【読売新聞:2021年10月29日】
中国が台湾の武力統一の選択肢を維持する中でどう安定を保つか。台湾自身の防衛努力が大事だが、同時に、中国に対し、軍事挑発には代償を支払わせる、とする関係国の決意の固さも問われよう。
中国の習近平国家主席は台湾統一の意欲を繰り返し述べている。中国は武力侵攻を想定した軍事力整備を進めており、民間の大型フェリーを利用した上陸部隊の輸送訓練や、台湾対岸にある空軍基地の増強も伝えられている。
習氏は、台湾の多くの人々が統一を望んでいない現状で目的を達成するには、軍事的圧力が有効だと判断しているのだろう。
台湾は、中国が2025年には台湾侵攻の「完全な能力」を持つとみている。蔡英文総統は、建国記念日に相当する「双十節」の演説で「中国が定めた道を強制的に歩かされはしない」と述べた。強い危機感の表れと言える。
蔡政権は年約1兆9000億円の防衛費とは別に、今後5年で約1兆円を投じ、ミサイル戦力や艦船を増強する方針だ。兵員不足は予備役の拡充で補うという。
中国の急速な軍拡への対応が遅れていたことは否定できまい。台湾が当事者として防衛力向上に努める姿勢を示すことが重要だ。
米国はこれまで、中台関係の現状維持を優先し、中国が台湾に武力侵攻した際に米軍が介入するかどうかを明示しない「戦略的曖昧さ」を維持してきた。
背景には、有事の際に台湾を防衛する意思を明確にすれば、中国に軍備増強の口実を与え、台湾海峡の緊張が高まることへの懸念があった。米国の圧倒的な軍事的優位が「曖昧さ」を支えていた。
だが、台湾海峡を巡る米中の軍事バランスは今や、中国の優勢に傾きつつある。「曖昧さ」を、自信を深めた中国が「米国は有事に介入しない」と読み誤りかねない。米国は戦略の妥当性について再検討を迫られている。
中国が台湾の孤立を図って外交攻勢もかけているのに対し、台湾は最先端技術を誇る半導体を武器にして、米欧や豪州、日本との関係を強めている。欧州議会は欧州連合(EU)に台湾との経済・通商関係の強化を求めた。
経済安全保障を軸に、台湾が民主主義の価値観を共有する国々との関係を深めるのは賢明だ。
台湾海峡の安定は日本の安全に不可欠である。政府は、台湾への威嚇や一方的な現状変更は許されないというメッセージを中国に積極的に発信する必要がある。
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