李登輝氏が四半世紀前に予言!?「台湾は日本の生命線」 森 永輔(日経ビジネス・シニアエディター)

李登輝氏が四半世紀前に予言!?「台湾は日本の生命線」 森 永輔(日経ビジネス・シニアエディター)

 本会会員や読者にとって、李登輝元総統が「台湾は日本の生命線」「日台は運命共同体」と繰り返し指摘されたことは、何度も耳し目にしてきたことで、箴言とさえ理解されている言葉だ。

 そもそも、平成14年(2002年)12月に設立した日本李登輝友の会は、その使命について「李登輝先生の透徹した日台運命共同体理念に共鳴し、その速やかな実現と両国の鞏固な結合を図ることにあります」と謳い、会則にも、本会の目的を「李登輝氏の日台運命共同体理念に賛同し、新しい日台関係を構築する」と定めている。

 このほど森永輔氏が(日経ビジネス・シニアエディター)が「私たちは今、李登輝氏が記したこの言葉の意味を真剣に考えなければならない局面に臨んでいる」として、改めて「台湾は日本の生命線」という言葉を想起した一文を草している。

 森氏の「李登輝氏が今から約24年も前に今日懸念されていることを予言していたように読める。・・・1949年以来ずっと変わっていない状況に、私たちが目をつぶってきただけなのかもしれない」という指摘に、「なにを今さら」「私たちではなく『私』だろう」と反感を覚える方もいるかもしれない。

 しかし、メディアに生きる人々が李登輝元総統の指摘に気づくのはいいことで、早いに越したことはないものの、遅いということはない。どのように気づいたのかを知ることで、私どもにも気づかなかったことがあるかもしれない。まずは耳を傾けてみたい。下記に連載の第1回を紹介したい。

—————————————————————————————–李登輝氏が四半世紀前に予言!?「台湾は日本の生命線」 森 永輔(日経ビジネス・シニアエディター)【日経ビジネス:2023年1月24日】https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00530/011900001/

 ロシアがウクライナに侵攻して1年がたった。収束の兆しは依然として見えていない。この侵攻を歴史の流れに置いて見ると、経済のグローバル化という「統合」と、ソ連(当時)の崩壊を起点とする「分裂」が相まって引き起こした事象と位置づけることができる。この統合と分裂は今も、東アジアにおいて形を変えて存在している。「分裂」とは、中国と台湾の関係を指す。

 加えて、3期目に入る習近平(シー・ジンピン)政権は、台湾統一を共産党の歴史的任務 と位置づける。「最大の誠意をもって最大の努力を尽くして平和的統一の未来を実現しようとしている」(日経新聞10月16日付)とするが、その環境は整わない。台湾の民意は「現状維持」であり、「統一」ではない。民主化を遂げた台湾は、国共内戦時の台湾とは異なる。

 よって、中国が台湾武力統一に動く懸念が高まる。

 その蓋然性はどれほどか。仮に、中国が動けば、いかなるシナリオが想定されるのか。そのとき、日本はいかなる状況に陥るか。企業はいかに備えればよいのか。日米中の国際関係、経済、法制など、多面的な切り口で「台湾有事」のありようを分析する。

 日経ビジネス2022年12月26日/23年1月2日号に掲載した「日本を揺るがす米中対峙のシナリオ 台湾有事を直視せよ 人、物、カネ全部止まる」を大幅に加筆修正してお贈りする。

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 「台湾が存在を失って中国に制されてしまえば(中略)次には日本の『存在』が脅かされることになる」。台湾総統として民主化を推し進めたことで知られる李登輝氏は、その著書『台湾の主張』(1999年刊行)の中でこう警鐘を鳴らした。

 この後、以下の文が続く。

「日本の地理的位置づけからみても、台湾とその周辺が危機に陥れば、シーレーンも脅かされて、経済的にもまた軍事的にも、日本は完全に孤立することになってしまうだろう」

「戦略的にみても、台湾の存在は大きい。日本人の多くは、そのことを十分理解しているとはいえない。台湾は日本にとって、単なる製品の輸出先の、南に浮かぶ島の一つではない。台湾は、日本にとって生命線なのである」

 李登輝氏が今から約24年も前に今日懸念されていることを予言していたように読める。他方、24年前から変わらない状況、否、蒋介石をいただく国民党が毛沢東率いる中国共産党との内戦に敗れ台湾に逃れた1949年以来ずっと変わっていない状況に、私たちが目をつぶってきただけなのかもしれない。

 私たちは今、李登輝氏が記したこの言葉の意味を真剣に考えなければならない局面に臨んでいる。

 中国が2022年8月、台湾周辺の海域に向けて弾道ミサイルを発射した。1995〜96年の第3次台湾海峡危機からおよそ27年。この間、激しい波の立つことがなかった海域に再び大きなしぶきが上がった。

