王 明理・台湾独立建国聯盟日本本部委員長
6月6日、高雄市で行われた罷免投票により、韓国瑜市長のリコールが成立した。
韓国瑜市長は2018年11月25日の首長選挙に国民党の候補者として出馬し、民進党の牙城と言われていた高雄市で当選。その勢いをかって、総統選挙の国民党候補となった。
市長当選の理由は庶民的な言動と「私と一緒に中国と仲良くして儲けましょう」というノリで掲げた調子の良い公約であったが、公約はほとんど何も実行されなかった。しかも、市長になったばかりなのに、職務を放棄して総統選挙に出る無責任さに高雄市民は深く失望した。市長当選前から中国の支援を受けていることも知られており、昨年の香港の民主化を求めるデモに対しても、民主派に冷たい態度を取ったことから、この人に政治を任せられないという気運が高まっていった。他にも、役所にまじめに登庁しない、重大な約束の時間に遅刻する、女性蔑視、不誠実さなどなど、市民が辟易する要因は多かった。結局、韓国瑜は今年1月の総統選挙で、蔡英文総統に大差をつけられて敗北し、市長の椅子に戻ってきたが、高雄市民は民主主義の手法にのっとってNOをつきつけたわけである。
民主主義国家では、在職者の罷免には高いハードルが課されているのが普通である。今回の場合も簡単な道のりではなかった。その成功は、台湾の民主主義の成熟度を表わすものであった。
高雄市の全有権者(229万9981人)の1%以上(約2万3千人)の「提議」署名提出、審査通過後、60日以内に10%(約23万人)以上の市民の「連署」を提出、6月6日の「罷免投票」で全有権者の4分の1(574,996人)の同意票を得、かつ不同意票を上回ることが必要であった。
提案したのは、若い高雄人4名で、昨年6月に罷免請求運動を始めた。「提議」が可能になる市長就任から1年経った2019年12月26日に、台北の中央選挙委員会に約3万人分の署名を提出し、「連署」には30万人以上の署名を集めた。
そして、迎えた6月6日、必要数を大きく上回る93万9090票の同意票が投じられ、韓国瑜市長のリコールが成立した。ちなみに、不同意票はわずかに2万5051票であった。
敗戦の弁で韓国瑜市長も国民党幹部も、「民進党政権が画策した結果だ」と民進党を批判したが、これは大きな間違いである。NOをつきつけたのは高雄市民であり、地道な草の根運動の積み重ねであったことを、もし、国民党が見えていないのであれば、まさに国民党は終わりである。市民の気持ちと乖離し、政治センスを失っていることを自ら公言したも同然である。
今回の投票の為に、台北や台中に出ている若者達はわざわざ切符を買って、故郷高雄に戻ってきた。私の知人は5月末に予約していた航空券をキャンセルしてまで地元に残って投票した。まさに高い民意がもたらした結果なのである。
一つ注目してほしいのは、罷免投票成功は選挙における投票率の高さと双子の関係にあるという点である。今年の総統選挙、立法委員選挙においても、その投票率の高さが世界中から注目された。台湾国民は、自分たちの運命を任せる政治家を選ぶことに真剣に取り組んでいる。だから、選んだ政治家が何をするのかに関心を持ち、見守っている。
これは、台湾が戦後50年近くも国民党の一党独裁政治体制を経験したことに深く関係している。李登輝総統時代にやっと触れることができるようになった民主的選挙の大切さを身に染みて理解しているのだ。今の香港の活動家と同じように、長い間、台湾の民主化を願い闘って来た台湾人が大勢いる。もし、今の自由を手放して、独裁国家の軍門に下ることになったら、再び苦悶の歴史を歩まなければならない。絶対にそれを阻止する、自由と民主主義を守るのだという気概が、台湾人の共通コンセンサスになっているのである。
今回の罷免成立は台湾人の高い意識の表れであり、民主主義を成熟させてきた証拠だと言える。
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