ブログ「台湾は日本の生命線!」より
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■台湾「大使」の日本メディアへの反論
二月二十六日の産経新聞に台湾の駐日大使に当たる馮寄台駐日代表が寄稿している。タイトルは「ハイチ支援を政治化させなかった台湾」。
台湾と外交関係を結ぶ数少ない国の一つであるハイチでこのほど大地震が発生し、多大な犠牲を出しているが、台湾の孤立化を目指す中国と、それに抵抗する台湾との間で、従来の国交締結国争奪のための援助競争が、そのハイチを舞台で始まった報じる日本メディアへの反論のようだ。
また、それと同時にこの文章は、国民党政権の自己宣伝でもある。日本国民の台湾支持者層は台湾独立派や民進党に好感を抱き、国民党に対しては「親中反日」だとして反撥する傾向が見られるため、「決してそのようなことはない」と強調しなければならないのだろう。だからここには民進党批判もしっかりと書かれている。
そこでその内容を具体的に見てみよう。これを読むと、外省人(在台中国人)主導の国民党・馬英九政権の外交姿勢がよくわかる。
■中国との外交競争を停止した馬英九政権
―――馬総統はいう。「人道支援は行うが、いかなる政治的な救援活動も行う意思がない」。換言するなら、われわれがハイチに抱く特別の思いを政治問題化すれば、本質を見誤ることにもつながる。
―――中台両岸は過去の闘争で、統一か独立かの問題を解決できず、憎しみをより深めた。そして8年間の民進党政権は反中政策をとり、両岸の相互往来を阻止してきた。
―――民進党時代に台湾と中国は、第三世界の国々との国交をめぐる争奪戦を展開し、台湾は9カ国を失い、3カ国と新たな外交関係を結んだ。
―――手にしたものもあるが、損失も大きい。報道によると、2007年に中国は中米コスタリカを4億8000万ドルで買収、台湾と断交させたという。アフリカのリベリアは台湾と国交を3回結び、3回断交した。これらの国々は両岸の矛盾を利用し、国交を商品のように扱ってきたともいえるが、馬政権発足後、こうした“外交売買”はなくなった。
馮寄台氏はこのように、不毛な「外交売買」をなくした馬英九政権の功績を強調している。
同政権のこうした外交政策は「外交休兵」と呼ばれている。それは中国との「関係改善」の一環として、外交競争を休止すると言う意味だ。
しかし「外交休兵」「関係改善」とは聞こえがいいが、その実態はどうだろう。
■中国への歩みよりは台湾の敗北主義が為せる業
馮寄台氏が何と言おうと、中国側は「外交休兵」ならぬ「外交用兵」のままだ。だから産経新聞(一月二十四日)もこう伝える。
「ハイチに駐留している国連平和維持活動(PKO)の『国連ハイチ安定化派遣団(MINUSTAH)』に中国が多数の要員を派遣し、現地での存在感を高めている」「中国がハイチとの国交樹立を狙っているのは明らかで、ハイチが中国と国交を結べば、台湾外交の橋頭堡であるドミニカ共和国など、台湾との国交締結国がドミノ式に中国側に寝返る恐れもある」
ところが馬英九総統は一月二十日、「今回の地震救済では両岸間に政治操作はない」と強調する無警戒ぶりだ。その例としてハイチに派遣中の台湾救援隊が「救援隊は六十数名の中国平和維持部隊に保護されている」ことを挙げた。たしかにMINUSTAHには中国の軍人が六十数名が含まれているのだが・・・。
そこで民進党などから囂々の非難を浴びた。「中国軍ではなく国連の部隊に保護されているのだ」「これからも中国軍に保護を求めるのか」「このような総統を戴くのは台湾人の悲哀だ」と。
しかもこの発言は国共内戦における「一江山戦役」(一九五五年)の国民党側の戦死者の記念行事の会場で行われたのだから、この無警戒さには敗北主義の臭いが漂う。
■「外交休兵」で友好国からも冷遇される
