ワイズメディア 編集長 吉川直矢(Yoshikawa Naoya)
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前回は228事件の際、台南市の学生・市民による武力蜂起を断念させることで多くの命を救い、自らは国民党軍によって処刑された日台混血の弁護士、湯徳章(1907〜1947)について取り上げた。今回の「ニュースに肉迫!」では、『汝、ふたつの故国に殉ず』(角川書店)を刊行し、湯徳章の生涯を初めて日本人に広く知らしめたノンフィクション作家、門田隆将氏のインタビューをお伝えする。話は湯徳章から、228事件に見える中国の本質、日米台による中国覇権主義に対する連携の必要性へと展開していった。
──なぜ、湯徳章という人物を描いたのですか?
門田:228事件は、初めて台湾を訪れた1987年当時はタブーで、その後の民主化で解明が進んだ過程をずっと見てきたため、いつかは描きたいと思っていました。湯徳章に焦点を当てたのは、日本人であり台湾人であることが大きな要素でした。両方の気持ちを持っているため、日本人は彼を日本人として見て、台湾人は台湾人として捉えるので、双方から感情移入できるわけです。
そして、やったことがとにかく壮烈でした。台南の多くの学生や市民を助けて、自分は一人で罪をかぶって、台湾語で「私には大和魂の血が流れている」、日本語で「台湾人、バンザーイ」と叫んで死んでいる。この事実だけで深く感動したため、ぜひ書きたいと思いました。
「徳章以上の人物なし」
──湯徳章は、日本と台湾にとってどのような意味を持つ人物と考えますか?
門田:日本と台湾の絆、台湾が歩んだ苦難の歴史、毅然と生きる日本人・台湾人を、すべて兼ねそろえて表現できるのは、湯徳章をおいて他にはいないのではないでしょうか。日本と台湾は大きな絆を維持しなければならないことを深く知り、それを体現した人です。そして将来も、双方が人権を尊重し合って、普遍的価値を守らなければならないことを分かっていた人でもあります。
人権の概念がまだ知られていない時代に、台湾人の人権確立のために奮闘したことも素晴らしいし、228事件でも「暴動はいかん」と学生たちを説得して武器を回収する。蒋介石、国民党政府の本質を明確に認識した上で、学生らが虐殺に遭うことを回避すべく動いた。現状認識も未来予測も、取った行動もすべて確かだったわけです。事件が鎮圧され、人権、自由、民主といった普遍的価値が踏みにじられようとしたときに、「台湾人よ、絶対に負けてはいかんぞ」という叫びを発して死んでいった。日本と台湾にとってこれ以上の人物はいないのではないでしょうか。
──湯徳章の取材で最も印象に残ったことは何ですか?
門田:彼の最後の姿を描写するために、できるだけ多くの目撃証言を集めました。その際、「湯徳章は平然としていた」と皆が口々に語ったのです。「これから処刑される人だなんて思いませんでした」とか、誰もがその平然ぶりを語るわけですよ。「疑いをかけられるくらいなら切腹して果てる」といった、昔の日本人ような覚悟を決めていたわけですね。
その模様を語ってくれる人、書き残してくれた人たちの熱い思いを感じました。すごい人物だったということをあらゆる人が私に教えてくれた。とても印象深かったですね。
危機感薄い日本
──先月行われた228事件70年の記念講演では、事件は日本統治によって法治社会となり教育水準も向上した台湾社会と、人治で腐敗が目立つ中国人社会の間で必然的に起きた「文明の衝突」との見方を語られていました。湯徳章を描いたのは、対外膨張を続ける中国に対して覚悟を持つよう日本人に訴える意図もあったのでは?
門田:そのとおりです。今日本で起きていることは、右と左の対立はとっくに終わり、ドリーマーとリアリストの「DR戦争」なのです。要するに現実が見えている人と見えていない人の対立です。
中国は、チベットから始まって、インド、ソ連、ベトナムと数々の周辺国と戦ってきました。それでも「中国は攻めて来ませんよ」と日本のドリーマーたちは言います。しかし、そういう話を聞いていたら大変なことになります。
中国は1992年の領海法で、尖閣諸島を自国の領土と定めました。乗り出してくる準備はできているけれども、米国が存在するからできないだけで、日本社会はそういう中国に対する危機感があまりにも薄いと思います。中国が来ることは歴史が証明しています。228事件は中国の本質を示しており、冷徹に将来を予測して、自分の命まで犠牲にして行動した湯徳章の究極のリアリズムに学ぶことは多いでしょう。
日米台はスクラムを
──評論家、石平氏との対談の近著『世界が地獄を見る時』では、日米台の連携によって中国に当たるべきと主張しています。
門田:何千万人もの人が第2次世界大戦で亡くなり、その多くの犠牲の下にたどり着いた自由、人権、民主という普遍的な価値。それを踏み潰そうとしているのが中国です。中国共産党は、弾圧によって国内の統治を続けてきたため、政権を下りることは死を意味します。民主化は論外で、政権維持のために死にもの狂いの戦いを挑む、非常に危険な体質を持った独裁政権です。
米ハドソン研究所中国戦略センターのマイケル・ピルズベリー所長は、ベストセラーの「China 2049」で、「中国は覇権を求めたり、国際社会に戦いを挑んだりすることはない」といった中国共産党のうそに皆がずっと騙されてきた。それは大きな過ちであり、中国は建国100年の2049年に世界に覇権を唱えることを目標にしていると指摘しています。
そうした事態を食い止めるラストチャンスが、この2017年から始まっている対中経済戦争です。
中国の独裁政権を倒さなければならないけれども、武力は使えない。そうすると、経済ががたがたになって民衆の不満が爆発するような状況に導こうと、トランプ米政権は金融、関税とさまざまな手段を打ち出していくと考えています。中国の経済破綻と、内部からの変化を導くよう、日本、米国、台湾の同じ普遍的価値観を持つ者同士はがっちりとスクラムを組んでいく必要があると思います。