3月19日に、台湾の外交部で一つの記者会見が行われた。
日本は、台湾と外交関係を持たず国家として認めていないが、台湾には他のどの国の支配下にもない政府があり、台湾で対外関係を司(つかさど)る行政機関が外交部である。
その外交部で、呉釗燮外交部長(外務大臣に相当)と米国在台湾協会の代表であるクリステンセン台北事務所長が並んで立って、「インド太平洋民主統治協議会」の開催について発表した。
米国在台湾協会は民間団体とされているが、実はアメリカを代表する外交機関である。その代表、つまり事実上の「米国大使」が、台湾の外務省で外務大臣と並んで記者会見を行った。これは1979年1月1日のアメリカと台湾の断交以来初めてであった。
◆外交機関が定期的交流
開催が決まった協議会は、アメリカ国務省民主主義・人権・労働局のバズビー副次官補が昨年10月に台湾を訪問したとき、蔡英文総統と呉外交部長に提唱した「民主主義と人権に関する常設の対話」を実現させるものだ。発表によれば、協議会は毎年1回開かれるが、その第1回は本年9月に台北で開催され、その際に国務省同局の高官が来台する。
この会議は、米台双方が相互の協力を進め、台湾が達成してきた民主化の経験を、この地域の国々の民主化、発展のために分かち合うことで各種の課題に対処するプロジェクトを検討する常設の機会となる。クリステンセン所長は、アメリカにとって台湾は「自由で開かれたインド太平洋地域」のための大切なパートナーである、と述べた。
この会議によって事実上、台湾の外交部とアメリカの国務省との間における定期的な交流の場が生まれることになる。つまり、同協議会は双方の「政府機関」の対話のパイプになるのではないか。
ところで、トランプ政権の発足以来、米政府が「一つの中国」に触れる時には、中国側の使う「一つの中国原則」ではなく、常に「われわれの一つの中国政策」を用いてきた。つまり、トランプ政権は、「一つの中国」を、不変の「原則」ではなく、状況によって変わり得る「政策」と位置付けている。
一方、米国議会は、昨年3月に米台の高官の相互訪問を認める「台湾旅行法」を成立させ、8月には、アメリカが主催する合同軍事演習への台湾軍の参加を認める「2019年国防権限法」を、さらに昨年12月に、「アジア再保証推進法」を成立させ、その中で台湾関係法と台湾旅行法の実行を求めた。
以上のように、アメリカではトランプ大統領と二大政党が一致して台湾の取り扱いの格上げを徐々に進めてきたのだが、米台断交40年、即(すなわ)ち台湾関係法制定40年を機に、さらに一歩を進めることになるのがこの協議会の開催である。
今回の記者会見では、「中国の反発を受けるのではないか」という質問が出されたが、クリステンセン所長の答えは、「この機構は、価値を共有するアメリカと台湾が、この地域における民主主義の拡大のために協力するものであって、中国とは関係ない」であった。アメリカの「一つの中国」政策は「名存実亡」に向かっているのではないか。
◆米政権見習うべき日本
さて、翻ってわが国はどうか。蔡英文総統は、去る3月2日付の産経新聞に掲載されたインタビューで、安倍政権に対して日台の「安全保障対話」を呼び掛けた。この呼び掛けに対して日本政府では、3月8日、菅官房長官と河野外相がそれぞれの記者会見で、「日本と台湾との関係は、非政府間の実務関係を維持していくというので一貫しておりまして、この立場に基づいて適切に対応してまいりたい」と同じ口調で答えた。
アメリカも過去40年間、台湾とは非政府間の実務関係を続けてきた。しかし、米中新冷戦の中、トランプ政権は「一つの中国」政策を口にしつつ、「中国とは関係なく」米台間の会議体を設けることとした。この点、安倍首相はトランプ政権に範を取ってはどうか。(あさの・かずお)