《パンダ外交の本質 -可愛さの裏にある政治利用》
文/林省吾(Shogo
Lim) 台湾独立建国聯盟日本本部 中央委員
今年の漢字に選ばれた「熊」は本来、冬眠に入る存在のはずだが、その親戚にあたる「猫熊」
パンダが、思わぬかたちで世間を騒がせることとなった。
上野動物園のパンダが来年1月に中国へ返還されることが決まり、日本国内は半世紀ぶりに「ゼロパンダ」の状態となる。
動物園は連日大きな賑わいを見せ、さらにはパンダ再誘致の是非にまで話題が広がるなど、社会的関心の高さがうかがえる。
しかし、残念ながらパンダの愛らしい姿の背後には、中国の政治的思惑が存在する。
今回の返還は以前から予定されていたものであるにもかかわらず、「高市首相の台湾有事発言が原因だ」といった論調が一部で流布され、日本の世論に影響を与えようとする動きも見られた。
こうした情報操作は、いかにも中国らしい手法と言える。
そもそも、中国のいわゆる「パンダ外交」の仕組み自体が歪んでいる。
友好の証を謳いながら、「有料で貸与する」という上から目線の姿勢は理解に苦しむ。
ワシントン条約により、パンダの商業取引は禁じられているため、「研究目的」という名目での貸与とされているが、それでも「ペアで年間1億円を超える」とされる高額なレンタル料が課されている現実がある。
一方、受け入れ側も税金でレンタル料を支払いつつ、「客寄せパンダ」という言葉が定着するほど、実質的には商業利用してきたのも事実であろう。
このままでは、「パンダロス」という言葉は来年の流行語大賞に選ばれるかもしれない。
それでもパンダを見たい人にとって朗報がある。
日本からパンダはいなくなるが、台湾の台北市立動物園には現在3頭のパンダが飼育されている。
しかも、台湾のパンダはレンタルではなく、返還期限も存在しない。
なぜなら、それらは中国の「統一戦線工作」の一環として位置づけられているからである。
中国は、パンダを政治的に利用し始めて以降、長年にわたって台湾への「贈呈」を試みてきた。
他国に対しては高額なレンタル料を課す一方で、「台湾は中国の不可分の一部である」と主張する中国は、台湾へのパンダ移送を「国内移動」と定義し、当然のごとく無償とした。
しかし、これを受け入れることは、台湾を中国の一部と認めることに等しい。
そのため、国民党政権時代も、2000年以降の民進党政権下でも、パンダの受け入れは拒否され続けてきた。
転機となったのは2008年、親中的とされる馬英九政権の誕生である。
さまざまな政治的配慮の末、馬政権は中華民国の法制度を事実上回避する形で、パンダを「漢方薬の原材料」という名目で輸入する許可を与えた。
台湾海峡を渡った2頭のパンダは「團團」「圓圓」と名づけられたが、これは「一家団欒」を意味する「團圓」に由来する。
名前に至るまで、強い政治的メッセージが込められていたのである。
結局のところ、中国はパンダの可愛らしさを利用して「友好」「親善」を演出しながら、実態としては「パンダレンタルビジネス」を展開し、本質は相手国の社会内部を分断するための政治カードとして用いてきたにすぎない。
不可解なのは、ワシントン条約との整合性や、動物福祉の観点からの問題点について、オールドメディアや動物保護団体による本格的な批判がほとんど見られないことである。
その一方で、「東京都は新たなパンダ誘致に前向きなのに、政府が協力的でない」といった、まるで責任追及のような報道がすぐに広がる。
これもまた、中国にとって都合のよい構図と言えるだろう。
パンダに罪はない。
問題なのは、パンダを政治的に利用する人間の側である。
「ゼロパンダ」を契機として、「金よりも命のほうが大切だ」という価値観を、次世代に示せる社会を築くべきではないだろうか。
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