◆李登輝先生お立会いで寄贈調印式
台湾の人々は桜が大好きです。台湾で「山桜」とか「台湾桜」と呼ばれている寒緋桜が咲き始める1月半ばくらいになりますと、開花情報が盛んに流されるようになります。満開の時期には、陽明山など桜の名所といわれるところは花見客で混み合い、身動きもままならないほどになります。
このような台湾から2005年(平成17年)春、日本の桜を贈って欲しいという申し入れが本会と姉妹関係にあった台湾李登輝之友会からあり、そこで、翌年2月に河津桜の苗木1000本を寄贈したのが始まりでした。
これは、その前年10月に桜が大好きな李登輝元総統お立会いの下、日台で協力して台湾に桜を咲かせようという旨の寄贈調印式を行ってから始まっています。これまで約6000本の苗木を寄贈し、とても喜ばれています。
2010年10月15日には、故蔡焜燦先生が理事長だった李登輝民主協会と桜の苗木寄贈を盛り込んだ「親善交流提携覚書」を結んで河津桜の苗木を寄贈し、李登輝民主協会は台北日本人学校などに寄贈しています。
また、本会の「台湾・桜ツアー」の折は、蔡焜燦先生と台北日本人学校で待ち合わせ、校長先生のご案内で校庭に植えられた河津桜を蔡先生と一緒に愛でつつ、皆さまからいただいた桜募金のご寄付を桜育成費用としてお渡ししたことも何度かありました。
2013年4月には、元第一銀行頭取で、総統府国策顧問だった台日文化経済協会会長の黄天麟先生からの申し出を受け、12月に河津桜100本を寄贈しました。この桜のご縁により、翌年12月4日に本会と台日文化経済協会は姉妹提携して絆はさらに強まり、毎年の「役員・支部長訪台団」では必ず交流の場を設け、楽しい懇談のひとときを持っています。
2017年10月、台日文化経済協会は林佳龍・台中市長(当時)と3年間で600本の桜の苗木を寄贈する「桜寄贈協力覚書」を結びました。これは、本会から寄贈の苗木を用い、仮植えを経た時点で台中市に寄贈、台中市は同市内新社区に植えて桜公園をつくる予定だそうです。
そこで、本会は2018年3月1日、第1弾として大漁桜の苗木200本を寄贈しました(本誌の昨年6月号参照)。この大漁桜は、その日のうちに桃園国際空港から台中市内の仮植え苗圃「員濃種苗繁殖場」に運ばれ、すくすく育ちました。
この種苗繁殖場は、自ら「櫻花張」と名乗る日本の桜が大好きな張洲府氏が運営する、3ヘクタールもあるという花卉農場で、河津桜をはじめ富士桜や吉野桜などの苗木が所狭しと植えられています。桜の枝を這わせたアーチまで造り、花の季節にはその下をくぐって桜を楽しむという凝りようで、本会の「台湾・桜ツアー」では何度か訪れて歓待されています。
◆防疫検疫局に迫られた二者択一
2018年10月、本会は「役員・支部長訪台団」で訪れた折に台日文化経済協会を訪ね、2019年に第2弾の200本、2020年に第3弾の200本を寄贈することで合意し、黄天麟会長後任の杜恒誼会長と渡辺利夫会長の代理として辻井正房・常務理事(当時)が、改めて「桜寄贈合意書」に調印しました。もちろん、この400本は台中市に寄贈する河津桜です。
そこで、合意書に基づいて今年は早くから寄贈の準備を進めてきました。ところが、そろそろ出荷しようという矢先の3月に入って大きな問題が発覚しました。
昨年3月に贈ったのは大漁桜で、今年は河津桜。違う種類の桜なので同じ仮植え地には仮植えできないというのです。つまり台日文化経済協会は、植物の輸入を担当する行政院農業委員会動植物防疫検疫局から、大漁桜を本植えした後に河津桜を仮植えするか、別の仮植え所にするかという二者択一を迫られました。
