正直で親切な台湾の人々  傳田 晴久

本誌では、台南の成功大学に語学留学している傳田晴久(でんだ・はるひさ)氏が発行
する「臺灣通信」から、これまで「日本は台湾を中華民国に返還していない」や「李登輝
元総統が台湾人は台湾の『主』となるべきと喝破」「蒋介石に掠め取られた『美しの
島』」、そして前回(5月31日号)は「国土を守れ」をご紹介しました。

 6月3日にお送りいただいた第63号は「正直で親切な台湾の人々」を書かれています。日
本に住む外国人犯罪者の検挙率は常に中国人が50%近くを占め、台湾人は0・5%前後で
す。この一事を見ても、中国人と台湾人の法治観の違いがわかりますが、いかに台湾の
人々が「正直で親切」かも垣間見えてきます。


正直で親切な台湾の人々  傳田 晴久
【台湾通信(第63回):2012年5月31日】

◆はじめに

 先日、昔JET日本語学校でお世話になった得猪(とくい)先生から次のようなお手紙
を頂戴いたしました。

≪4月中旬、阿里山へ行く途中で車がオーバーヒートで止まってしまいました。さて困った
と思うと同時に、親切な救いの手が差し伸べられ、そのおじさん(陳さん)の友人や職場
に連れて行ってもらい、90代のご夫婦は登場するわ、小学校の校長先生にお茶をよばれる
わで、またまた台湾人の人情と親切にびっくり仰天してしまいました。≫

 最近、正直なタクシーの運ちゃんの話が話題になっています。今回の台湾通信は「正直
で親切な台湾の人々」を紹介させていただこうと思います。

◆私も体験しました

 今から30年ほど前ですが、仕事で宜蘭にあるT繊維という会社に行く用件がありまし
た。紹介されたホテルに前日泊まるつもりで、台北からバスで宜蘭に向かいました。バス
停の名前は聞いていたはずですが、当時のバスには次の停留所名の表示もなく、運転手
(当地では今でも「運将」(うんちゃん)と呼んでいます)は停留所の名前を告げている
と思いますが、台湾語では何を言っているか全くわかりません。運ちゃんに事前に頼んで
おけばよかったのですが、なぜかそうしませんで、結局それらしき名前のバス停で下車し
てしまいました。

 もちろんホテルも見えませんので、バス停の前の洋品店に跳び込み、ホテルの場所を尋
ねましたら、若いご主人は呆れたような顔をされて、「ここではないよ、連れて行ってあ
げよう」というようなことを言い、私の手を引いて外に連れ出しました。そしてスクータ
の足元に私のスーツケースを置き、後ろに私を乗せ、走り出しました。時刻は夜の9時ころ
だったでしょうか、暗い夜道をスクータは猛スピードで走ります。だんだん不安になりま
したが、20分くらい走ったでしょうか、お目当ての小さなホテルの前で止めてくれまし
た。

 夜の9時ころ、言葉も満足に話せない、変な日本人が跳び込んできたのに、すぐ事情を察
してかなり遠くのホテルに連れて行ってくれたのです。本当に助かりました。

◆花蓮港で邦人、財布を……拾金不昧(ネコババしない)

 このように台湾の人々に助けられた日本人(外国人)はたくさんいることでしょう。

 今年の5月15日の「自由時報」第1面にこんなタイトルの記事が載りました。「花蓮 小
黄●船接力 海上歸還日客錢包」……「花蓮」は台湾の東海岸にある港町で、景勝地「太
魯閣峡谷」の入り口です。「小黄」はイエローキャブ、すなわちタクシー、「●船」はタ
グボート、「接力」はリレーのことで、「花蓮港のタクシーとタグボートがリレーで、海
上にいる日本人客に財布を届けた」という見出しです。

 花蓮のタクシー運転手の曾世誠さんは先週の土曜日、大型定期客船で観光に来た日本の
観光客がタクシーの座席に忘れた財布(現金7,000元とクレジットカード在中)を拾った。
早速「速達便」のごとく花蓮港の埠頭まで車を飛ばしたが、あいにく客船「海洋神話號」
はすでに岸壁を離れていた。

 花蓮港の港湾管理会社は事情を知るや直ちにタグボート「萬榮號」に客船を追わせ、つ
いに間に合い、財布は客船の吊り籠によって引き上げられ、忘れ物は無事元の持ち主に帰
った。台湾人の「海陸リレー」による慈善行為に対し、日本の客船は汽笛を鳴らして感謝
の意を表した。

 タクシーの運ちゃん曾さんは次のように言っている。「その日本の観光客は自分の父母
と同じくらいの年恰好で、財布を落としたことに気づいた時、きっとがっかりしたろう
し、花蓮に対してよくない印象を持つかもしれない。大概の人々は『拾金不昧』で、『物
歸原主』が当たり前、国民外交の成功と言えるでしょう」。拾金不昧は「金を拾ってもネ
コババしない」、物歸原主は「物が元の持ち主に返る」という意味で、ともに四字熟語
(成語)です。

*●は[手偏に施すのつくり]

◆金門でも携帯を……

 メールマガジン「な〜るほど・ザ・台湾」(5月15日)によれば、金門島で重要な資料が
入っているiPadを失くした日本人観光客が警察に届けたが、当初見つからなかった。
警察は翌日iPadを発見し、日本語の内容から日本人観光客の遺失物と断定し、すでに
アモイに向かっていた観光客に連絡した。日本人観光客は警察に謝意を表したという。

