ダライ・ラマ14世との会見中止 問われるヴァチカンの姿勢 [曽野 綾子]

作家の曽野綾子氏が産経新聞に連載している「曽野綾子の透明な歳月の光」で、ダラ
イ・ラマ14世と、ローマ法王との会談が中国政府の圧力で中止になったことについて、
ヴァチカンの姿勢を問い糺しつつ、中国側の発言を取り上げて「これこそ中国の本性を
示す発言である」と、中国もバッサリ斬っている。

 ヴァチカンが中国との国交締結を模索していることについて、李登輝前総統は来日時
に「あまりにも政治的な意図が強い」と指摘し、「中国では天主教(注・ローマ‐カト
リックの通称)の神父は北京政府に指定された人でなくてはならないのです。信仰が政
府によって規制される、こういうことは世界的に見てもちょっとおかしな話です」(日
本外国特派員協会での記者会見)と疑問を呈している。

 曽野氏から見たローマ法王の姿勢、そしてヴァチカンを取り込もうと目論む中国の本
性とは──。                            (編集部)


曽野綾子の透明な歳月の光(267回)
【12月3日 産経新聞】

ダライ・ラマ14世との会見中止 問われるヴァチカンの姿勢

 ローマ法王ベネディクト16世がダライ・ラマとの会見を中止したという報道は、この
教皇の資質を見せる一つの出来事かもしれない。

 もちろん私たちには、政治の世界の裏側を見る機会もデータもない。戦争中、時のロ
ーマ法王ピオ12世が、ナチスのユダヤ人圧迫に対してひたすら「卑怯な沈黙を守った」
という風評は有名だった。しかし私は戦後、当時ヴァチカンにいたドイツ人の司教から
真相を教えられたのである。

 その人は戦後、駐日ヴァチカン大使になり、私たちを東京の大使館の昼ご飯に招いた
後、夕暮れが迫るまで、その問題について語り続けた。アウシュヴィッツで他人の身代
わりになって処刑されたポーランド人神父、マクシミリアノ・マリア・コルベの名を私
が深く意識し、後年『奇蹟』というノンフィクションの作品を書いたのも、その日がき
っかけである。

 ピオ12世がナチスの暴虐に対して沈黙を守ったのは、決して脅しに屈したからではな
い、と大使は言った。ナチスに抗議する度に、その報復のようにユダヤ人たちが殺され
たから、ピオ12世はやがて何を言われようと沈黙を守るようになった。「私はその時、
ヴァチカン市国の中にいた唯一のドイツ人だった。あの狭い公園ほどの国家のどこもが
難民で溢れていた。その事情を知っているのに、コルベ神父をモデルにしたと言われる
戯曲『神の代理人』の作家、ホホフートは、なぜ私に事情を聞きに来なかったのかと思
う」と大使は私に語った。

 ヴァチカンには諸宗教対話評議会という役所があり、そこがすべてのキリスト教では
ない宗教者との対話・会話を進めるために働いている。私が長い間師として仰いで来た
尻枝正行神父は、そこの次長で、いつも大臣に当たる枢機卿と共に日本に来て、仏教と
も神道とも他の宗教の方たちとも、ひたすら対話を続けるために働いていた。

 真相はわからないが、11月27日付の共同電によると、「イタリアのレプブリカ紙は26
日、12月に予定されていたチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と、ローマ法王と
の会談が中国政府の圧力で中止になったと報じた。法王庁報道官は同紙に『会談の予定
はない』と述べた。(中略)翌11月1日、中国外務省スポークスマンは『会談は中国への侮
辱となるだろう』と警告した」

 これこそ中国の本性を示す発言である。金集め目的の偽物教祖以外は、あらゆる信仰
の組織に対して満遍なく門戸を開き、総(すべ)ての宗教者との対話を拒まないのがヴ
ァチカンの姿勢であろう。それを政治と絡めて、それは中国への侮辱となるだろう、と
脅す。もっとも嫌な中国の一面だ。ベネディクト16世は、それに対して今後ヴァチカン
の平和への勇気ある意図の原則をどれだけ守り、脅しに屈せず信念を示せるかの責任を
持っている。


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