【黄文雄】G20で国内外の笑いものとなった習近平、求心力低下の表れ

【黄文雄】G20で国内外の笑いものとなった習近平、求心力低下の表れ

『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』より一部抜粋

● 中国杭州G20 習氏「原稿棒読み」明らかに? 当局は書き込みや動画を次々削除

中国が威信をかけたG20が閉幕しましたが、いろいろとトラブル続きでした。オバマ大統領が専用機で到着した際に赤絨毯のタラップが用意されていなかったり、オバマ大統領に近づこうとした同行記者やライス大統領補佐官までもが中国の当局者に遮られたといったことが報じられました。

一方、中国本土や台湾、香港などの中国語圏で大きな話題となったのが、G20の一環として行われたB20(ビジネスサミット)で基調講演に立った習近平主席の言い間違えです。

習近平は、中国の古典「国語」からの成語「軽関易道 通商寛農」(関税を低くすると道路が整備され、貿易が盛んになり農業政策が寛大となる)を引用して、自由貿易で各国の産業が反映するということを言おうとしましたが、最後の語句「寛農」を「寛衣」と言い間違えてしまいました。

● 習近平G20演講大口誤 網友熱議、官方封殺

中国の簡体字では「農」と「衣」という字はよく似ていることから、手元の原稿を読み違えたことから起きた誤読でしょうが、中国のネット上ではこの話題で持ち切りで、笑いの種となっています。というのも「寛衣」は「服を脱ぐ」と言う意味があるからです。

「誰と服を脱ぎたいのか? プーチンか?」「関税を下げて道が整備されて貿易で大儲けすると、次は裸になって卑猥なことがしたくなるという意味だろう」といった冗談や、ストリップ小屋のネオン看板のようなハダカ姿の習近平主席の絵が掲示されるなど、さんざんおちょくられる始末です。

● 通商寛衣 

また、習近平を「教養のないことが恐ろしいのではなく、教養がないのにあるふりをすることが恐ろしい」とこき下ろしたり、言い間違えに引っ掛けて「裸になることが怖いのではなく、『王様は裸だ』と誰も指摘できないことが怖い」などいう批判も次々と登場したため、当局は検索や閲覧をすぐに禁止しました。

そもそも習近平は精華大学で博士号を取得したとされていますが、その博士論文はゴーストライターが書いたものだとか、他の論文を剽窃したものだという噂が絶えません。そのため皮肉を込めて「習近平博士」などと呼ぶ人もいるくらいです。

今回の件では、「貿易が盛んになると商売が忙しくなって痩せてしまうから、衣服がぶかぶかになる(寛衣)」という、「習博士がつくった成語」だから間違いではない、という痛快な揶揄もありました。

いずれにせよ、世界が注目するG20で大恥をかいた格好となってしまったわけです。かつて日本でも首相の漢字読み違いが取り沙汰されたこともありましたが、言論の自由がない中国では当局がすぐに削除、閲覧禁止にするため、かえって注目が集まる傾向にあります。

そして習近平がいくら自分を神格化しようとも、中国人民から人気がないことも明らかになってしまいました。習近平にとっては大失敗のG20だったのではないかと思います。

アメリカが中国の鉄鋼製品に反ダンピングなどで522%の関税を決定、EUでも中国製太陽光パネルに対して同様に関税をかけるなど、中国製品への関税を引き上げる動きが活発化しています。習近平のスピーチは、これを牽制して各国の関税を引き下げ、中国の過剰生産を解消したいという願望の現れでしょう。

改革開放後の中国では、自力更生の道を捨て、外国との通商によって生きる道を探ってきました。そしてここ30年来、中国は世界最大の通商国家となりました。

通商国家として欠かせないのは、他国との「共存共栄」です。いくら中国経済が順調であっても、他国の中国製品を買う能力が低下すれば、いずれ中国経済も没落が避けられなくなります。それが人類史の教訓です。

そのため、中国が通商国家として生きるための最低条件は、唯我独尊の中華思想を捨てることです。他国を恫喝したり、紛争を仕掛けていては、通商国家としては成り立ちません。