 また、同じメルマガ(5月18日)に中国の若手ベストセラー作家・韓寒のブログが紹介さ
れており、彼が台湾を旅行した時、眼鏡屋の主人に大変親切にしてもらった話やタクシー
に置き忘れた携帯電話を運転手がホテルに届けてくれた上に、謝礼も辞退したという話が
紹介され、韓氏は「台湾には自分たちにはない、人々の尊敬を集める価値がある」と語っ
たといいます。

◆「修身」の教科書

 何故、かくも親切で正直なのか

 日本には昔、「修身」という教科があったと言います。実は自分は昭和21年4月に小学校
に入学したので、小学校で「修身」という科目を習ったことがありません。今年の1月中
旬、台中で「日本と台湾の懸け橋になる会」を主宰しておられる喜早天海(きそう・たか
ひろ)氏に「來自阿公、阿媽的禮物」(おじいさんとおばあさんからの贈り物)という本
をご紹介いただきました。これは日本の戦前の教科書「修身」の内容を中国語に翻訳した
ものでした。

 今回の「正直で親切な台湾の人々」に該当する話は、第1章10話「親切」、同11話「自己
的東西跟別人的東西」(自分の物と他人の物)、第2章11話「正直」の3話です。

 まず「親切」は、学校の帰り道、重い荷車を引いた人が坂道を登ろうとして難儀をして
いるのを見た子供が、自分の荷物を道の傍らに置いて、後押しして手伝いました。坂を上
りきったところで、助けられた人は大変喜び、助けた子供も大変うれしかった、というも
のです。困っている人を見たら手を貸しましょうという教えです。この反対の話はおそら
く「川に落ちた犬は棒で叩け」というものでしょう。今回初めて知ったことですが、この
諺は朝鮮のものだそうです。

 2番目の話は、ふたりの子供が夕方散歩をしていると、一人の子供がボールを拾い、それ
で遊ぼうと言うと、もう一人の子供はそれは他人の物だからダメ、失くした人はきっと困
っていると言いう。そこへ何か探している様子の子供が現れ、尋ねるとボールを探してい
るという。ボールをわたすとその子供は大変喜んだという。他人の物と自分の物を混同し
てはいけないという教訓ですが、その反対は、「俺の物は俺の物、お前の物も俺の物」で
しょう。これはイギリスの諺だそうですが、これが口癖のような国はどこの国でしたっ
け。

 3番目の話「正直」は、呉服屋の正直店員の話で、お客が自分で選び、気に入った布地を
買おうとした時、その店員がたまたまその布に疵があることに気付き、そのことを正直に
告げ、別の品を選ぶよう勧めた。婦人は店員の正直さを讃えたが、結局気に入ったものが
なく、その日は買わないで帰って行った。店長は怒ったが、店の主人は商人にとって最も
大切なことは信用であることを説いた。その店はその後繁盛し、正直店員はやがて暖簾を
分けて貰い、大成功したといいます。反対に「正直者は馬鹿を見る」とか「正直は阿呆の
異名」という言葉があります。どこかの国では「騙される方が悪い」と教えているとか。

◆「中華無恥文化」と「台湾文化」

 自由時報紙に「中華無恥文化」と題して、次のような投書がありました。

≪馬英九総統が就任式の演説で中国人の韓寒氏の話に触れ、「台湾のタクシー運転手がネ
コババしなかったり、眼鏡屋の主人が熱心に人助けをしてくれたが、これらは全て中華文
化の核心価値が既に台湾の日常生活に溶け込んでいる」と述べた。可笑しいではないか、
もし「善良」「誠信」が中国文化の要素であるならば、なぜ韓寒が中国社会では見られ
ず、台湾で見出し得たなどと空騒ぎするのか≫と。

 投書は続けて中国文化の無茶苦茶さをあげつらい、最後に次のように述べています。

≪台湾社会の特徴は、優しく誠実であり、人と人はお互いに信頼し、助け合うことであ
り、これらの素質は原住民の純朴さ、漢移民の謙遜と譲り合い、欧州植民者の啓蒙、そし
て近年の日本統治下の近代化経験によるものであり、決して中国文化ではない。

 すべての中国人はひとたび台湾に足を踏み入れれば、ここが中国の文明社会とは全く異
なることを感じ取るはずである。馬英九政府は中国の漬物甕文化(筆者注:作家柏楊氏が
著書『醜い中国人』の中で、中国文化を「醤缸文化」と呼び、張良澤氏が漬物甕文化と翻
訳した)に跳び込もうとしているが、それは自分だけにして、台湾人を道連れにしないで
ほしい。≫(医師・沈政男氏)

◆おわりに

 すべての台湾人が「正直で親切」という訳ではなく、もちろん悪辣なタクシーの運ちゃ
んの話も聞きますし、無軌道な若者の話も聞きます。しかし、自分が窮地に立たされた時
に手を差し伸べていただいた場合は、まさに御仏に見えることでしょう。「情けは人の為
ならず」(最近この諺を違う意味にとる人がいるとか)、「正直の頭に神宿る」と言いま
す、きっと将来台湾に素晴らしいことが起こることでしょう。


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