「牛も、鶏も、豚肉も」―いっそ馬肉を食べようか… 迫田 勝敏(ジャーナリスト)

「牛も、鶏も、豚肉も」―いっそ馬肉を食べようか… 迫田 勝敏(ジャーナリスト)
「レームダック」は落選したが、任期がまだ残っている政治家、「役立たず」の意味で
使われる。馬英九総統は残りの任期は約2カ月だが、再選されたからレームダックではない
はずだが、まるでレームダックそのものだ。米国産牛肉の問題のさなか鳥インフルエンザ
隠しが露見、さらに豚肉から違法の飼料添加剤を検出、その解決になんの指導力も発揮で
きない。牛肉も鶏肉も豚肉も怖くて食べられない市民からは、こうなったら「馬肉を食べ
よう」との投書も。もちろん馬総統へのブーイングだ。

◆突然の米国産牛肉輸入方針

 牛肉問題は総統選の絡みで浮上した。台湾では禁止の飼料添加剤のラクトパミンが検出
されたことで、昨年1月から米国産牛肉は一切、輸入禁止。それが米国の馬英九支持と引き
換えに解禁するのではないかと伝えられ、政府は再三否定していたが、3月になって突然、
条件付で輸入解禁の方針を発表した。

 政府はすでに専門家による会議でラクトパミンは人体への影響はないと結論付けてい
る。確かにそうかもしれないが、問題は否定していたことをあっさりとひっくり返してい
ることだ。これは嘘を言っていたと同じこと。政治家にとって一番大事なのは、有権者に
嘘を言わないことだ。嘘をつけば信頼をなくす。有権者の信頼を失った政治家に政治生命
はない。それを平気な顔でやっているのが、今の馬政権だ。

◆最大ボスが鳥インフル隠し?

 牛肉問題でデモ騒ぎまで起きていた時に今度は鳥インフルエンザ隠しが発覚した。昨年
12月中旬に彰化で発生、数万羽を処分していた。ドキュメンタリーフィルムを撮っている
監督が何度か当局に問い合わせていたのを、当局は握り潰していた。そこで監督が暴露、
台南でも発生していたため、大騒ぎになった。

 問題はなぜ隠していたのかだ。発生は総統選の終盤戦のころ。公になれば与党、つまり
馬総統には不利。そこで隠したと野党が追及した。農業委員会の防疫検疫局長が独断でし
たと答弁していたが、これだけの大事を一局長の判断で公表しなかったとすれば、無政府
状態。それこそ大問題だ。結局、当初、否定していた主任委員の判断ということになっ
た。

 ところが、今度はその隠蔽会議の録音テープが明らかにされ、そこで主任委員のさらに
上の「最大ボス」の存在が明らかになり、鳥インフルエンザ隠しは行政院長か、総統の指
示ではないかと疑惑はさらに広がった。国民の健康よりも選挙優先となれば、もはや政治
家失格だ。

◆豚肉からもラクトパミン

 野党の追及が総統に向かい出した時、今度は豚肉の加工品からラクトパミンなどが検出
された。検査したのは食品会社の研究所で、この企業のトップは馬総統の親友だ。これは
米国産牛肉輸入や鳥インフルエンザ隠しの問題から目をそらさせるための発表ではないか
との声が上がった。

 しかし検出は事実。おまけに輸入されている米国産の豚肉からも、台湾国産の豚肉から
も飼料添加剤が検出されていた。こうなると豚肉も食べられなくなる。市場価格は急落し
た。

 すでに牛丼専門店は牛肉の提供を停止している。台湾の昼食の定番、牛肉麺店も一時は
混乱し、「当店の牛肉は豪州産です」と断り書きを出す店もあった。鳥インフルエンザは
人間にはうつらないというが、食べるには勇気がいる。

 牛肉も、鶏肉も、豚肉も危ないとなると、食べる肉がなくなってしまう。自由時報には
「いっそ馬肉を食べようか」という投書が載った。台湾には馬肉を食べる習慣はない。投
書は国民の食生活に深刻な問題を引き起こした馬政権非難の言葉を書き連ねていた。

◆馬総統の声が聞こえない!

 不思議なのは、この一連の混乱の中で。馬総統の影が薄いことだ。これは社会の危機
だ。こういうときこそ指導者はリーダーシップを発揮して、混乱を治めなくてはならない
が、馬総統の姿が見えず、時に記者団に声を掛けられても「謝謝」と言うだけで何のメッ
セージない。

 そういえば馬総統には「前歴」がある。2003年のSARS(新型肺炎)騒ぎでは台北市
の市立病院が封鎖され、患者はもちろん、医師、看護婦、見舞い客も外に出られなくなっ
た。病院の裏口から逃げ出す人も続出、大混乱になった。防護服で身を固めた女性の衛生
局長がハンドマイクで病院内の人たちに院内に留まるよう必死に呼びかけていたが、時の
馬英九市長は姿さえみせなかった。八八水害でも出動は遅れた。

 危機のとき、リーダーの声が聞こえなければ,その国は右に左に揺れ動き、混乱を続け
るだけだ。

                              (さこだ・かつとし)

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