しかし、習近平はスターリン主義と毛沢東主義への復活を目指し、国内での言論統制を強化し、他国に対してもあからさまな覇権の意思を見せています。というのも、権力基盤を持たない習近平が党内の長老や旧来の権力者との権力闘争を打ち勝つためには、それしか手段がないからです。

「中華民族の偉大なる復興」「海洋強国」という覇権的スローガンを掲げながら通商国家として他国に受け入れてもらうなどということは不可能です。

そうした対外貿易と国内政治の二律背反性が、現在の中国に混乱をもたらす大きな要因となっています。だから習近平の外交は失敗続きなのです。

ところで、冒頭で述べたオバマ大統領のタラップに赤絨毯がなかった件ですが、毎日新聞では華春瑩副報道局長が「米国側の要求であり、故意にそうする理由はない」と述べたとあります。しかしこの報道では、なぜ米国側がそのように要求したのかがよくわかりません。

●<中国>「米国側の要求」 オバマ氏接遇問題

しかし、朝鮮日報ではその理由が書かれてあります。華春瑩副報道局長は「移動式タラップの運転手が英語を理解せず、米国の警備方針を理解できないという理由で、米国側がレッドカーペットを拒否したもので、意図的に冷遇したわけではない」と述べたそうです。しかし、米国側の警備係と意思疎通ができない運転手を用意したのは中国側でしょう。

● G20:中国、任期残り4カ月のオバマ大統領を露骨に冷遇
● G20:英紙「中国が巧妙にオバマ大統領を侮辱」

英国のガーディアン紙は「中国が巧妙にオバマ大統領を侮辱した」と報じていますが、中国側はそれを否定するのに躍起となっています。本来、習近平政権にとってはこのように釈明に追われるような出来事ですから、わざわざそのようなことをするとは考えにくいことです。

そこで囁かれているのが、習近平に恥をかかせるために、国内の反習近平派がわざとこのような事態を起こした、というものです。2014年9月に習近平がインドを初訪問した時期に、中国軍がインド国境を超えて侵入したという事件があり、モディ首相との首脳会談が非常に険悪なムードとなったということがありました。

習近平がインド訪問にあわせてわざわざ揉め事を起こすとは考えられず、このときも一部の人民解放軍が、習近平に恥をかかせるために行なったのではないか、という憶測が飛びました。

習近平が「腐敗追放」を旗印に自らの権力強大化を狙ってきたことはよく知られています。これまでの集団指導体制を切り崩して、独裁体制を確立しようと画策していますが、それがはたしてうまくいくかどうかは、未知数です。

突出した軍事費も中国の経済成長によって支えられてきましたが、それも今後は不可能になっていくでしょう。習近平は軍事改革を進めて軍権掌握に務めていますが、それが未完成の間は、対外軍事行動は不可能です。軍権掌握を進めるためにも、国際的な緊張を作り出すしかなくなってくるわけです。

今回のG20では、日中首脳会談が行われましたが、習近平は「日本は言動に気をつけるべきだ」などと注文をつけ、韓国とのTHAAD問題も溝が埋まることがありませんでした。

● 南シナ海で「言動に注意を」=中国主席、安倍首相に警告
● 習近平主席、「THAAD配備は紛争を激化させうる」

一方で、北朝鮮がG20の開催にあわせてミサイルを発射したことで、韓国にTHAADの正当性を与え、中国の面子は潰れました。

また、香港の立法会選挙では民主派勢力が30議席を獲得し、政府が提出する重要法案を否決できる議席3分の1以上を獲得しました。香港で中国政府の圧力への反発が高まっている現れであり、これも習近平にとっては頭の痛いことでしょう。

●<香港>反中勢力6人が当選 立法会選挙が開票

習近平がいくらG20の成功を印象付けようとしても、内外ではむしろ習近平への逆風がますます強まり、政権の求心力も弱体化しつつある、そうしたことが露呈してしまった2日間だったのです。

著者/黄文雄
台湾出身の評論家・黄文雄が、歪められた日本の歴史を正し、中国・韓国・台湾などアジアの最新情報を解説。歴史を見る目が変われば、いま日本周辺で何が起きているかがわかる!


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