【AC論説】ヒラリードットコム・ゲート

【AC論説】ヒラリードットコム・ゲート

                 Andy Chang

ヒラリー・クリントン元国務長官が公務通信に彼女の個人のメール
アドレスを使用していたことが問題化したので、ヒラリーは3月10
日、ニューヨークで記者会見を開いて釈明した。

ヒラリーは2016年の大統領選挙で民主党の最有力候補とされてい
たが、このスキャンダルで違法行為を究明されることになったので、
たとえ出馬しても当選は無理と言われている。ヒラリードットコ
ム・ゲート、またはイーメール・ゲートと呼ばれている。ヒラリー
は記者会見で問題の鎮静化を図ろうとしたが、その逆にパンドラの
箱を開けてしまった感がある。

アメリカ政府の規定では、公務執行中は公務用のメールアドレスを
使うことが義務付けられているが、ヒラリーが国務長官に就任した
2009年にはまだ規定がなかったという。しかし規定した後もヒラリ
ーは規定を無視して私用スマホで個人メルアドを使用していたこと
が去年8月に発覚した。ヒラリーは今年一月になってからようやく
5万5千通のメールのコピーを提出した。しかもヒラリーは一般の
サーバーでなく、クリントン家の自宅サーバーを使用していた。

●ヒラリーの記者会見で述べたウソ

記者会見でヒラリーは次のような4点の説明をした。

(1)国務長官に就任した時に、公務用と私用のスマートフォン(ス
マホ)、二つのスマホは面倒だから、一つに絞って私用スマホを使う
ことにした。当時はこれが許されていた。
(2)私用スマホから発信したメールは受信者の公用アドレスに送
信したので、受信者は規定に従って政府に提出され保存された。
(3)引退後、政府は国務長官に在任中のメールの「コピーの」提
出を求めた。私は要求に従い55000通のコピーを提出した。しかし、
プライベートなメール、例えば娘の結婚式などのメールは提出せず、
「消去してしまった」。
(4)更に私は、国務省に提出したメールすべてを公開するよう要
求した。私用スマホで国家機密を送信したことはなかった。

この四つの声明はみんな嘘の塊である。
(1)ヒラリーは「公用と私用の二つのスマホは面倒だ」と言った
が、実際にはiPhone、Blackberry、iPad二個の計4つの私用スマホ
を使っていた。更に彼女はヒラリーだけでなく別のメルアドを使っ
ていた可能性もあると言われる。
(2)政府の規定ではメールの提出を義務付けられていたが、受信
者側が規定に従って提出したのに、彼女だけが規定に反して提出し
なかった。しかもヒラリーは2012年に国務長官の通達として公務員
の私用スマホを禁止しただけでなく、私用スマホを使った直属部下
の駐ケニヤ大使を免職処分にしたのである。部下に対して法規に従
えと命令し、本人は法を犯したのである。
(3)政府がメール提出を求めたとき、彼女は55000通のメールを
「紙にコピーして」提出した。紙に印刷されたメールでは違法行為
があったかどうかの調査はできない。メールの提出は電子メールの
コピーでなければならない。また、彼女はプライベートのメールを
消去したと説明したが、彼女には公私の「判断する権利」はない。
「不都合メール」を消去した疑いが残る。提出しなかったメールを
消去する権利はない。証拠隠滅である。しかもヒラリーは自宅サー
バーの提出を拒否した。

オバマ政権は2011年に二つの行政命令を出している。一つ目は公務
員の私用スマホの私用を禁止したこと、二つ目は公務メールをすべ
て政府が保存することである。2009年の就任当時は私用スマホが「許
されていた」としても、2011年の命令に従わなかったのは違法行為
である。しかも2012年には本人が部下に通達を出している。

●AP通信社が国務省を告訴

記者会見の翌日11日、AP通信は米国の国務省を告訴すると発表し
た。AP通信はアメリカの情報公開の自由(Freedom of Information Act)
でヒラリー在任中のメール提供を国務省に申請していたが、国務省
はAP通信の要求を数年間放置したままだった。だからAP通信は遂
に国務省を告訴することにしたという。

AP通信だけでなく、国民が最も知りたいことはベンガジ事件と呼ば
れるヒラリーの部下だった駐リビア大使ほか三人がリビアのベンガ
ジ市でテロ攻撃を受けて死亡した事件の詳細である。テロ攻撃が始
まった際にヒラリーとオバマはホワイトハウスで攻撃の消息一切を
聞きとっていたが、オバマは救援隊を派遣しなかった。そして四人
の死亡が確認された後もベンガジ事件をテロ行為ではなく、ある男
のビデオに抗議した事件だったと強弁したのである。

ベンガジ事件の調査委員会の主任・トレイ・ガウディ国会議員は、
事件当時のメールと自宅サーバーの提出を要求している。

●クリントンスキャンダルの多いこと

クリントンのスキャンダルは私用スマホの使用やメール消去などの
一か月ほど前から外国献金問題が問題化していた。ワシントンポス
トの報道によると、クリントン基金会(ビル、ヒラリー、チェルシ
ーの基金会)が2001年から今日までに20億ドル以上の献金を集め
たことを素っ破抜いたが、この基金会は多くの外国の献金を受け取
っていた。

ヒラリーが2009年に国務長官に就任し、基金会はヒラリーが政府の
要職に就いたので外国の献金を断ると通達したが、2014年にヒラリ
ーが退職すると同年12月には外国にヒラリーが公務を引退したの
で再び献金を受け付けると通達したと言う。

報道によるとサウジアラビアの献金は1000万〜2500万ドル、アラブ
酋長連合国は100万〜500万ドル、このほかにカタール、アルゼン
チン、オーストラリアなども献金リストに入っている。

ヒラリーは大統領選挙に出馬すると言われ、国内国外でも彼女がア
メリカ大統領になる可能性を報じている。しかし、たとえ当選した
後に外国献金を返還したとしても献金の恩情は残る。大統領が外国
の献金を受けたら政治にどんな影響を与えるか。彼女に大統領の野
心があったら初めから外国献金を断るべきだった。それなのに引退
したから再び献金を受け付けると言いだしたとは呆れる。

●ウオーターゲートとヒラリーゲート

アメリカのメディアは民主党贔屓で、ヒラリーやビル・クリントン
のスキャンダルの報道を避けてきたが、記者会見後は三大テレビが
少しだけ報道するようになった。フォックスニュースは共和党系で
ベンガジ事件やヒラリー献金問題などを追及していたが、AP通信の
告訴で今後はスキャンダル報道がエスカレートすると予想される。

民主党員はヒラリーの「消極的支持」が多く、やがて問題が沈静化
して彼女の立候補に影響を及ぼさないことを願っている。だが彼女
が本当に立候補すれば共和党候補にとっては願ってもない有利な選
挙となるであろう。

ウオーターゲート事件の後、政府がらみのスキャンダルはみんな何
とかゲートと呼ばれるようになったが、ヒラリーのメール消去は、
ニクソンテープの消去にソックリである。ニクソンはウオーターゲ
ート事件の介入を否定し続けていたが、ホワイトハウスでは常時録
音が設置されていたことがわかり、国会がテープの提出を求めた。
するとニクソンは録音テープをタイプした文書を提出し、おまけに
秘書が録音テープを18分ほど「間違って消去した」と発表したので、
一挙にニクソン罷免問題、ニクソン辞職に発展したのだった。ヒラ
リーの個人メールのタイプと部分消去は、ニクソンテープとそっく
りである。スキャンダルは始まったばかり、ヒラリードットコム・
ゲートはどんどんエスカレートするだろう。


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