永山英樹
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■台湾陥落で崩れる東亜のパワーバランス
アジアで勢力を拡大する中国に宥和政策を強化する台湾の馬英九政権がECFA
(経済協力枠組み協定)を締結するなど、いよいよ台中経済の一体化へと歩を進
めつつある中、台北市内では七月十九、二十日、国際シンポジウム「台頭する中
国覇権の地域への挑戦」が開催され、台湾内外に警鐘が打ち鳴らされた。
主催者である新台湾国策シンクタンクの辜寛敏理事長は開会の挨拶で次のように
述べた。
―――中華人民共和国の建国以来、台湾を領土に編入すべしとの北京の立場が変
わったことはない。ただこれまでは武力でそれを達成できなかった。
―――しかしもし台湾内部で分裂、崩壊の事態が発生すれば、中国は「戦わずし
て勝つ」可能性がある。
―――馬英九政権の最近の政策は、すでに国内分裂の不安を醸成している。だか
ら馬政権の中国政策には反対するのだ。
―――注意を要するのは、中国はまさに台湾の民主自由社会の特性を利用し、各
種の力で台湾社会に影響を及ぼし、台湾の将来にも影響を与えようとしているこ
とだ。
―――台湾はアジア太平洋地域の平和と安定を守るための一つ目のドミノ牌だ。
もしこれが中国の手中に陥れば、半世紀以上続いた東亜のパワーバランスは未曾
有の破壊を蒙ることとなる。
■新疆、チベットの次が台湾、そして太平洋沿岸
演説に立った民進党の蔡英文主席の訴えは次のようなものだった。
―――中国は新疆やチベットを制御しながら中央アジア諸国などとの関係を強化
するとともに、太平洋沿岸全域をも勢力範囲に収めようとしている。それは台湾
を支配したいからだ。
―――台湾を牽制し、第二列島線まで遠洋戦略を及ぼそうとしている。
―――中国の台湾への策略は「経済」と言うオブラートに包まれているが、その
軍備拡張は脅威となっており、民主国の台湾には有効な」策略とは言えない。
―――COP15では中国が自国の発展しか考えていないことが明瞭となった。
韓国の哨戒艦事件では、責任ある大国になる気がなく、安全問題に関わる気もな
いことも明らかになった。
そして「馬英九政権は中国を通して世界との繋がりを持とうとしているが、民進
党は先ず世界と連結したいと考えている」とした上で、確立を訴えるのが「環太
平洋パートナーシップ」だ。
■台米関係の強化が東亜・太平洋を守る
「ASEANプラス1、ASEANプラス3などで台湾と米国の周辺化を行おう
としている」中国へは有効な対抗策になると主張する蔡英文氏。「すべての民主
主義国家の参与を求めたい」と強調した。
一方、米国のランディ・シュライバー元国務次官補も「私たちは中国の台頭がア
ジア各国や台湾人民に脅威を及ぼすことを望んでいない」とした上で、次のよう
に述べた。
―――台湾は中国の「統一」「一国二制度」の意図に注意を。台湾の中国との交
流の意図とはまったく異なる。
―――とくにECFAが調印された今日、対米関係の強化が対外政策の第一の要
務となっている。
―――「米国は中国台頭の前で協力パートナー関係が必要だ。中国が興起する問
題の解決上、最も重要なパートナーとなるのが台湾だ。
―――また日本、インドなどとのパートナー関係の強化も必要だ。もし中国が台
湾に対する政治関係の上で変化を見せたとき、こうした国々との関係構築が、台
湾を守る鍵となろう。
■日台の政権交代がなければ東アジアは危ない
シンポには複数の日本の安全保障問題の専門家も出席した。その一人である軍事
アナリストの小川和久氏は「中国が台湾への武力行使の方針を放棄しない限り、
両者衝突の可能性は排除できない」とした上で、「衝突の結果次第で中国は、日
本への企図、米国への政策を決定する。日米はさらに積極的に協力し、中国台頭
に対処しなければならない」と語った。
このように日本もまた、「環太平洋パートナーシップ」の確立が求められている
。
そして日米関係だけでなく、日台関係の強化も急務となっているのだ。
なぜなら日本の民主党政権もまた、基本的には馬英九政権と同じく、対中宥和路
線を採用してきているからである。
このところ「日米同盟の強化」の「現実路線」を強調する民主党政権だが、「東
アジア共同体」「日米中正三角形」などの主張で見られた如く、親中左翼的な思
想が同党の基本にあるのは否定できない。
中国は台湾に対してよりもはるか以前から、日本に対して「各種の力で社会に影
響を及ぼし」ていることも、これでよく理解できよう。
一方の台湾だが、二〇一二年の総統選挙で民進党が政権を奪還するかが、東アジ
ア・太平洋地域の平和と安定を守りぬくことができるかの鍵の一つとなりそうだ
。
もし日本側から台湾へ、連携のアピールを力強く送ることができれば、中国の脅
威の前で不安に駆られる台湾国民を大きく励まし、国家の進路を選択する彼らに
大きな影響を及ぼそう。しかし問題は、民主党政権下の日本にそれができるかだ
。
日本で政権交代が行われ、中国に対して毅然たる姿勢を見せることができるかど
うかもまた、地域の平和に深く関わる鍵となっているのだ。
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