頼清徳・総統が「2025新年談話」に示した決意と覚悟のメッセージ

台湾の頼清徳・総統は1月1日、総統府大礼堂において総統就任後初となる新年の談話「民主主義による国力強化と新たな世界情勢に向けて(以民主厚植國力 迎向世界新局)」を発表した。

談話は2024年を振り返り2025年を展望する内容で「中国やロシア、それに北朝鮮やイランなどの権威主義の政治体制がいっそう結びつきを強め、ルールに基づく国際秩序を脅かしている」と指摘しつつ「台湾海峡の平和と安定は世界の安全と繁栄に必要な要素だ」と述べ、防衛費の予算を増やし、防衛力の強化を継続する考えを強調した。

頼総統はまた「台湾の米国、日本、欧州および東南アジア諸国への投資は大幅に増加しており、中国への投資を大幅に上回っている」と強調し、「2024年上半期の台湾株式市場の成長率は世界で最も高く、通年の経済成長率は4.2%に達すると予想され、アジアの4大虎の中で1位にランクされる。

国内投資は5兆元を超えて活況を呈しており、インフレ率も徐々に安定しつつある」と述べた。

そして「台湾経済はなおも回復傾向にあり、順調に経済成長を遂げている」と述べ、さらなるレジリエンスの強化を訴えた。

本誌が注目したのは、この新年の談話に盛り込まれた「台湾海峡の平和と安定は世界の安全と繁栄に必要な要素」という文言だ。

これは、台湾から日米やG7など民主主義国家、あるいは台湾侵攻を企てる中国やその背後にいるロシアなど独裁国家に向けた明確なメッセージだろう。

昨年5月20日の総統就任式では「国際間にはすでに、台湾海峡の平和と安定は国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素であるという高度なコンセンサスがあります」と言及し、昨年10月10日の双十国慶節祝賀大会における演説では「台湾には、台湾海峡の平和と安定を維持し、世界の安全と繁栄を達成する決意があります」と表明していた。

なぜ民主主義国家や独裁国家に向けた明確なメッセージなのかと言えば、「台湾海峡の平和と安定は世界の安全と繁栄に必要な要素」がどのような経緯をたどって国際間の高度なコンセンサスになったのかを振り返ってみればよい。

まず「台湾海峡の平和と安定の重要性」は、2021年3月16日に行われた、茂木敏充・外務大臣、岸信夫・防衛大臣、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官による「日米2+2」の共同発表で初めて明記された。

これは日本側の発案だった。

続いて、同年4月16日の菅義偉総理とバイデン大統領の日米首脳会談の「日米首脳共同声明」で中国への「深刻な懸念」とともに、初めて「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」という文言が現れ、その後の先進7ヵ国(G7)外相会議やG7サミット首脳宣言でも同じ文言を踏襲して採択している。

この「台湾海峡の平和と安定の重要性」に初めて「国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素」と付け加えたのは、2023年1月13日にワシントンD.C.で行われた岸田文雄総理とバイデン大統領の日米首脳会談の「日米共同声明」だった。

「日米共同声明」のこの文言は、2023年5月に開かれた広島サミットの「G7広島首脳コミュニケ」に引き継がれ、「国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する」と明記される。

実は、2022年12月16日に岸田内閣で閣議決定された安保関連3文書の「国家安全保障戦略」ではすでに「台湾海峡の平和安定は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素であり、両岸問題の平和的解決を期待するとの我が国の立場の下、様々な取組を継続していく」と明記していた。

このことからも分かるように「国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性」という文言は、日本の発案だった。

つまり、頼総統が新年の談話で言及した「台湾海峡の平和と安定は世界の安全と繁栄に必要な要素」という文言は、そもそもは日本の発案であり、それが米国と共有され、G7サミットなどの国際会議で共有されたことで国際間の高度なコンセンサスとなっていった。

この経緯を振り返ってみれば、頼総統が新年の談話で「台湾海峡の平和と安定は世界の安全と繁栄に必要な要素」に言及したことは、自由、民主、基本的人権、法の支配などの価値観や中国に対する深刻な懸念を共有する国々との「連帯」を表明したメッセージであり、台湾の立ち位置をこれまでよりもさらに明確に示した決意と覚悟のメッセージと言ってよいだろう。

◆總統發表 2025新年談話「以民主厚植國力 迎向世界新局」
 【総統府:2025年1月1日】
 https://www.president.gov.tw/NEWS/38969
 動画 https://youtu.be/UDJZiu4VwJs[15分8秒]


※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。