 米議会下院のナンシー・ペロシ議長(当時)が台湾を訪問。中国はこれを「台湾を独立主権国家として承認」に向かう動きとみなして反発したようだ。日本では「台湾有事」、すなわち中国による台湾武力統一が改めて人々の耳目を集めることになった。非営利のシンクタンク「言論NPO」が2022年11月に発表した調査結果によると、日本の回答者の約45%が「数年以内」もしくは「将来的」に「台湾海峡で軍事紛争が起こる」と考えている。

 1996年以降最近まで、日本の安全保障政策をめぐる議論の中で、台湾が中心となることはなかった。人々の関心は専ら北朝鮮が開発を進める核とミサイル、そして中国が取り組む軍事力増強と沖縄県・尖閣諸島に対する圧力に向けられてきた。

 そんな台湾がにわかに注目を集めるようになったのは、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官(当時)が2021年3月、米議会上院軍事委員会の公聴会で「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と発言したからだ。「2027年」というタイムリミットが突然“設定”された。この年は、中国人民解放軍が創設された1927年から100年目の節目の年でもある。

◆本格的武力攻撃のハードルが高い理由

 ただし、本格的な武力攻撃による台湾統一がここ数年の間に起こる蓋然性について専門家の意見は分かれる。「起こらない」と見る論拠の1つは、そもそも中国人民解放軍は、必要な能力を保有していない、というものだ。

 軍事アナリストの小川和久氏は著書『メディアが報じない戦争のリアル 日本の「戦争力」を徹底分析』の中で、(1)中国が台湾着上陸戦を実行するには100万人規模の兵力が必要、だが(2)中国は現在、この兵力を海上輸送する十分な能力を保有していない、と指摘している。「必要な輸送船の船腹量は3000万トンから5000万トン」。「中国が保有する商船の船腹量6200万総トンの大半」を占める。これを軍事に振り向ければ、中国経済が回らなくなってしまう。

 仮に、ロシアなどの協力を得て、輸送能力を補えたとしよう。それでも、政治・経済上のハードルは高い。中国が台湾武力統一を進めれば国際社会から激しく非難される。この点は、ウクライナに侵攻したロシアのプーチン政権を見れば明らかだ。米国と日本、その他のG7(主要7カ国)諸国が経済制裁を科すのは必定。中国は台湾との貿易もできなくなる。2021年の貿易構造を見ると、中国から日本、米国、台湾への輸出総額は、GDP(国内総生産)の約4.7%に相当する(下の表)。これが滞れば、GDPに対して最大4.7%の下押し圧力が生じる。

◆下手をすれば、共産党政権が吹き飛ぶ

 「失敗は許されない」という国内政治上の関門も存在する。台湾武力統一において苦戦もしくは失敗することがあれば、中国国内でも突き上げが激しくなる。習近平(シー・ジンピン)政権が不安定になることは避けられない。

 反習近平派はここぞとばかりに習政権を指弾するだろう。22年10月の中国共産党大会において、習氏が率いる派閥は、同党中央政治局常務委員というトップ7を独占した。これに対する不満が鬱屈しているであろうことは想像に難くない。

 今日の中国において、戦場に赴くのは「一人っ子」たちだ。我が子が死傷者となれば、親たちが抱く恨みは一人っ子ゆえに一層深い。

 不安定になるだけなら、まだましかもしれない。駐中国大使を務めた経験を持つ宮本雄二氏は22年11月、日経ビジネスLIVEの講演の中で「台湾に中国が侵攻すれば、世界経済はめちゃめちゃになるし、中国もがたがたになって、指導者も失脚する」と指摘した。同氏は『日中の失敗の本質−新時代の中国との付き合い方』など中国関係の書籍を数多く出版している。

 さらに、米国が介入し、米軍と戦って勝てなかったら「共産党政権が吹き飛ぶ」。キヤノングローバル戦略研究所の宮家邦彦・研究主幹の見立てはさらに厳しい。同氏も在中国日本大使館公使を務めたほか、『語られざる中国の結末』という著書をものしている。

 仮に着上陸戦が成功しても、その後の台湾統治は困難を極める。台湾を焦土とし、約2300万人の人々に大きな犠牲を強いるのだ。台湾の人々が激しい怒りを抱くのは間違いない。中国政治に詳しい、東京大学の川島真教授は21年6月、本誌とのインタビューでこの点を指摘した。

 米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長も21年11月、「将来的に何が起こってもおかしくない」としつつも、中国が今後半年から1〜2年のうちに台湾武力統一に踏み切る公算は小さいとの見解を示した。

(次回に続く)

(この連載は、日経ビジネス2022年12月26日/23年1月2日号に掲載した「日本を揺るがす米中対峙のシナリオ 台湾有事を直視せよ 人、物、カネ全部止まる」を大幅に加筆修正して、随時掲載します)

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。

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