【世界日報「View point」:2020年8月11日】https://www.worldtimes.co.jp/world/usa/106691.html
トランプ米政権の対中国政策の発表は、実に周到だった。
5月28日に中国の全国人民代表大会が、香港「一国二制度」の弔鐘を鳴らす「国家安全維持法」の制定を決めると、29日、トランプ大統領は、中国を厳しく批判する演説を行った。
すると6月24日、安全保障担当のオブライエン大統領補佐官がアリゾナ州フェニックスで「中国共産党のイデオロギーと全世界への野望」と題する演説を行った。また、オブライエン補佐官は、これを皮切りにポンペオ国務長官、バー司法長官、レイ連邦捜査局(FBI)長官がトランプ政権の対中政策について一連の演説を行うと発表した。
◆18年ペンス演説と符合
この予告通りに、7月7日にハドソン研究所でレイFBI長官が、中国によるスパイ活動について講演し、17日にはフォード大統領博物館でバー司法長官が、経済問題についての講演を行った。そして23日、ニクソン大統領記念図書館・博物館においてポンペオ国務長官が、「共産主義中国と自由世界の未来」と題する締めくくりの演説をした。
そしてこの翌日、アメリカ政府は、中国のスパイ活動の拠点になっていたとして、ヒューストンの中国総領事館を閉鎖させた。
一連の演説は、2018年10月4日のハドソン研究所におけるペンス副大統領の対中政策演説と符節を合わせるものだ。2年前、ペンス副大統領は、「中国政府が、政治、経済、軍事的手段とプロパガンダを用いて、米国に対する影響力を高め、……政府全体にアプローチをかけている」「中国政府は、……米国の経済的リーダーシップの基礎である知的財産を、あらゆる手段を用いて奪取するよう、同国官僚および企業に指示した」「中国共産党は、米国企業、映画製作会社、大学、シンクタンク、学者、ジャーナリスト、地方、州、連邦当局者に報酬を与え、支配しようとしている」「中国はアメリカの世論に対して、2018年、2020年の選挙情勢に影響を与えようとする前例のない取り組みを始めた。中国が米国の民主主義に干渉していることは間違いない」と指摘していた。
今回の一連の演説は、ペンス副大統領の指摘をさらに詳細かつ具体的に説明した。さらにポンペオ国務長官は、中国共産党政権をマルクス・レーニン主義者であると確認し、習近平総書記を、破綻した全体主義の信奉者と断定した上で、アメリカの安全ために「中国を変わらせなければならない」と宣言した。つまり、アメリカの対中政策のゴールは、中国の国家体制を共産主義から自由と民主、法の支配の国へと転換を促すことであると明らかにした。
さて、中国人民解放軍空軍将校であった喬良氏と王湘穂氏が現代戦略に関する著、『超限戦』を出版したのは1999年のことだった(『超限戦』角川新書から本年1月再刊)。
同書は、今日では「あらゆるものが手段となり、あらゆるところに情報が伝わり、あらゆるところが戦場になりうる。すべての兵器と技術が組み合わされ、戦争と非戦争、軍事と非軍事という全く別の世界の間に横たわっていたすべての境界が打ち破られる」と主張した。また、軍事的戦いとして核戦争、通常戦、生物化学戦、生態戦、宇宙戦、電子戦、ゲリラ戦、テロ戦が、超軍事の戦いとして外交戦、インターネット戦、情報戦、心理戦、技術戦、密輸戦、麻薬戦、模擬戦が、さらに非軍事の戦いとして金融戦、貿易戦、資源戦、経済援助戦、法規戦、制裁戦、メディア戦、イデオロギー戦があり、これらのうち複数の作戦様式を組み合わせることで、さらに新しい戦法を作れると指摘していた。
◆無限に拡大する「戦場」
あれから20年、中国は当然に「超限戦」を戦っているはずだ。そしてトランプ政権がアメリカの対中戦略を、職責を異にする政府高官による一連の演説によって示したことは、無限に広がる多様な「戦場」で、すでに戦いは真っ只中(ただなか)にあるということである。「米中新冷戦」はすでに始まっているか、それは日本に及ぶか、などと議論している時ではない。米中はすでに全力で「超限戦」を戦っているのである。(あさの・かずお)
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