歴史的な接戦模様の末にオバマ米大統領が再選された。過去4年間の米外交・安全保障政
策に少しでも変化が生まれるかどうか。高官人事が決まるにつれ方向は明らかになってく
るだろう。大袈裟にいえば、2期目のオバマ政権と、今日開幕する中国共産党大会で決まる
予定の習近平体制の関係いかんが日本の運命を左右する。米中間に今の緊張が続いていく
のか。対立は険しくなるのか、何かのきっかけで和解に進むのか。それによって、わが国
だけではなく、アジア全体が変化を強いられる。
◆深化した米国の中国観
この数年間、中国はナショナリズムを人為的に操作し、軍事力を背景に周辺諸国と領土
問題を引き起こす、異常というほかない行動に出ている。7年前にブッシュ政権下で、ゼー
リック国務副長官が中国にステークホールダー(利害共有者)たれと呼びかけ、中国側の
大物スポークスマン、鄭必堅氏が「平和的台頭」を目指すと応じた。あれは一時の掛け合
い漫才だったのか。米中2国でアジアの秩序を取り仕切ろうと言わんばかりのG2論も、
キッシンジャー元国務長官、ブレジンスキー元大統領補佐官、ポールソン財務長官(当
時)ら影響力ある人物の口から次々に飛び出した。彼らは今、どのような心境にあるのだ
ろうか。
一昨年秋以降、オバマ政権が進めてきたのは、中東、中央アジアに置いていた軍事的重
心を大きくアジアに転換する政策だ。この地域に軸足(ピボット)を定め、力の均衡の再
調整(リバランス)を図るという意味で、この2つのキーワードができたようだ。中国の
異常性は経済でも露わになっており、民主党のオバマ、共和党のロムニー両候補者とも口
を極めてくさした。槍玉に挙がったのが為替操作であり、知的財産権盗用であり、中国企
業のスパイ行為だから、米国の中国観はさらに深化したのではないかと考えられる。
オバマ大統領の立場で、外交的に一線を越えていると思われる発言もあった。外交・安
保をテーマにした10月22日の討論会で、「中国は敵対者であり、ルールを守るなら国際社
会の潜在的パートナーでもある」と述べたのである。
◆再選で「ピボット政策」継続
ブッシュ前政権時代にライス国務長官が敵対国、潜在敵国、競争相手国、友好国、同盟
国と分類したこともあったが、「敵対国」はきつく響く。つい、本音が出たのかもしれな
い。ピボット政策は、国際法に従えと迫りながら、海空軍を中心にアジアの守りを固める
硬軟両様の構えに尽きる。さながら5本指のように日本、韓国、フィリピン、タイ、オー
ストラリアの同盟国に加え、インドなどの友好国を増やしていく。オバマ氏が再選された
時点で、この政策は継続されると見てよかろう。
だが、米国内ではまだ少数意見であろうが、強烈な反論も出てきた。米ボストン大教授
でハーバード大ジョン・キング・フェアバンク中国研究センターの研究員、ロバート・
S・ロス氏が、米外交専門誌のフォーリン・アフェアーズに、「ピボット政策の問題」と
題する批判文を書いたのである。
いわく、オバマ政権の対中政策は、中国指導部が経済、軍事大国の地位を実現した結
果、自信を持ち始めたとの判断に基づいている。だが、中国指導部は、深刻な経済危機、
社会不安、米国に対する軍事的劣勢に十分、気づいており愛国主義的傾向を強める大衆に
力を誇示して地位を維持しようとしている。実際、中国政府が挙げた「大衆による事件」
は2011年に18万件を超えたという。
中国の異常性を説明するうえでは説得力に富んでいると思う。
◆中国幹部の腐敗に度肝抜かれ
日本の新聞では小さな扱いだったが、念のため10月25日付の米紙ニューヨーク・タイム
ズを手にした私は正直、度肝を抜かれた。中国の温家宝首相の母、弟、妻、息子、娘ら一
族が、広範な許認可権限を持つ首相の地位を利用し、日本円で数千億に上る蓄財をしてき
た様子が、異例の長文の中に克明に記述されているではないか。記者の署名入りの調査報
道は、首相をはじめ家族全員の写真と関係した人々の相関図を掲げている。
首相と20年以上にわたり交際のある人物が匿名を条件に「幹部で同様の問題を抱えてい
ない者はいない」と語っているから、すさまじい。報道が中国内外に与える衝撃は大き
い。ニュース源は米政府内にもあるように読めるから、中国の内情に関する情報は米側も
かなり持っているに違いない。
今後4年間に、ピボット政策の修正あるいは変更があるのだろうか。戦前から、日米中
3国の関係は連動している。それぞれの国がどこをパートナーに選ぶかによって異なる結
果を生んできた。日本が米中を敵対国にした末の敗戦が現状である。
尖閣諸島問題の因果関係を無視して、事をこじらせた原因が石原慎太郎前東京都知事に
あるとの妄言や、中国市場に目がくらんで日本政府に配慮を求める財界人の発言は、日米
対中の揺るぎない国際秩序にあまりに無頓着でないか。 (たくぼ ただえ)