『消された唱歌の謎を解く』喜多由浩著 「日本を取り戻す」必読書評・高橋史朗(麗澤大学大学院特任教授)【産経新聞「書評」:2020年7月12日】
本書は、産経新聞に連載された「歴史に消えたうた 唱歌、童謡の真実」と、日本統治時代の台湾、朝鮮、満州の唱歌を書いた同「歴史に消えた唱歌」を再構成したものである。
昭和21年2月4日、GHQは教科書検閲の基準を作成し、愛国心や国家的英雄、軍国主義、超国家主義、神道などに関する記述の削除を命じた。その結果、「死者から」と「死者へ」の視線に関して、「閉ざされた言語空間」が戦後形成され、音楽教科書の「唱歌・童謡」にも、その影響が顕著に反映された。
唱歌『蛍の光』の3番には、「ひとえに尽くせ国のため」、4番には「千島の奥も沖縄も 八洲のうちのまもりなり」等という歌詞があるために歌われなくなった。『里の秋』も「父さんのご武運」という3番の歌詞が問題視され、歌われなかった。愛する家族と祖国を守るために命を擲(なげう)った「死者へ」呼びかけた鎮魂歌は削除され、死者との心の絆はズタズタに切り裂かれてしまった。
著者は「幼い日に心に刻まれ、胸を熱くした歌を百年先にも残したい」と、唱歌『水師営(すいしえい)の会見』などが削除された理由について検証。戦争を賛美した軍歌ではなく、ラグビーの「ノーサイドの精神」、世界中が絶賛した日本人の「おもてなし」の心の歌なのに、なぜ封印を解こうとしないのか、と訴える。
教育現場から一掃された「楠公の歌」や時代に合わなくなったという理由で音楽教科書から消えた『村の鍛冶屋』には、日本人が古来大切にしてきた価値観が込められているという。さらに、『赤とんぼ』も、「十五で姐やは嫁に行き」の歌詞が、民法が認める婚姻年齢にふさわしくないと批判され、「姐や」は「お手伝いさん」と呼ぶべきだという理由で、全面的にカットされた。
台湾、朝鮮、満州で、郷土色豊かな世界でも類を見ない「独自の唱歌」を作った日本の統治教育の真骨頂についても、2章を割いて詳述している。
軍国主義とは明確に区別すべき「唱歌・童謡は日本の大事な伝統文化である。次代に『残す』努力や工夫があってしかるべき」と著者は訴える。死者と向き合い、「日本を取り戻す」ための必読の書といえる。
(産経新聞出版・1400円+税)
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