台湾有事! 中国の台湾侵攻作戦とは? 門間 理良(防衛研究所地域研究部長)

台湾有事! 中国の台湾侵攻作戦とは?   門間 理良(防衛研究所地域研究部長)

【nippon.com:2021年10月20日】 https://www.nippon.com/ja/in-depth/c10601/

 米中関係の趨勢(すうせい)とインド太平洋地域における台湾の政治的・軍事的重要性が増している中、解放軍の台湾本島侵攻を米国が座視することはありえない。中国側も今すぐに台湾に侵攻しなければならない差し迫った理由がなく、そのような危険な賭けにでるとは想像しにくいが、あらかじめ想定を詳しく立てておくことは重要だ。本稿は現時点で解放軍の侵攻作戦が始まると仮定して、どのような事態が想定され、解放軍・台湾軍・米軍・自衛隊の能力で何ができるのかについて考察する。

◆サイバー攻撃から始まる中国の台湾侵攻

 中国人民解放軍(以下、解放軍)による台湾本島侵攻形態は統合作戦による短期決戦となる。戦いはまず、台湾側が事前に察知できないサイバー攻撃から始まる。攻撃目標は台湾の送電システム、空港、港湾、鉄道、高速道路の管制システム、証券取引システム、銀行業務システム、政府機関のサーバーなどが考えられる。台湾各地で混乱が始まると同時にミサイル攻撃が波状的に行われる。空港や空軍基地の滑走路に対しては、破壊力の大きい弾道ミサイルが使用され、レーダーサイトやミサイル迎撃システムなどに対しては精度の高い巡航ミサイルが使用される。海底ケーブル切断による情報コントロールも狙ってくるだろう。

 ミサイル攻撃は在日米軍基地に対しても行われ、サイバー攻撃はそれにとどまらず、東京やワシントンDC、ハワイ、グアムなども対象になる可能性がある。

 次の段階で行われるのが、航空優勢・海上優勢を確保したうえでの輸送機と強襲揚陸艦、民間船を利用した着上陸作戦と考えられている。現状で解放軍の輸送能力は台湾全土を一挙に制圧できるだけの兵員を送り込むことはできない。よって、高速で移動可能な少数の精鋭部隊を台北と高雄に送り込むと考えられる。

 台北市に直結する淡水河を大型ホバークラフトで遡上(そじょう)させるほか、海岸への強襲揚陸だけでなく、民間のカーフェリーなどを利用して台北に近い基隆港から部隊上陸を試みる可能性も指摘されている。着上陸部隊は総統府や国防部、台北松山空港の制圧を図る。松山空港が奪取できれば、そこに兵員を送り込むこともできるからだ。同時に台湾要人の拉致や暗殺を狙う解放軍特殊部隊の斬首作戦も行われるだろう。台湾にすでに潜伏しているとも言われる特殊部隊が呼応し、台湾を内部からかく乱する可能性も否定できない。

◆解放軍の猛攻に耐えて米軍の来援を待つ台湾軍

 台湾軍も統合作戦による迎撃を考えている。解放軍の台湾侵攻作戦への対応を想定した「漢光演習」では、戦力保存、総合防空、統合制海、統合国土防衛というシナリオで実動演習を実施している。

 解放軍の第一撃から生き残るために、台湾軍は一定数の戦闘機を台湾東部に所在する山をくりぬいた佳山基地格納庫に退避させる。軍港に停泊中の駆逐艦・フリゲートなども狙い撃ちを避けて一斉に出港するだろう。解放軍のミサイル攻撃に対して、台湾軍はPAC-3や国産の防空システム「天弓3型」等で迎撃するほか、解放軍のミサイルを誤誘導させたり通信を妨害したりする電子戦部隊も動く。とはいえ、解放軍の初弾の飽和攻撃に対してどれほど効果を上げられるかは心もとない。

 台中や台南、澎湖島の空軍基地からは空対地ミサイルを搭載した戦闘機が離陸し、解放軍のレーダーサイト、弾道ミサイル発射機、防空ミサイルシステムに攻撃を加える。解放軍の前線の攻撃拠点や兵たん支援を行う後方基地攻撃も念頭に置いた巡航ミサイルの配備やその長射程化も進められている。仮に台湾が射程2000キロメートルの弾道ミサイルの開発に成功すれば、北京を射程に収めることが可能になる。斬首作戦には、総統護衛部隊である特種勤務指揮センターや憲兵部隊、海巡署特殊部隊が対応する。

 台湾軍は渡海してくる解放軍に対して、空中・海上・陸上からの迎撃を試みるが、解放軍が渡海作戦を実行する段階は、航空優勢と海上優勢をほぼ握った段階であるはずで、その反撃は十分ではない。台湾軍にとってある程度の救いは、解放軍の渡海能力が十分でない点である。解放軍が台湾北部に着上陸した場合、北部を統括する第3作戦区に配置された陸軍第六軍団を中心に海空軍を含めた統合作戦で迎え撃つことになる。台湾軍が組織的・有機的に作戦を行えるか否かは、解放軍による台湾軍の指揮・管制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察の機能破壊の程度にも左右されるが、解放軍は既にその能力を有していると台湾側は予測している。解放軍の猛攻をしのぐ間に、1日も早く米軍が介入するのを台湾軍は待つことになる。

