――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習74)

【知道中国 2408回】                       二二・八・仲七

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習74)

前回書名を示した文革版砲兵工廠ともいえる上海人民出版社の出版物は、どれもが毛沢東思想の正しさを徹底して、繰り返して子供の柔らかな脳ミソに刷り込もうとする“紙の爆弾”そのもの。内容は全てが似たり寄ったりで毛沢東思想に基づく勧善懲悪物語だから、全部を紹介するまでもないだろう。そこで適当に2、3冊を択んでみることにする。

先ずは『英雄機智的紅小兵』である。

建新小学校6年生の仲良し少年4人組の茅、唐、李、謝クンは、今日も革命大批判工作についての相談を終えるや家路に。校門に向かって歩いていると、誰もいないはずの校庭で何やら怪しげな物音がする。そこで茅クンは「すぐさま、『断固として、如何なる時も階級闘争を忘れるな』との偉大なる領袖・毛主席の教えを思い出す」。見事なまでの条件反射。

遠くを見ると、怪しげな人影が。「あッ、兪一平!」。兪は「教師の間に潜り込んだ反革命分子であり、人民が断固として許すわけにはいかない犯罪を重ねてきた」。つまり文革で批判された元教師である。だから尊敬の念は消え、呼び方にも侮蔑と憤怒の思いが込められる。「兪一平のヤロー、川の畔で・・・何か落としたな」。茅、唐、李の3少年は兪を追いかけ、残る謝クンは貧宣隊と先生に報告するために走った。

3人が後を追うと、兪は小屋の中に潜り込み戸をしっかりと閉め、中で寝たふり。ドンドンと戸を叩きながら、「開けろ。死んだフリをしてもムダだぞ」。すると「兪一平はゴロッと体を動かし、またも死んだフリを装う」のであった。

怒りに燃えた3人は何としても小屋の中へ入ろうと“革命的”に智慧を絞る。先ず茅クンが壁をよじ登って高いところの窓から入り、内側から戸を開けて2人を招き入れた。

「耄碌ヤローの兪一平は目を開け小屋の隅にうずくまり、弱々しく『何をする』『どうするんだ』。すると茅クンの眼からは階級の敵に向けた怒りの視線が迸り、兪一平を詰問する。『おいッ、川で何をしていたんだ』」。3人が交代で問い詰めても口を開かない。そこで茅クンがリード役となって「正直に白状しろ。抵抗は無駄だ」「飽くまで抵抗するなら、残された道は死だけだゾ」と問い詰める。

3人の子供が元教師を激しく糾弾する姿を「3人と数は少ないが、彼らの叫び声は天をも揺るがし、一言一言がまるで原子爆弾のように階級の敵の心臓を抉る」と表現する。それにしても小学6年生が元教師に向かって「死」を突きつけるとは、空恐ろしい時代だ。

「陰険で狡猾な階級の敵は顔を引きつらせ、一転して凶相となり『オッ、オレをどうしようッてんだ』」。すると「反動派の勢いに断固として呑みこまれてはならない」との毛沢東の教えを思い出した茅クンは一字一字ハッキリと、「お前の悪行を天下に暴露してやる」。斧を手に少年に襲い掛かろうとした刹那、背後から「兪一平、斧を捨てろ」と大喝が。貧宣隊の胡隊長が民兵や革命的な教師や生徒を引き連れて駆けつけてきたのである。

少年らは隊長に報告する。その時、息を切らせて走ってきた謝クンの手から証拠の品が隊長に渡された。

彼が川から拾い上げた包の中には、「国民党の?一味が兪一平に与えた何枚かの委任状と?のくたばり損ないの名前が刻まれた短剣が1本。なんと兪一平は長い間これらの悪事の証拠を隠し持ち、?介石の天下が戻ってくることを妄想していた」そうだ。

「兪一平は狡猾な犬のような頭を下げながら、小さな声でモグモグと『申し訳ありません』『許して下さい』」。すると隊長のリードで全員が「断固として階級闘争を忘れるな」「強大なるプロレタリア独裁万歳」とシュプレヒコールを繰り返す。

「威風堂々の掛け声の中、兪一平はドブネズミのように頭を垂れながら民兵と紅少兵に引き立てられていきました」。文革は、毛思想を培養土に子供の純粋培養を謀った。《QED》


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