臣、帝国書院、東京書籍に対して誤記の訂正を求める「質問と要望書」を送った。
また7月20日には、小田村四郎会長が梅原克彦・常務理事、柚原正敬・事務局長とともに
文部科学省において記者会見を行い、送付を明らかにするとともに、誤記の根拠などを説
明した。
教科書問題では定評ある報道を続けている産経新聞は、この記者会見を「台湾 中国領
のよう」との見出しを付して報道(21日)するとともに、本日は論説委員の石川水穂(い
しかわ・みずほ)氏が「『台湾=中国領』表記は誤り」という堂々たる見出しの下、上述
の本会の動きを伝えるとともに、検定済地図帳の記述について「これでは、台湾が中国領
であると生徒に受け取られかねない」「誤解を招きやすい表現だ」と指摘している。
石川氏はサンフランシスコ講和条約や日中共同声明などに基づいて「日本が台湾を中国
領と認めたことは、これまで一度たりともない」歴史的経緯を明らかにする一方、「文科
省が地図帳に検定意見を付けなかったのはなぜか」と問い、その責を外務省に求めている。
鋭い指摘である。外務省のホームページでは、今でも中国の国土面積を「約960万平方キ
ロメートル(日本の約25倍)」と記している。これは、台湾の面積を含んだ数字だ。
なぜなら、日中共同声明以前(昭和30年代)の帝国書院の中華人民共和国の国土面積は
「9561(千k?)」と明記され、日中共同声明以降、中華人民共和国が国土面積を増やした
事実はないからだ。
外務省がこのような表記をしている以上、文科省は「外務省公表資料など信頼性の高い
資料に基づいて検定した」と言い逃れることができる。
平成20年(2008年)の地球儀問題のとき、外務省のホームページで中国と台湾が同一色
となっている問題が発覚し、抗議の結果、同一色を止めさせたことがある。実はそのとき、
この面積問題にも抗議したものの、外務諸側は「中国政府が発表している数字」だとして
訂正に応じなかった経緯がある。
地図帳問題を根本的に解決するには、やはり文科省が「信頼性の高い資料」と判断して
いる「外務省公表資料」を訂正させなければならないことが明らかになった。
しかし、東京書籍が中華人民共和国の都市に「台北」や「高雄」を入れたり、「1945
中国に返還」とするのは、外務省公表資料とは関係がない。なぜなら、帝国書院はそのよ
うに記述していないからだ。東京書籍にはこれからも徹底的に訂正を求めていきたい。
◆ 外務省ホームページ「各国・地域情勢」の「中華人民共和国」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/data.html
「台湾=中国領」表記は誤り 論説委員 石川 水穂
【産経新聞:平成23年(2011年)7月23日「土日曜日に書く」
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110723/chn11072303330000-n1.htm
◆ 李登輝友の会が質問書
今年3月に文部科学省の検定をパスした中学社会科の地図帳で、台湾が中国領のように表
記されているのは問題だとして、「日本李登輝友の会」(小田村四郎会長)が文科省に検
定合格させたことへの質問書を送る一方、発行元の帝国書院と東京書籍に検定後の正誤訂
正を求めている。
両社の地図帳では、台湾と与那国島の間、台湾とフィリピンの間のバシー海峡にはそれ
ぞれ国境線が引かれているものの、台湾と中国大陸の間には線などによる表記がない。別
のページでは、両社とも、中国の総面積を台湾の面積(3・6万平方キロメートル)と合わ
せた「960万平方キロメートル」と表記している。
これでは、台湾が中国領であると生徒に受け取られかねない。
39年前の昭和47年9月、日本が中国と国交を回復した日中共同声明が調印された際、台湾
の法的地位が最大の問題になった。
中国側は台湾が中国の領土と不可分の一部であると主張した。これに対し、当時の大平
正芳外相ら日本側はサンフランシスコ講和条約(昭和26年調印)で日本は「台湾と澎湖諸
島に対するすべての権利、権原及び請求権」を放棄したものの、帰属先は決まっていない
として、中国に抵抗した。
日本には、日米安全保障条約があり、その第6条で台湾を含む極東の平和と安全に言及さ
れていることも関連していた。台湾が中国領となれば、この極東条項との整合性がとれな
くなるからだ。
◆ 共同声明では両論併記
このため、日中共同声明第3項は、次のような両論併記の表現になった。
「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ね
て表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツ
ダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」
ポツダム宣言(1945年)の第8項は、日本に満州や台湾などの返還を含むカイロ宣言(19
43年)の履行を求めた規定だ。これが加えられたからといって、日本が中国の主張を丸の
みしたわけではない。
大平外相は帰国後の自民党両院議員総会で、こう報告している。
「中国側は中国の領土の不可分の一部と主張し、日本側はそれに対して『理解し尊重する』
とし、承認する立場をとらなかった。つまり、従来の自民党政府の立場をそのまま書き込
んだわけで、日中両国が永久に一致できない立場をここに表した」
日本が台湾を中国領と認めたことは、これまで一度たりともないのである。
◆ 外務省側の表記も問題
にもかかわらず、文科省が帝国書院と東京書籍の地図帳に検定意見を付けなかったのは
なぜか。
同省教科書課は「国名や地名の表記は原則として、外務省公表資料など信頼性の高い資
料に基づいて検定した」「明確な誤記ではない」と説明している。
平成19年までは、外務省の編集協力による「世界の国 一覧表」という冊子に依拠して
いたという。それには、台湾について日中共同声明第3項が書かれているが、中国の面積は
台湾と合わせた「959・7万平方キロメートル」と表記されている。現在の外務省ホームペ
ージでも、中国の面積は同じ数字だ。中国の主張を承認せず、「理解し、尊重する」とし
た共同声明の趣旨に反するように思われる。
東京書籍の地図帳は「アジア各国の独立」の欄で、台湾について「1945 中国へ返還」
とも表記している。これも誤解を招きやすい表現だ。
確かに、日本はカイロ宣言の履行を求めたポツダム宣言を受諾している。しかし、李登
輝友の会は日本が法的に台湾を正式に放棄したのは、あくまで講和条約が調印された時点
だと指摘する。
同じことは、ウルップ島以北の千島列島と南樺太(サハリン)についても言える。日本
は邦人保護などの必要性からユジノサハリンスク(旧豊原)に日本総領事館を置いている
が、ロシアの領有権が公式に認められているわけではない。日本はこれらの地域を講和条
約で放棄しただけで、旧ソ連は講和条約に調印せず、法的な帰属先は決まっていない。
今春の検定に合格し、来春から全国の中学校で使われる社会科教科書は、竹島などの明
記を求めた新学習指導要領解説書に基づいているとされる。「固有の領土」と書かれてい
ないなど、不十分な記述も少なくない。
授業で教師は、北方領土や竹島が日本固有の領土であることを教えるのはもちろんのこ
と、台湾や南樺太などについても、その歴史的経緯を正確に伝え、教科書や地図帳の不備
を補ってほしい。(いしかわ みずほ)