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「台湾の声」編集長 林 建良(りん けんりょう)
林益世前行政院秘書長(官房長官相当)の収賄事件は台湾の政界にメガ級の爆弾となった。どこまで波及するかは予想もつかないが、今もっとも戦々恐々としているのは馬英九ではないだろうか。
そもそも43才の林益世を官房長官にまで抜擢したのが馬英九であり、馬英九の虎の威を借りなければ林益世もここまで大胆にはなれなかった。
2010年に林益世は、半官半民の会社「中鋼」の鉄残滓を仲介して、「地勇」という会社の社長陳啓祥氏から6300万台湾ドル(約1億9千万円)の賄賂を受け取った。そのわずか二年後「仲介更新料」としてさらに8300万台湾ドル(約2億4千万円)を要求している。
それを拒否した陳啓祥氏へは後に鉄残滓の供給が断たされ、会社の経営も行き詰まった。それに怒った陳氏が台湾の週刊誌「壱週刊」へ林益世の賄賂要求を暴露し、検察当局にも自首した。陳氏が提供した録音の中に賄賂要求の生々しいやり取りが決め手となって、林益世は7月2日に収賄容疑で拘留された。
しかし、この収賄事件は林益世一人だけの単独犯行なのだろうか。果たして彼の犯行はこの一件だけなのか。当然ながら疑問は持たれる。
実際録音されたやり取りの中には副総統の呉敦義の名前も出てきている。林益世が自分は呉敦義に政界の裏工作を全権任せられていると自慢していた。
呉敦義はこのやり取りについて、「林益世は嘘つきだ」と切り捨てたのだが、贈賄者である陳啓祥氏自身が、呉敦義の親族経由で林益世と知り合い、合計2000万台湾ドル(約6000万円)を呉敦義の支持者に渡したと証言している。
今のところ検察当局は呉敦義への捜査をしていないが、呉氏に関わる疑惑へ繋がる関係者の証言が次から次へ出てきている。
民進党は陳水扁の金銭疑惑で政権を失ったが、国民党は民進党以上に金権体質である。今の台湾人には結局民進党も国民党も同じ穴のムジナだと既成政党に対する不信感が深まっている。
このような状況は台湾人全体の不幸だ。政治の世界がこのような金銭まみれの状態では、台湾の建国も夢のまた夢に終わる。