宗像隆幸著『存亡の危機に瀕した台湾』を推す [多田 恵]

圧巻は著者に対してであればこそ語った李登輝前総統インタビュー

【8月26日付「台湾の声」より】

宗像隆幸著『存亡の危機に瀕した台湾』を推す
−台湾独立に注目する諸賢にはぜひ手元に置かれたい

                 多田 恵(台湾の声編集部、日本李登輝友の会理事)

■宗像隆幸著『存亡の危機に瀕した台湾−中国は台湾を併合すれば日本を属国にする』
■発行:自由社(2006年8月)本文:236頁、定価:1470円(税込)
■図書コード:ISBN4-915237-43-5

 本書では、日本人として45年台湾独立運動に関わり、元『台湾青年』編集長として知ら
れる著者の重要論文を収録し、巻頭には今年二月の李登輝前総統へのインタビューをオリ
ジナル掲載している。論文には重要な事項が典拠を示して網羅されており資料集としても
重宝する。

 李登輝氏へのインタビューでは、インタビュー当時ごたごたしていた「国家統一綱領」
廃止を巡る陳水扁政権の準備不足などを挙げ、政治の勉強が必要だと、陳政権への率直で
建設的な批判をあらわにしている。

 李登輝氏が1969年、突然憲兵に連行されて一週間にわたり拘束・取調べにあったのち独
裁政権国民党に登用され、蒋経国の死後いかにして「ロボット総統」の逆境の中、二月政
変などの危機を乗り越え権力を掌握していくか、また、いかに中国人の中で中国人のやり
方を学び、対処していったかが吐露されている。著者によって李登輝氏が『台湾青年』を
始めた王育徳氏と日本で会ったことも明らかにされ、陳水扁総統をはじめとする後進に、
政治的手腕や問題の経緯をよく研究して「静かな革命」を着実に継続して欲しいという李
氏の思いが垣間見られる。

 台湾の防衛予算がなかなか通過しない問題についても、陳政権の指導力、タイミングの
悪さで政治的駆け引きに利用されたことなど、経験者ならではの指摘をしている。最終的
には国防人事の変更により、指導力を示したと評価もしている。

 アジア安保フォーラム幹事でもある著者と、当事者であった李登輝氏の安全保障につい
ての対談部分は、中国の軍事的脅威と日米台安保協力の実像の輪郭をはっきりと示してく
れる。相手を知り、自らの努力を重視する李前総統の着実さや行動力が窺える。全編を通
じて、著者に対してであればこそ李前総統が語ったという側面を感じさせる貴重な記録で
ある。

 論文部分は、台湾人が日米の対応を見て情勢判断をし方向を調整している点に触れ、日
米が中国との駆け引きの中で自分の首を絞めるような誤った政策をとらないように呼びか
けている。

 また中国人の宣伝や、「一つの中国」という、現実を見ない政策により誤解されている
台湾独立の真の意味と、台湾憲法制定という課題を解説。日米がこの問題を直視し、台湾
の民主主義の深化に誤った圧力をかけないよう理解を求めるものだ。台湾独立に注目する
諸賢にはぜひ手元に置かれたい。

【内容 括弧内は多田コメント】

一、李登輝前台湾総統とのインタビュー
  台湾を併合すれば、中国は東アジアを支配できる
  米・台・日は協力して台湾海峡の平和を守らなければならない
  〔2006年2月のインタビュー。オリジナル〕
二、李登輝先生に差し上げた質問書
  〔オリジナル。インタビュー前に提出したもの。李登輝総統以降の台湾の政治情勢の
  流れがわかる〕
三、なぜ、台湾は国際社会の正面ドアをノックしないのか
  外から見ると、まことに不思議な台湾の政治
  〔初出は『台湾日報』2003年6月。台湾正名が外交上必要と論じる〕
四、台湾の命運を賭けた総統選挙
  その結果は日米両国の基本的国益に直結する
  〔初出は『正論』2004年2月号。台湾の国内事情を解説し、日米が台湾に誤ったメッセ
  ージを発することで中国を利すると指摘〕
五、台湾憲法を制定すれば、主権国家と民主主義を確立できる
  それによって、台湾は国際社会にも参入できる
  〔初出は月刊『自由』2004年10月号。台湾憲法制定の意義〕
六、存亡の危機に瀕した台湾
  米国は台湾に対する政策を転換すべきだ
  〔初出は月刊『自由』2005年7月号。台湾独立運動の流れと意義、アメリカがすべきで
  ないこと、すべきことを訴えた〕
七、米国は三たび台湾政策で大失敗を犯すのか
  米国はナイ提案を採用してはならない
  〔初出は『台湾青年』1998年5月。一国二制度、三つのノーという考え方に対して、「
  台湾独立」に関する誤解を解き明かし、台湾の足を引っ張らないよう求める〕
八、「キッシンジャー提案」は不正で不合理だ
  現実を直視して、台湾人民の声に耳を傾けよ
  〔初出は『台湾青年』1999年11月。キッシンジャーの誤解を指摘し、台湾人による民
  主的選択を受け入れるよう呼びかけた〕
九、「日米中三角論」の危険性
  「台湾はずし」は日米安保体制を崩壊させ、アジア太平洋に大争乱を招く
  〔初出は『台湾青年』1998年6月。加藤紘一自民党幹事長(当時)の論の危険性、台湾
  問題を直視する必要性を指摘した〕

■書店ウェブ販売
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