◆米軍の反撃は衛星とのリンク破壊と巡航ミサイル

 米軍が台湾有事に介入する場合、「自軍将兵の犠牲を最小限に抑える」ことが最優先の考慮事項となる。解放軍の対艦弾道ミサイルDF-21DやDF-26が有効に機能している間には空母機動部隊を射程内に近づけたくない米軍は、中国の偵察衛星の機能をつぶすことを考えるだろう。これはなにも衛星に対して直接攻撃を行う必要はない。衛星と地上通信施設を結ぶリンクを攻撃する電子妨害を行うことで、偵察衛星から送られてくる情報を遮断すればよいのである。北斗3号衛星測位システムや衛星通信に対するジャミング(電波妨害)やサイバー攻撃も考えられる。

 さらにオハイオ級巡航ミサイル原子力潜水艦(SSGN)からの巡航ミサイル攻撃で、中国本土のレーダーサイトや衛星との通信施設等を物理的に破壊することも考えているはずだ。SSGNは1隻あたりトマホーク巡航ミサイルを154発搭載している。米軍は同艦を4隻保有し、そのうち2隻をインド太平洋軍に配備している。通常体制であれば、4隻すべてが稼働しているわけではないと思われるが、台湾有事ともなれば全てを台湾海峡に派遣すると考えられる。

 亜音速巡航ミサイルは速度が遅いことが弱点のため、できるだけ中国本土に接近し、数多く発射することで解放軍の防空システムをかいくぐる必要がある。SSGNは第一列島線付近の海域まで進出してから、合計600発強のトマホークを一斉に発射し、すぐに現場海域を離脱するだろう。トマホークの精密打撃によって中国の衛星を利用した探知能力や攻撃能力は大幅に低下する。米軍の正確な位置把握が不可能になった解放軍の対艦弾道ミサイルや、地上発射式あるいはH-6K爆撃機から発射される巡航ミサイルの命中精度は、格段に低下する。この機を逃がさず米空母機動部隊は中国本土に急速に接近し、台湾侵攻の後続部隊や補給を断つことができる。その間にSSGNはグアム(あるいは横須賀・佐世保でも可能?)でミサイルを再装填して再び出撃できる。

 なお、台湾軍と米軍の共同作戦は、共同訓練を実施していないため不可能である。無理に行おうとしても、最悪の場合、同士討ちという事態も想定される。現実的なのは、台湾軍が台湾本土で解放軍の侵攻に持ちこたえている間に、米軍が解放軍を独自にたたくという戦闘であり、単独行動をとる原潜を最初に戦場に投入することは理にかなっている。

◆「台湾有事」は「日本有事」に他ならない

 中国が台湾侵攻を企図した場合、まず外交ルートを通じて日米に台湾を支援しないよう働きかけてくるだろう。日本に対しては「攻撃するのはあくまでも米軍基地だけであり、日本が米台を支援しなければ日本に対する攻撃はしない」などの甘言で日米の離間を図ることも十分考えられる。

 解放軍は「積極防御」の軍事戦略を掲げているが、情報化戦争へシフトする過程で先制攻撃をより重視するようになっている。よって、嘉手納・佐世保・岩国・横須賀の米軍基地に対して、解放軍がサイバー攻撃とミサイルで先制攻撃してくることを日本は想定しておいた方がよい。常識的に考えて、在日米軍基地へのミサイル攻撃は日本への武力攻撃と同義になると思われる。日本政府が武力攻撃事態を認定すれば、首相が自衛隊に防衛出動を命じて中国に反撃することになる。自衛隊は本来任務である日本を守るために戦うことになるだろう。

 飛来する弾道ミサイルなどに対して自衛隊は、近代化改修を行った「あたご」型や「まや」型のイージス艦から発射されるSM-3ブロック2Aを、次いで陸上発射式のPAC-3で対処することになるが、その前段階として弾道ミサイル発射を検知する機能や弾道の捕捉、情報の即時伝達・共有が重要となってくる。そのためには早期警戒衛星、通信衛星の増強が望まれる。超音速ミサイルを探知するためには無人偵察機の前方展開も考えられる。

 米軍が台湾有事に介入する場合、自衛隊は日本を守りながら米軍に対する後方支援を行うことになる。さらに、自衛隊には台湾在留邦人救出ミッションも課せられる可能性が高い。これらのミッションを並行して遂行することは、防衛省・自衛隊にとって極めて困難な作業となろう。有事に突入してから台湾や米国の関係機関と協議する余裕はない。中国による通信妨害も十分に考えられる。常識的に考えて、平時から台湾の内政部や外交部、国防部、米国の関係機関と邦人避難ミッションに関する協議をしておかなければ間に合わない。

 中国に台湾侵攻(=在日米軍基地攻撃)を思いとどまらせるだけの実力があることを台湾と日本が示すことと、国交はなくとも日米台の友好関係がゆるぎないものであり、日米同盟が強固であることを示して、中国の侵攻を抑止することは何よりも重要である。

※本稿は筆者の個人的見解をまとめたもので、所属機関とは関係ありません。

【参考文献】武田康裕編著『在外邦人の保護・救出』東信堂、2021年防衛研究所編『中国安全保障レポート2021 新時代における中国の軍事戦略』防衛研究所、2020年尾形誠「近代化を進める解放軍と台湾軍の対応」『東亜』一般財団法人霞山会、2021年9月門間理良「日本はいかに動くべきか? サイバー・ミサイルから始まる中台激突」『中央公論』2021年10月号門間理良「台湾の動向」『東亜』各号『世界の艦船』(海人社)各号所収の論考及び艦艇諸元

門間 理良(もんま・りら)防衛省防衛研究所地域研究部長。筑波大学博士課程単位取得満期退学。南開大学、北京大学に留学。台北と北京での専門調査員、文科省教科書調査官を経て2012年防衛研究所入所。2020年より現職。学術月刊誌『東亜』で「台湾の動向」を連載中。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。

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