永山英樹
(付:チャンネル桜の報道動画
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昨年四月に放送されたNHKの「JAPAN」デビューに出演した台湾の柯徳三氏(88)が二月二日の夜に亡くなった。
日本の台湾統治時代を台湾人弾圧時代と描きたいがため、数々の歴史捏造や恣意的編集を敢えてしたあの番組で、柯徳三氏は「被害者」の一人だった。
「日本のアジア支配の原点となった台湾。そこから近代日本とアジアとの関係が見えてきます。五十年間の日本の台湾統治を象徴する二枚の写真です」とのナレーションの下、後に歴史捏造と判明する「人間動物園」の写真とともに映し出されたのが「台北第一中学校の生徒達」の集合写真。番組はここに台湾人差別の物語があるとして、そこに写る台湾人生徒の一人である同氏を訪ね、次のような証言を引き出したのだった。
(1)弁当に豚の尻尾なんか持って行ったら日本人に笑われる。母に弁当は日本式にしてくれと頼んだ。日本式にして始めて堂々と蓋を開けられる。
(2)いとこの姉さんが日本人の嫁になって日本行ったが、戸籍に入れない。こう言うのが差別でしょう。最後の最後まで、台湾人であることを隠さないといけない。
(3)酒を飲むのも日本酒。こういう人間に誰がしたの。日本だ。喋るのも日本語。台湾語でこう言う演説はできない。
(4)頭のコンピューターはすでに日本化されてしまっているから、あの二十数年間の教育は実に恐ろしい。頭が全部ブレーンウォッシュ(洗脳)されているからね。だから日本式に物を考えたり、日本式に日本語を喋ったりする。
(1)は台湾の高級料理を持って行ったら笑われたと言う笑い話。(2)は差別の事例として、生活習慣の異なりに基づく法律上の「差別」を説明したものと思われる。そして(3)(4)は台湾社会における自分たちの世代の特性をユーモアを込めて自嘲気味に語ったものだったのだが、番組はこれらを「同化と差別」への痛烈な批判的証言であるかのように扱い、それを視聴者に伝えてしまった。
これを見て「日本への怨み言ばかりを言う人ではないのだが」と驚いたのが、柯徳三氏を知る複数の日本人たちだった。証言の一部だけを都合よく放送されたのではないかと疑って本人に確認したところ、果たしてその通りだった。そしてそのために同氏が悩んでいることもわかった。
そこで私はそのうちの一人の紹介で、柯徳三氏に電話で事情をうかがったところ、「日本の良さも語ったが、全然取り上げられなかった」「私は親日でも反日でもない。私にとって日本は養母なのだ。日本人に差別はされたが、私が今日一人前の医者として活躍できるのは日本のおかげだ」だと聞かせてくれた。
そして「怨み事ばかりを取り上げ、あたかも台湾人が朝鮮人と同じく排日だとの印象を植え付けようとしているらしいが、これは心外だ」「台湾と日本との仲を引き裂こうとしているのだろうか。どうしてもそう見える。台湾へ来たことのない人が番組を見たらどう思うか」とも懸念していた。
さらには「NHKには利用された、騙されたという気もしている」とも。
【参考】証言の「断片」のみ放映―台湾の被取材者が怒る反日番組「NHKスペシャル/シリーズ・JAPANデビュー」
http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-716.html
その後同氏が日本文化チャンネル桜の番組にたびたび出演し、同様の証言を行ったことは周知のとおりだが、こうした柯徳三氏の不満表明に狼狽したのが、取材を行った番組の濱崎憲一ディレクターだった。
同氏に対し、番組は好評だと嘘の情報を伝え、さらには自分の子供が脅迫されているなどとして抗議の取り下げを懇願し、土下座して謝罪をしながらも、「謝るなら私にではなく日本国民に」との柯徳三氏の勧めに対しては「それはできない」と突っぱねている。
まさに柯徳三氏の優しい性格に付け込んだか、老人だと思って愚弄したか、あるいは台湾人を見下しているかとしか思えない態度である。
いったい柯徳三氏に、何の罪があったと言うのか。
番組への抗議運動が盛り上がった当時、再び同氏に電話をかけたとき、「日本国内の政治的な左右対立に巻き込まれたくない」と告げられた。そこで私が「左右対立ではなく、日本の子供たちのために抗議をしている」と説明した。「それならやってくれ」と言われたのだが、このご老人には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいとなった。
今でも視聴者の多くはあのNHKの愚劣な番組のため、柯徳三氏の日本への思いを誤解したままでいるのだろう。つまり同氏が心配したように「台湾」を誤解したままだと言うことだ。なぜならNHKは自らの「放送犯罪」を隠蔽し続けているからである。
HPでは「取材時、柯徳三さんにはあわせて5時間程度インタビューしています。番組で使用した部分は、柯さんの発言の趣旨を十分に反映していると考えています。恣意的な編集はありません」との説明を公開し続けている。
このようなNHKの存在を許す日本の国民の責任は重い。間もなくNHK集団訴訟の公判が開始されるが、これからもこの公共放送局の解体闘争を継続する決意である。
柯徳三氏のご冥福を心よりお祈り申し上げたい。