菅義偉総理は6月2日夜、オンラインで開かれた「COVAX(コバックス)ワクチンサミット」において「ワクチンを共同購入して途上国に分配する国際的枠組み『コバックス』に億ドル(約880億円)を追加拠出するとともに、国内で生産するワクチン3千万回分を各国・地域に提供する考えを表明した」(産経新聞)という。
昨日の本誌で紹介したジャーナリストの野嶋剛氏のレポート「台湾への『恩返し』ワクチン提供、実現のために必要なこと」で、加藤勝信・官房長官や茂木敏充・外相、ワクチン問題担当の河野太郎大臣の発言を取り上げて「内閣の最高レベルで了解を得て進んでいることをうかがわせた」と国内的にクリアしていることを指摘していたことに加え、このコバックスワクチンサミットで議長をつとめた菅総理は「ニーズに応えながら、安全で効果的なワクチンへの公平なアクセスを加速させていく」と表明した。
ワクチン接種が進んでいない国・地域には台湾が入る。「コバックスワクチンサミット」には、米国のハリス副大統領をはじめ約30カ国の首脳や閣僚とともに、国連のグテレス事務総長やWHOのテドロス事務局長も出席していたというから、日本独自のワクチン支援策に対する国際的な理解を得たとみていいだろう。つまり、日本による台湾や太平洋島嶼国などへのワクチン支援を公に認めさせたと言ってよい。
内外の環境が整ったことで、台湾へのワクチン支援は一気に加速する可能性が高まったようだ。
日本はコバックスに米国の25億ドルに次ぐ10億ドルの資金拠出を表明しているが、中国は加入はしているもののゼロ、資金を拠出していない。中国政府が日本の台湾へのワクチン支援に横槍を入れる余地を封じたことになる。ましてや日本は、台湾のWHO年次総会へのオブザーバー参加について「医療の空白地帯をつくってはならない」という理由で支持してきた経緯もある。
コバックスを活用して台湾へワクチン支援するかどうかはまだ不明のようだが、コバックスという国際的枠組みを使って中国の横槍を封じ、どこからもつけ込まれない「公平な提供」という環境を整えた上で、台湾へのワクチン支援を確実に実施しようとしたのだと思われる。
昨日の毎日新聞は「官邸幹部は『台湾から6月中旬過ぎには欲しいと言われている。それに合わせた調整をしている』と明かした」ことを根拠に「政府は、新型コロナウイルスのワクチン確保が課題になっている台湾に対し、英製薬大手アストラゼネカ社製を6月下旬から提供する調整に入った」と報じている。
また、下記に紹介する昨日の産経新聞「主張」は、「自由と民主主義の台湾へのワクチン支援は、日米英豪や欧州連合(EU)諸国が目指す『台湾海峡の平和と安定』にもつながる」と指摘しつつ、中国政府の日本批判に対し「政府は非人道的な批判を意に介す必要はない」と政府を鼓舞している。
産経が指摘するように、台湾の人々がコロナの恐怖から解放されるワクチン支援は、安全保障にもつながることをしっかりと踏まえたい。
—————————————————————————————–ワクチン支援 いち早く台湾に提供せよ【産経新聞「主張」:2021年6月2日】
困ったときの友が真の友だ。日本の隣人、台湾との間では、過去に何度も助け合いがあった。
厳しい水際対策で新型コロナウイルスを抑え込んできた台湾で感染が急拡大している。中国の横やりか、ワクチン調達に苦戦している。
日本は、接種予定のない英製薬大手アストラゼネカのワクチンを確保しており、政府が台湾への提供を検討中だ。茂木敏充外相は5月28日の会見で「わが国との関係を考え、(台湾へのワクチン支援を)しっかり検討していきたい」と述べた。
昨年、中国の輸出規制で日本がマスク不足に陥った際には、台湾から約200万枚の医療用マスクが届けられた。東日本大震災後、いち早く義援金を届けてくれたのも台湾だ。その恩に報いる好機でもある。できるだけ多くのワクチンを、速やかに提供したい。
日本は、アストラゼネカと年内に約6千万人分のワクチン供給を受ける契約を結んだ。だが、接種後にまれに血栓が生じる事例が報告され、承認したが当面は公費接種の対象になっていない。日本の人口分のワクチンは米製薬大手のファイザー、モデルナ製でほぼ確保できたことが大きい。
台湾は一貫してアストラゼネカのワクチンを調達してきた。超低温管理が不要で、使い勝手の良さがある。ただし、調達数は、人口約2300万人に対して約85万回分にとどまっている。調達難航の理由について台湾の蔡英文総統は中国の妨害工作を挙げた。たとえば、独バイオ企業ビオンテックと契約寸前だったが、「中国の介入で契約できていない」という。
その中国は台湾にワクチン提供を申し出たが、台湾は中国製ワクチンは信用できないとして拒否している。
蔡氏は日本の提供検討を受けて「深い友情に、心から感謝します」とツイッターへ投稿した。自由と民主主義の台湾へのワクチン支援は、日米英豪や欧州連合(EU)諸国が目指す「台湾海峡の平和と安定」にもつながる。
日本は、アストラゼネカのワクチンのうち4500万人超分を国内生産の予定だ。台湾はじめ支援を要する国に提供を急ぎたい。
中国外務省報道官は5月31日、「政治的パフォーマンスや内政干渉に断固反対する」と日本の提供検討を批判した。政府は非人道的な批判を意に介す必要はない。
──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。