これまで、日本と台湾の政府間で安全保障に関する対話や協議はない。そこで小谷准教授は「警察や海上法執行、災害救援、人道支援での協力を深め、その先に米国も関与した防衛面での協力を追求するのが現実的だと指摘」したそうだ。
本会も、昨年3月に発表した政策提言「台湾を日米主催の海洋安全保障訓練に参加させよ」では同趣旨を提案している。内容の詳細は下記をご覧いただきたい。
◆台湾を日米主催の海洋安全保障訓練に参加させよ 日本李登輝友の会「2018政策提言」 http://www.ritouki.jp/index.php/info/20180423/
————————————————————————————-日台の安全保障対話、実現なら「貢献大」 田中 靖人(産経新聞台北支局長)【産経新聞「国際情勢分析」:2019年3月8日】
台湾の蔡英文総統は2日付の産経新聞との単独会見で、安全保障・サイバー分野での直接対話を日本政府に呼びかけた。日本と台湾の間には外交関係がなく、中国の強い反発が予想される安全保障分野での日台協力は政治的なハードルが高い。ただ、専門家は、実現すれば日本の安全保障にも大きく貢献すると指摘している。
◆提言の背景に中国の軍事的圧力
中国当局が「台湾独立派」とみなし、「一つの中国」を受け入れない民主進歩党の蔡氏が総統に就任したのは2016年5月。中国の人民解放軍はそれ以降、台湾や沖縄周辺を通過して西太平洋に進出する頻度を上げている。
中国海空軍の行動の第一義的な目的は、米領グアムなどを拠点とする米軍への「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略の完成に向けた練度の向上であり、台湾への軍事的な威嚇は主要な任務とは言えない。ただ、中国側は爆撃機、轟(H)6が台湾本島を周回飛行したとする映像を公表するなどして「心理戦」に利用。実際に空母「遼寧」を中心とする艦隊が、部隊配置の手薄な台湾本島の東岸沖を航行して台湾側への圧力を加えた例もある。
台湾の海空軍は中国軍の動向監視のため稼働率を上げざるを得ず、国防部(国防省に相当)は2018年4月、緊急発進(スクランブル)する戦闘機の部品の消耗が激しいとして予備費約6億台湾元(約22億円)の支出を求めた。
◆双方にメリット
台湾の研究者は産経新聞の取材に対し、日台間で中国軍機や艦艇の動向に関する即時情報の交換ができれば、目視で確認する際の捜索範囲を狭めることができ、部隊の効率的な運用が可能になるとして「日台双方にメリットがある」と指摘する。蔡氏も、即時情報の交換は「非常に重要だ」と賛意を示し、「台湾側は割合に開放的(オープン)な態度だ」と述べ、日本側の対応を求めた。
安全保障問題に詳しい明海大学の小谷哲男准教授は、今回の蔡氏の提言について「中国の習近平国家主席の訪日も控える中、日本政府が真正面から応える可能性は低い」としつつも、「日台の安全保障協力を推進することは双方にプラスになる」と指摘する。
小谷氏によると、バシー海峡(台湾−フィリピン間)は「自衛隊にとっていわば死角」であり、同海峡を通過する中国軍の動向を日本の固定レーダーで探知することは難しいという。台湾側も宮古海峡を通過して西太平洋に進出する中国艦艇の動きは探知できていない可能性が高い。バシー海峡から西太平洋に進出し、その後、宮古海峡を経て中国に戻る経路やその逆もあり、即時情報の交換は日台双方が「死角」を補い合う効果がある。
◆まずは非伝統的分野から
また、小谷氏は「中国はサイバー戦の能力をまず台湾に対して試し、攻撃対象を日米などにも広げてきた」とも指摘する。台湾当局は中国からのサイバー攻撃について、交通部(国土交通省)が2016年5月に立法院(国会)に提出した報告書で、「戦争に準じる程度」だと訴えたことがある。小谷氏は「台湾はサイバー戦能力(の重要性)をどこよりも理解している」とした上で、「新たな防衛計画の大綱が重視するサイバー防衛や電子戦支援で台湾と協力できれば、日本の安全保障に大きく貢献する」と述べた。
ただ、日台間の安全保障協力はこれまで事実上、皆無で、「いきなり同盟国並みの協力はできない」のも事実だ。小谷氏は「研究・教育分野での交流を通じて協力の基礎を築くことから始めるべきだ」と訴える。また、警察や海上法執行、災害救援、人道支援での協力を深め、その先に米国も関与した防衛面での協力を追求するのが現実的だと指摘する。民間企業を通じた日台の防衛技術協力の可能性も検討する価値はあるという。
台湾は米国製の兵器を多く使用しており、台湾には米軍需産業の支店もある。自衛隊の装備品と共通する部品を相互に融通することができれば、調達経費の圧縮にもつながりそうだ。(台北 田中靖人)