日本と米国、台湾の防衛専門家4人がアジア太平洋地域の安全保障について議論するシンポジウムがこのほど、沖縄県で開かれた。主催は、日本と台湾の交流促進に取り組む「日台交流をすすめる会」(廣瀬勝代表)。その中で、台湾の安定と平和は沖縄の利益に直結することが強調されるとともに、緊密な多国間の軍事交流が必要との認識が示された。(沖縄支局・豊田 剛)
◆香港の大規模デモが台湾に飛び火、中国の脅威に警戒を促す
刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする香港の「逃亡犯条例」改正案をめぐり、香港で大規模なデモがこの6月、行われた。これに呼応するかのように、台湾でも独立派議員や若者を中心に3万人がデモを行い、「台湾人は(中国人ではなく)台湾人だ」と叫んだ。中国に対抗する動きは香港から台湾に飛び火している。
こうした動きが今後、日本にどう影響を及ぼすのかが注目される中、日本、米国、台湾の政治家や自衛隊OBらを招いて今回のシンポジウムが開催された。
パネリストには、日本から元自衛艦隊司令官の香田洋二氏、米国から元在沖海兵隊政務外交部次長のロバート・エルドリッヂ氏、台湾からは元国防部長(大臣に相当)の蔡明憲氏と、台湾安保協会副理事長の李明峻氏が参加。
香田氏は、「中国は台湾を狙っているが、軍事力では米国に対抗できない。そのため、米国のアキレス腱(けん)を突く作戦として、宇宙・デジタル分野に照準を当てている」と分析。「電磁波装置を積んだドローンを上空に飛ばすことで、最大20時間ブラックアウト(停電)する。通信不能になれば、通信依存度が高い米政府・軍隊に致命的だ」と指摘した。これに対抗するため、台湾を中心として中国に警戒心を持つアジア太平洋の自由主義諸国が連携し、包囲網をつくるべきだと提案した。
「常に最悪のシナリオを考えるべきだ」と主張したのはエルドリッヂ氏だ。「沖縄県民が中国の脅威と台湾の重要性を認識すべきである」とする一方、「日本政府は台湾を十分認識してこなかった半世紀のギャップを埋める必要がある。台湾の人々の台湾人としてのアイデンティティーは明確だ」と語った上で、日本版台湾関係法の制定を提案した。
李氏は、「日本が台湾関係法を制定するのは賛成」としつつ、まずは憲法を改正し、緊急事態法を制定することを提言。「明確な法制度がなければ、安全保障に貢献できず、台湾を守ることができない」と指摘した。また、来年1月に予定されている台湾総統選挙で国民党が政権を取った場合、中国と「平和協定」を締結する用意があるとしていることについて、「平等な国際条約ではなく、事実上中国の一国二制度を受け入れることになり危険だ」と警鐘を鳴らした。
蔡氏は、「民主主義、自由、人権の尊重という共通の価値観を持つ日米台にとって、インド太平洋地域の平和確保は共通のニーズ」と語った。また、「台湾が米国や日本などと二国間および多国間軍事演習に参加すべきだ」と提案。国交がなくても、米国とは密な軍事交流を続けていることを例示。自衛隊との軍事交流が実現すれば「日米が、『台湾は重要だ』というメッセージを送ることになる」と強調した。
パネリストが口をそろえて警告したのは、台湾の新聞、ネットメディアは中国に買収され、経済的な侵略を許しているという点だ。「立法院選挙への立候補予定者の中には中国から資金提供されている人もいる」と李氏が指摘した。
香港や台湾が直面する問題は沖縄にとって対岸の火事ではない。「香港の戦いは台湾の戦いであり、日本の戦い。すべてはつながっている」(エルドリッヂ氏)、「中国が台湾を侵攻する時は必ず沖縄に最初に来るから、日本はその覚悟と準備が必要だ」(香田氏)などの見解が述べられた