国際法上、国家の要素として「領域」「人民」「権力」とともに、しばしば挙げられるのが「外国からの承認」である。「一つの中国」原則なる主張の下、台湾からすべての国交締結国を奪い去ることを外交政策の最大任務とする中国の前で「外交休兵」などを打ち出しては、自らの国家主権を更なる危険に晒すのではないか。
一月二十七日、馬英九総統は国交を持つホンジュラスのロボ大統領の就任式に出席のため、同国を訪問。翌二十八日には同じくドミニカに立ち寄り、フェルナンデス大統領とハイチの復興支援について話し合った。そして三十日に帰国し、「外国との友好を強化し、更に一歩台湾の国際空間を広げてきた。今後もこれを継続する」と自画自賛したのだが・・・。
実は専用機から降り立つこの台湾の国家元首を出迎えたのは、ホンジュラスでは外交顧問(元外交官)だけで礼砲もなかった。ドミニカでも出迎えたのは外務次官のみだった。
これは台湾側の「外交休兵」姿勢に安心し、心置きなく中国に配慮して行った冷遇ではないだろうか。
やがてこれらの国は、台湾の側から中国の側へと乗り換えるかも知れない。何しろ台湾自身が中国の側へ歩み寄っているからだ。
■中国との「関係改善」の前提となる「主権」否認
また、民進党・陳水扁政権は、台湾は「主権国家」であるとして国連加盟を目指し、「一つの中国」を主張する中国と激しく対立したが、馬英九政権は「一つの中国」(「中国」とは中華民国だなどと言っているが)を認め、「主権国家」だとの主張をトーンダウンさせ、台湾国民の夢である国連加盟(あるいは国連復帰)を求める動きを停止した。
もちろんすべては中国との「関係改善」のためだ。中国側の提示する「関係改善」条件は台湾が「一つの中国」を認めることだから、自ずとこうなるのである。
しかしこうした馬英九政権の姿勢に国際社会は、台湾自らが「中華人民共和国の一部」と認めたとの印象を受けざるを得ない。
■中国が台湾外交への妨害を止めることはない
馮寄台氏がいかに「外交休兵」の功績を強調しても、それによって台湾の主権国家としての「国際空間」が広まるどころか、逆に狭まるばかりなのだ。なぜなら中国側は台湾が低姿勢に出ても、断じてその外交活動だけは許さないからだ。「外交」とはそもそも、「国家」の活動なのである。
たとえば〇八年十一月、台湾のメディアから「馬英九総統の外交休兵をどう思うか」と聞かれた中国外交部の秦剛報道官は、「国家元首」の呼称である「総統」に猛反撥し、「先ずあなたの質問には不正確なところがある。世界で中国はただ一つだ。あなたは呼称に注意しなさい」と叱責した上で、「『一つの中国』原則の前提で、台湾人民の福祉と利益の問題を真剣に考えたいと思っている」「国際社会において『二つの中国』や『一つの中国、一つの台湾』を作り出すことには断固反対する」と恫喝している。
もちろん「外交休兵」の「外交」も許容しないことだろう。事実、中国はその四文字を取り上げることはない。
■馬英九政権側だけの一方的な「外交休兵」
ただ、たしかに「関係改善」によって中国による台湾外交への妨害件数は以前より減少はしている。
だがそれは「外交休兵」なる亡国政策を台湾側に継続させたいからと見られている。台湾国民の前で馬英九政権に外交政策に花を持たせ、当面はこの便利な傀儡を延命させようと、あの国は考えているはずだ。
しかしあまり表面化することのない台湾の国会外交に対しては、相変わらず妨害を続けている。昨年二月に王金平立法院長(国会議長)がベルギーを訪問した際、上下両院議長との公式会談が中国の圧力によって取り消された。
そのため国民党内部でも、「馬政権は一方的に外交休兵を宣揚するが、中国に対等の休兵を要求することができない。そして中国はつねに国際社会での台湾の生存空間に圧力を掛けるという風刺的な状況だ」との認識が持たれている(自由時報、一月四日)。
やはり中国側は相変わらず「外交用兵」なのだ。
■「中華民国」の国名取り下げをも辞さず
中国はこれまで、「一つの中国」に反するとして、台湾のWHOへの加盟はもとより、総会へのオブザーバー参加すら強く反対してきたが、昨年はその姿勢を一転させ、オブザーバー参加を容認した。
