【ウォール・ストリート・ジャーナル日本版:2023年3月1日】https://jp.wsj.com/articles/bring-taiwans-president-tsai-ing-wen-to-capitol-hill-9a4ae769?utm_source=headtopics&utm_medium=news&utm_campaign=2023-03-01
筆者のクレイグ・シングルトン(Craig Singleton)氏は、米国の元外交官で、ワシントンのシンクタンク「民主主義防衛財団(FDD)」の中国問題担当上級研究員。
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ケビン・マッカーシー米下院議長は台湾訪問を検討している。だが同氏は訪台するのではなく、台湾の蔡英文総統を来年初めの任期末に米国に招き、上下両院合同会議で演説してもらうべきだ。
マッカーシー氏の前任者であるナンシー・ペロシ氏は昨年夏に台湾を訪問した。善意に基づく訪問だったが、遺憾な結果を招いた。中国政府はペロシ氏の訪台に乗じて台湾海峡の「新常態」を確立し、同国軍は現在、以前よりはるかに台湾に近い場所で定期的に演習を行っている。中国の戦闘機による台湾の防空識別圏への進入は、2021年の538回から2022年には1241回へと2倍以上に増加した。
一方で、台湾は無防備な標的のままだ。台湾の状況は、米国が売却を約束している190億ドル(約2兆5800億円)相当の兵器がいまだに届いていないことにより、一層悪化している。米議員らの切迫感のなさは、台湾当局者との接触が限られていることが一因であるように思える。昨年、米議員団が台湾を訪問したのはわずか4回で、参加したのは二十数人だった。
同様に、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が昨年12月に議会で演説し、ウクライナへの兵器供与が米国の利益になると主張するまで、大半の議員はウクライナを訪問したことも同大統領に面会したこともなかった。ワシントンに蔡氏を招けば、台湾に関して同じことを実現できる可能性がある。
演説のために蔡氏を議会に招くのは歴史的なことだが、それは台湾政府の正式承認を示唆するものではない。米議会は、1989年にポーランドの自主管理労組「連帯」の委員長だったレフ・ワレサ氏を招待したのをはじめ、国家元首ではない著名な民主派指導者を招いたことがある。蔡氏が2018年と19年に訪米した際、中国政府の非難は軽微なものにとどまっていた。
蔡氏がホワイトハウスを訪問しない限り、バイデン政権は、蔡氏の訪米は米国が支持する「一つの中国」原則および「台湾関係法」に合致したものだと明確に主張することができる。台湾関係法は、米国の法律において、他の「諸外国、国家、州、政府、および類似の存在」と同様に台湾を扱うことをうたっている。
マッカーシー氏が今年訪台すれば、2024年の台湾総統選挙に想定外の影響を及ぼす恐れがある。中国は、最近の臨戦態勢とまでは言えない戦力誇示が期待したほどの抑止効果を発揮できなかったと判断し、将来の紛争でリスク志向を強めるだろう。またマッカーシー氏が訪台すれば中国が軍事力を誇示するのはほぼ確実であり、その結果、昨年11月の地方選挙で中国寄りの国民党に敗れた民進党の支持率がさらに低下する可能性がある。
中国は蔡氏のワシントン訪問に抗議し、限定的な軍事演習を行うかもしれない。しかし、蔡氏が米連邦議会議事堂で演説する映像と、中国の爆撃機が台湾周辺を飛行する映像が同時に流れれば、台湾の自衛を支援するという喫緊の課題に取り組む米議員535人に絶大な影響を与えるだろう。
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