新緑の季節が過ぎ初夏を迎え、アウトドアを楽しむ季節がやってきました。こんな季節は鉄道の
旅がお似合いです。
台湾鉄路管理局(台鉄)は、6月に蒸気機関車(SL)CT273が牽引する特別列車「仲夏宝島号」を
使ったクルーズ列車を運行すると発表しました。台鉄によると、CT273は、同型であるJR西日本の
「やまぐち号」と姉妹列車提携を結ぶことが決まっていて、この機会にぜひ東部を訪れてほしいと
旅行客にアピールしています。
以前のメルマガで、四国と台湾のサイクルツーリズム(台湾一周と四国一周)の提携が進んでい
ることを報じましたが、じつは近年、鉄道分野でも台湾と日本との間で提携が相次いでいるので
す。東洋経済2015年3月25日付の記事に、ここ数年の提携について掲載されていたので、ご紹介し
ます。
http://toyokeizai.net/articles/-/63926
2012年2月、JR北海道が「SL冬の湿原号」と台鉄のSLとの間で「姉妹列車協定」を締結。2013年4
月、江ノ島電鉄と台鉄・平渓線が「観光連携協定」を締結。同年10月、JR四国・松山駅と台鉄・松
山駅が「友好駅協定」を締結。
2014年11月、いすみ鉄道と台鉄・集集線が「姉妹鉄道協定」を提携。2015年12月、山陽電車と台
鉄・宜蘭線が「姉妹鉄道協定」を提携。
2015年2月、JR東日本・東京駅と台鉄・新竹駅が「姉妹駅関係」を提携。
さらに、京急は羽田に降り立つ台湾旅行客の利用を促進するため、同年3月から台鉄の各駅にポ
スターを掲示してPR展開する一方、日本国内では、友好提携を記念したラッピング列車の運行や、
現地を旅行した人から人気の高い「台鉄弁当」の販売を実施。
羽田アクセスだけではなく、横浜、横須賀、三浦海岸など、沿線の観光地を訪れる際に京急が利
用されることも視野に入れてのことのようです。
ちなみに前述の京急の台鉄弁当は「京急ファミリー鉄道フェスタ2015」で販売されましたが、午
前中で1000食が完売したため、品川駅でも期間限定で販売されました。
西武鉄道も負けずに参戦して提携し、観光PR、記念乗車券の販売、埼玉西武ライオンズ主催試合
で「台湾デー」を実施するなど積極的に協力関係を築いています。台湾デーは今年も4月22日、23
日に行われました。
ここ数年、日本の修学旅行先としても台湾は大人気で、海外の修学旅行先として第一位となった
年もありました。台湾側もそれを見込んで観光アピールをしたり、有名人を誘致した活動を行った
りもしています。
逆に、台湾からの訪日客も安定して高い数字をキープしており、2014年は297万人もの人々が訪
日しています。日本側は、こうした台湾人の日本びいきに便乗しようと観光誘致に熱心です。今年
3月に開業した、台湾桃園国際空港を通る桃園メトロにもさっそく日本の観光地を宣伝するラッピ
ング車輌が登場しました。登場したのは、立山黒部アルペンルートとその周辺の観光PRです。
会社員として勤務しながら台湾史研究家として活躍していた故・三田裕次氏は、よく台湾には
「後発優位性」があると述べていました。後発だからこそ、先進のいい部分だけをマネして先進国
への近道をするという意味です。
鉄道分野を見ると、三田氏の言っていたことがまさによく当てはまります。台湾の鉄道はまるで
日本とそっくりです。自動改札の機械はオムロン製で日本と同じ。台湾新幹線が日本から輸入した
のは、車輌や技術だけでなく、運行システム、ダイヤ、サービスなどのあらゆるソフト面も含まれ
ています。駅構内のデザインもまるで山手線。地下鉄の発車メロディーはJR東日本のものとそっ
くりなケースもあります。
冒頭に紹介した蒸気機関車も、戦前の日本で「貴婦人」と呼ばれていたものと同型のものが台湾
で走っているのです。
言うまでもありませんが、そもそも台湾の鉄道は日本時代に日本が作ったものでした。世界最大
登山鉄道の一つに数えられている阿里山鉄道も日本人が作ったもので、そこで使われている枕木は
横浜から船で台湾に運び込んだものだという説もあります。日本のおかげで、明治時代には台湾全
島における鉄道網は完成していました。
李登輝総統以後の台湾は、日本の優れた鉄道システムやサービスなどの多くをマネて、急速にイ
ンフラを発展させてきたのです。マネされることで日本の商機にもなり、台湾は短時間で発展でき
る。その上、相互信頼の上に成り立っている関係であれば、技術移管の後の相互交流による情報交
換や相互理解も促進できると、いいことづくめです。
八田與一の像が壊された事件でも再確認できたように、日台は厚い相互信頼の上に成り立ってい
ます。その上での技術交流は、多くのビジネスを生み、多くの相互理解を生み、観光客誘致も可能
とします。中国やロシアが北極圏の権益で競い合い、中国と北朝鮮が面子を重視して睨み合ってい
る間に、日台は着々と絆を深め合う交流を進行させているのです。
馬英九時代、中国に媚びへつらう馬総統は数百万人の中国人観光客を台湾に誘致しました。とこ
ろが彼らは、無秩序で騒々しく、マナーを守れない非文明的な態度だったため、台湾人たちは非常
に困惑しました。
道路の真ん中で小便をし、地下鉄でラーメンを食べ、信号は守らないなど、彼らの愚行は枚挙に
暇がありません。このような姿は、台湾のみならず、世界中で報道されているので、みなさんもご
承知のとおりでしょう。
さらに中国人観光客の旅は、バス、ホテル、買い物などすべての行動に中国人業者や中国企業が
絡んでおり、観光客が落とすお金は中国企業が残らず持ち去ってしまうため、観光地に残されるの
は大小便だけという悲惨な状況でした。
こうした状況を台湾では「一条龍」(1匹の龍)と呼んでいますが、頭から尻尾まですべて中国
人業者が取り仕切っていることを意味します。
そんな中国人観光客でも、数の多さから旅行業界は利益を享受することができたため歓迎してい
ました。しかし、蔡英文総統になってから「92共識」(台湾国民党と中国共産党が1992年に「一つ
の中国」を確認したとされる共通認識)を認めないことに腹を立てた中国政府は、中国人観光客を
台湾に行かせないようにしました。観光ビジネスへの政治的な介入です。
しかし、中国人観光客が抜けた穴は、日台のビジネス界の協力により日本人観光客が埋めるよう
になったのです。日台鉄道の各種提携は、その対策のひとつだったのではないでしょうか。
日本人観光客は、マナーもよく観光地にお金を落としてくれます。台湾では、中国人観光客がい
なくなったところで困る人はいないどころか、むしろ皆がハッピーとなっているのです。