そもそも台湾では、原則として日本から植物の輸入を禁止しています。木を枯らしてしまう線虫などを入れないためです。しかし、ある条件を満たせば輸入を許可します。農業委員会動植物防疫検疫局が仮植え地に適しているかどうかを判断し、適しているという許可をいただくことが大前提です。
また、日本の植物検疫に合格することも義務づけられています。それでようやく日本から輸出できますが、台湾に到着したら今度は台湾の植物検疫に合格することも義務づけられています。さらにその上、仮植え所に一年間植え、1年後の植物検疫に合格して初めて本植えすることができます。
台湾の植物検疫は厳格です。ある年のこと、移植できない苗木が出ては困るだろうとの配慮で、寄贈本数より1本多く入れて送り出したところ、台湾の検疫で「どうして申請数より本数が多いのか」と問題視され、寄贈先の蔡焜燦先生から事情を説明していただいたのですが聞き入れられず、結局、お贈りした苗木すべてを廃棄処分せざるを得なかったことがありました。
防疫検疫局の判断をくつがえすのはできない相談です。大漁桜を本植えした後に河津桜を仮植えするか、別の仮植え所にするか──。
台日文化経済協会からこのことを相談され、日本では、苗木を冷蔵庫で保管して成長を抑えている状態で、3月ですから苗木と言えど花芽がすでに動き出していて、1日も早く出荷しなければならない状態になっていること正直にお伝えしました。
また、新たな仮植え所を探すのは時間と労力がかかり、早急に探し出すのはほとんど不可能なことです。実は台中の員濃種苗繁殖場は、本会が紹介した仮植え所で、張洲府さんの技量を知っていたからお勧めできたのでした。
これに加えて、新たな問題が発生しました。1本ずつポット(鉢)に仮植えしている苗木はすでに花が咲いて、新たな根を張り出していました。本植えは成長を休んでいる寒い季節に行うのがベストで、すでに成長期に入っていますので、こういう状態では本植えには不向きです。樹勢が弱まり、枯死する可能性もある状況でした。
こういうとても悩ましい状況にありましたが、台日文化経済協会は寄贈先の台中市側とも相談し、最終判断を下しました。なんと本植えせず、根を傷めないようポットごと台中市に寄贈するというのです。
果たして、うまくゆくのかとても心配しましたが、天も味方してくれたようです。3月末近く、新しいポットに土ごと移し替えて台中市に寄贈。台中市の太平苗圃というところに移した大漁桜は1本も枯れず、葉っぱも瑞々しく、すくすく育っていました。
◆河津桜200本が無事に台湾着
ところで、本会から贈る河津桜200本です。
台中の仮植え所の場所が空きましたので、検疫局が改めて実地検分し、ようやく「隔離栽植場所合格許可証」が出たのは4月19日。鶴の首では間に合わず、ろくろっ首ほど長く待ち望んでいた許可証です。今年は本当にいろいろありましたので、台日文化経済協会より許可証が届いたときは嬉しくて天にも昇るような気持ちでした。
苗木の樹勢は万全ではありませんでしたが、苗木を頒けていただいている専門家の「何とか大丈夫だろう」という言葉を頼りに送り出し、日本での検疫も無事にパスして4月24日に空輸。台湾の検疫もパスし、その日のうちに仮植え所に搬送できました。
6月に入って、台日文化経済協会から仮植え所で生き生きと育っている写真を送っていただきました。葉っぱがよく開き、元気に育っている写真を目にした時は心から安堵しました。
ちなみに、昨年11月から始めた桜募金には、3月10日までに46名の方から51万1000円ものご厚志を賜りました。この場を借りて、深く御礼申し上げます。
なお、第3弾となる河津桜200本の寄贈ですが、2020年春はまだ仮植え期間中に当たるため、少し遅らせて12月を予定しています。