来月29日に日中国交正常化40周年を迎えるが、記念すべき年に日中関係が尖閣諸島をめ
ぐり険悪化しているのは残念だ。だが中国の領海侵犯が常態化する中で、日本側に東シナ
海の領土・領海を守るさまざまの動きが活発化しているのは当然至極だ。中国は今後どう
出るか、日本はいかに対応すべきかを考えてみる。
「中日関係に石原慎太郎という毒素がある。慎という字はあるが挑発と破壊ばかりで、
石原混太郎と称されている」。中国共産党機関紙「人民日報」(24日付海外版)は1面で石
原都知事を激しく批判した。
石原知事が東京都による尖閣諸島購入計画を発表して以来、中国の石原批判は拡大する
一方だ。百戦錬磨の共産党政権がこれだけ怒りをあらわにするのは珍しい。それは彼らの
「海洋強国」に向けた長期戦略の“足元”を直撃されたためだ。
中国軍幹部は2007年5月、米太平洋軍のキーティング司令官にハワイを基点として米中が
太平洋の東西を「分割管理」する構想を提案した。尖閣諸島は中国海軍が太平洋進出を本
格化する最初の“関門”で、周辺に豊富な海底資源を埋蔵する極めて重要な島だ。その帰
趨(きすう)は中国と日米同盟の軍事バランスに大きな影響を及ぼす。
日本は1978年に訪日した鄧小平氏の「領有権問題の棚上げ論」にのせられ、「永遠に現
状維持できる」かのような幻想を抱かされた。本来は江沢民政権が制定した「領海法」
(92年)が尖閣諸島を自国領と明記した際に、同島を国有化しておくべきだった。
以来、中国は東シナ海での海底ガス田開発を活発化し、尖閣を含む日本の領海侵犯を拡
大、同海を内海化させる既成事実を積み上げてきた。
「釣魚島(尖閣諸島)の帰属を棚上げする合意を日本側が一方的に破った」(中国外務
省)というが、詭弁(きべん)というほかない。孫子の兵法の「兵(戦争)とは詭道(敵
のウラをかく仕業)なり」を地でいっているだけのことだ。
共産党政権の政治・軍事戦略の基本は毛沢東の革命戦略だが、彼ほど孫子に学んだ人物
もいない。
これを尖閣問題に応用すると、(1)現状維持を掲げて内外に平和解決をめざす善人イ
メージをアピールする宣伝戦を展開(2)並行して巡視艇や漁民による領海侵犯を常態化
させたり、活動家の島への上陸などで日本の実効統治を弱めていく(3)「戦わずして勝
つ」孫子戦法と毛沢東の持久戦論を応用して、当面は武力行使を極力避け、武力増強を続
けることで徐々に米国の介入意欲をそぎ落とし、日本に尖閣防衛をあきらめさせる─など
だ。
これだけしたたかな相手から島を守るには、国有化して国があらゆる事態に迅速に対応
できる態勢を固めるべきだろう。相手の海軍力が弱いうちに粛々と進める必要がある。
ただし「窮寇(きゅうこう)には迫ることなかれ(進退窮まった敵をあまり追い詰めて
はならない)」ともいう。
国有化の是非をめぐり論議が沸騰したり、選挙にらみの政治家の上陸が相次ぐなどして
中国の反日世論や抗議行動が共産党政権に大打撃を及ぼす事態になれば、偶発的な軍事衝
突が発生し、拡大する恐れも高まる。
その意味でも相手の状況を慎重に見極め、動くときは「風のように迅速に進む」ことが
肝要だ。また現状維持の合意を破ったのが中国であることを、中国国民や国際社会に十分
説明することが大事だ。