日米共同声明への「台湾」明記 コメント  小笠原 欣幸(東京外大大学院教授)

【小笠原欣幸氏Facebook:2021年4月18日】https://m.facebook.com/ogasawara.yoshiyuki

 「台湾海峡の平和と安定の重要性」というあっさりした文言に込められた意味は大きい。この文言自体は日本政府がこれまで繰り返し述べてきたことだが,中国の武力行使を念頭に日米で共同して反対することを表明したのは画期的であり,レベルが一段動いたと見るべきだろう。

 「52年ぶり」ということが強調されているが,1969年とは文脈も国際環境もまったく異なる。その当時,台湾は蒋介石の独裁体制であった。その後「72年体制」が形成され,中国の主張が認められ台湾は国際社会から締め出される形になったが,中国が台湾を統治していないという事実はそのまま残った。台湾は,そのわずかな空間のなかで,経済を発展させ,民主化を達成し,生き延びてきた。

 一方,中国が大国化し,台湾統一に向けて,中国による現状変更の動きが活発化してきた。アメリカは「72年体制」の組み換えが必要だと考え,動き出したということではないか。それが鮮明化したのが昨年であったので,これは「20年体制」となるかもしれない(あるいはバイデン政権の登場に合わせれば「21年体制」?)

 台湾は中国のふるまいに警鐘を鳴らしてきたが,国際社会の多くの国は中国がもたらす経済的利益を重視していた。しかし,台湾は,民主的選挙を通じて統一には応じない意思を表明し,その声も少しずつ届くようになっていた。蔡英文政権の「現状維持」路線が日米から理解されたのも大きい。それが,コロナ危機によって台湾への関心と同情が一気に高まったのが昨年の情況であった。

 米中対立が台湾にプラスになったのは事実であるが,台湾をただのコマと見るのは正しくない。これまでの台湾の民主主義の営み・努力があったからこそである。それを象徴するのが,昨年のチェコの上院議長一行の訪台であった。台湾からすれば,今回の日米共同声明で「ようやく認められた」という思いではないか。

 今回の声明で「平和的解決を促す」という一句が入ったのが中国への一定の配慮という見方もあるが,あまり意味はないであろう。中国からすれば「統一が進むのか妨げられるのか」が関心事であり,日本に対する圧力も強まるであろう。日本としては,たじろがないことが重要だ。

 日本にとって何が重要かを改めて整理する必要がある。台湾海峡で戦争が起こるとすれば,中国が台湾に武力攻撃をするから起こるのであり,戦争を防ぐこと,つまり中国の抑止が最重要事項になる。これは,日本のリベラル派・平和主義派にも共通する問題意識になるハズだ。

 中国がいかなる犠牲を払ってでも台湾を併合するとなれば防ぎようもなくなるが,そういう状況にはない。中国の狙いは,少ない犠牲・コストで台湾を統一し,中国共産党の「すばらしさ」をアピールし,一党体制継続の正当化に使うことだ。台湾を焼け野原にして中国軍も大きな損失を出しての統一は共産党にとっても望ましいことではない。しかし,台湾そして米日が備えをしていなければ,中国は圧倒的な軍事力で台湾を屈服させ,「中国の夢」の実現を宣言する日がくるであろう。

 中国が嫌がることが抑止につながる。中国に対し,しつこく「平和と安定」を呼びかけることも必要だし,同時に,静かに,安保法制に基づいて米軍支援の準備をしていくことも必要だ。各国のゆるやかな連携でも中国はやりにくくなる。それは,中国と対話したり,協力できる分野で協力したりすることと矛盾しない。

 中国は反発して様々な報復をしかける可能性がある。それは日本にも影響が出るが,中国にも跳ね返る。「中国を刺激するのは好ましくない」「緊張を高めるのはまずい」という路線を続けていくと,かえって戦争を招くリスクを高める。

 日本がやれることは限られてくるが(特に軍事面で),その枠の中でも一定の寄与ができる。今回の共同声明はその重要な一歩になった。これを契機に,台湾海峡での紛争予防の議論が広がってほしい。

*小笠原欣幸(おがさわら・よしゆき)東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授 http://www.tufs.ac.jp/research/researcher/people/ogasawara_yoshiyuki.html

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