離間の計を操る中国

離間の計を操る中国

台湾独立建国聯盟日本本部 林省吾

近年、フェイクニュースなどを利用し、中国は「超限戦」を繰り広げてきた。その目的は相手国民の政府に対する不信感を増幅し、同盟国同士の間に疑心暗鬼を生じさせること。これは離間の計(りかんのけい)と言い、特段新しい発想ではなく、三国志に登場する梟雄・曹操も披露したことのある中国のお家芸だ。

中国は近年は台湾内部で「アメリカ不信論」を操作してきた。例えば2021年に台湾がラクトパミン使用豚肉の輸入を解禁する際に、「アメリカは毒入りの豚肉を台湾人に食わせるつもりだ」というような情報をTikTok
などSNSで発信して世論操作を行い、中国の操り人形となった国民党はその論調で与党民進党を攻撃した。その後にも「コロナウィルスはワクチンで金儲けするためにアメリカが開発したものだ」などの陰謀論もでっち上げた。

一番の実績はロシアによるウクライナ侵攻の際に、「アメリカはウクライナを見捨てる」という噂を流し、台湾有事の際にアメリカが台湾も見捨てるようなイメージ操作をしたことだ。「台湾民意基金会」の調査によると、有事の際にアメリカは助けに来ると信じる台湾人の割合は、2021年10月の時点は65%だったが、ロシアによる侵攻が始まった2022年3月は36.5%に落ち込んだ。見事に台湾人にアメリカに対する不信感を植え付けた。2023年2月の最新データにしても、アメリカが来ると思うのは42.8%で、来ないと思うの46.5%を上回ることができず、不信感は存在したままだ。

同様に、中国は日台関係にも亀裂を生じさせたいと考えている。先日話題になった日経新聞の一連の記事の中に「蔡政権は軍を掌握していない」との一文がある。これこそ日本人向けに「台湾不信論」を吹き込みたい中国の思惑と合致する。この記事が物議を醸すとすぐさま中国は、台湾内部の親中派の退役軍人を「同窓会」の名目で中国に訪問させようと水面下でも動き始めた。単発の行動に見えるが、実は連動しているのもその特徴だ。

中国はこういった手段で「民主自由」を再定義しようとしている。アメリカ、日本、台湾を始めとする自由民主主義陣営の政権に対する疑問を民衆に持たせ、「中国式民主主義」こそ真の民主主義だと主張することで、民主主義陣営を内部から分裂させることが狙いである。台湾を例にとると、台湾人の警戒感を鈍らせた上で親中政権を誕生させ、中国が軍事行動を起こした瞬間に親中政権に白旗を上げさせようとの魂胆だ。降参しなくても抵抗は大分弱くなり、日本とアメリカに介入する時間を与えずに台湾を占領できる。所謂「打台灣不如騙台灣」(台湾を打つより台湾を騙す)である。

離間の計は実に安上がりで効果的な作戦であることは、歴史上で幾度も証明されてきた。目の前の事象に目を眩まされないように、よりグローバルな視点で世界の流れを把握することは、我々にとってこの世で生き残るための大事な心構えであり、そして唯一の方法かもしれない。


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