これについて馮寄台氏は同年五月、産経新聞の取材に対し、「これは台湾が前政権と違う政策を打ち出したおかげ」「WHO総会でも『中華民国』という呼称にこだわらず、『中華台北(チャイニーズ・タイペイ)』という呼称で参加している」「馬政権は外国の友だちが受け入れられる政策を打ち出してきた。世界の友だちが受け入れられる方法を中国と協議して、WHOなどの国際機関に入ることは合理的なことだ」などと得意げに話していたが、WHO総会への参加など、台湾が「主権国家」であることを主張しないことへの中国側の見返りにすぎない。
中国の前では「中華民国との呼称にこだわらない」と言う馬英九政権。しかしこれまで国民党は国内では台湾建国に反対し、中華民国体制の防衛をヒステリックなまでに叫んできたのではなかったのか。そして「一つの中国」の「中国」とは中華民国を意味するのではなかったのか。
驚くなかれ同政権は、各国駐在の代表機関のホームページから、中華民国旗のデザインも次々と削除している。これも「前政権と違う政策」と自慢するのか。
「中華台北」との名称を受け入れ、国内では「中華」は「中華民国」を指すとしながら、対外的には「チャイニーズ・タイペイ」(中国人民共和国の台北)だと自ら認めるに等しいのである。
■「和中」とは実は「降中」―敵わぬ敵とは戦わない在台中国人政権
馮寄台氏は今回の寄稿で、次のように語る。
―――馬政権は、「反中」でも「親中」でもない「和中」という中道路線を歩み、民間と力を出し合ってハイチ支援ができることを誇りに思っている。世界が一日も早いハイチの復興を願う今、国交問題を持ち出したり、人道支援に過度な解釈を加えたりする必要はない。
まさに敗北主義者の言である。
「和中」とは「中国と仲良くする」との意味。「親中」とは異なる「中道路線」だと言うからには、より主体的な対中「関係改善」政策を進めているかの印象を受けるが、これが日本の報道機関を利用した日本国民への欺きであることは、「外交休兵」を見るだけでも明らかだろう。
台中間の「関係改善」が、「一つの中国」を馬英九政権が掲げたことによって始まったものであることは周知のとおりである。
同政権が「ハイチ支援を政治化させなかった」のは、「ハイチの復興を願う」ためと言うより、中国との摩擦だけは避けたいとの一念からだろう。だから馬英九政権の「和中」は、台湾ではしばしば「降中」とも呼ばれている。
馬英九氏も馮寄台氏も外省人だが、さすがに中国人は敵わぬ相手と無駄な戦いはしないようだ。しかしそれでは、台湾人はいったいどうなるのか。
■日本人に安保問題での誤認識もたらす寄稿
こんなことも書いている。
―――馬英九政権は、台湾住民の権益を守るため、空路と海路の直航便や投資保障など12項目に及ぶ協定と金融覚書(MOU)を中国と締結。中台間で経済協力の新たな枠組みとなる基準作りに努めている。
最終的に台湾との政治統一を目指す中国のため、「金融覚書」は金融統一の道を開き、「経済協力の新たな枠組み作り」とは経済統一の道を開くものと言った国内の猛反対の声に一切耳を傾けようとしない馬英九政権。その異常なまでに頑な姿勢も「降中」のためとしか見えないのである。
国家目標として海洋への勢力伸張を掲げる中国にとり、先ず突破するべき障害が日本列島、台湾と連なる所謂「第一列島線」であるが、その重要な一角である台湾が、馬英九政権の「降中」政策により、これまでにない危機に瀕している。
地政学的に台湾と日本は生命共同体と言える。だからその危機はただちに日本の危機に直結するのである。
それでありながら「中台両岸の闘争」は終結したと胸を張って見せる馮寄台氏。産経に寄せたこの一文は、安全保障の問題で、日本国民に誤認識をもたらし、中国に喜びを与えるものと言える。
【産経】「ハイチ支援を政治化させなかった台湾」 馮・台北駐日経済文化代表処代表
http://www.sankei.jp.msn.com/world/china/100225/chn1002252219006-n1.htm