1のモチーフ)など、5つのモチーフから迫る濃密な内
容だ。

 特にタイトルにも現れているように、西田哲学や新渡戸稲造の『武士道』など「弁証
法によって常に『新しいもの』を求める『改革・実践・進歩派』としての李登輝を描く」
という第2のモチーフは、著者自身が「この切り口は、まだ誰も使っていない」と述べ
るように、これまでありそうでなかった観点だ。

 著者の井尻秀憲・東京外国語大学教授は「今なぜ、李登輝か」をテーマに、2002年
(平成14年)から今年3月まで足掛け7年にわたって李元総統にインタビューを繰り返し
てきた。本書が対談集でないのは、「あとがき」で「通常なら『対談集』とすべきとこ
ろだが、筆者自身が単独で記述した章を含むため、また李元総統のお勧めもあって、筆
者の単著とし、副題に『五十時間の対話』という文言を付した」と述べている通りで、
著者の李元総統への深い共感が全編に満ちている。

 李元総統にとっての「台湾経験」は台湾にとっての「台湾経験」であり、日本の現代
史にとっても「台湾経験」は深く関わっている。本書は日本人が台湾を知る上で欠かせ
ない大事な一冊といってよい。そして、なぜ台湾が国際的に認知されなければならない
のかも自ずと理解される。                      (編集部)

■著者 井尻秀憲
■書名 李登輝の実践哲学−五十時間の対話
■版元 ミネルヴァ書房 http://www.minervashobo.co.jp/
■体裁 四六判、上製、268頁
■定価 2,625円(税込)
■発行 平成20年9月10日

*本書は9月14日のシンポジウム「どうなる日台関係!」や9月23日の沖縄講演会の会場
 でも頒布する予定です。



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