2016.10.2 産経新聞
新聞は、ファクト(事実)を正確に伝えているだろうか。それとも論点をすり替えることに加担しているのか。
久々に、そんな興味深い考察をさせてくれたのが、ネットから発信されて広がった蓮舫氏の二重国籍問題だった。国会が開会となり、与野党の論戦が始まった今、その視点でもう一度、この問題を振り返ってみたい。
言うまでもないが、日本の国籍選択は、国籍法第14条によって規定されており、「二重国籍」は認められていない。また、外務公務員法には「外務公務員の欠格事由」の項目があり、二重国籍は厳しく戒められている。
しかし、蓮舫氏は、二重国籍を隠したまま、参院議員に3度当選し、平成22年には、行政刷新担当大臣という閣僚の座にもついていた。16年の参院選の選挙公報には「1985年、台湾籍から帰化」と書かれており、これは公職選挙法の経歴詐称にあたる。また、ネットの告発を契機に過去の蓮舫氏の発言も次々と明らかになった。
「(日本の)赤いパスポートになるのがいやで、寂しかった」(朝日 4年6月25日付夕刊)
「そうです。父は台湾で、私は二重国籍なんです」(週刊現代 5年2月6日号)
「在日の中国国籍の者としてアジアからの視点にこだわりたい」(朝日 5年3月16日付夕刊)
「だから自分の国籍は台湾なんですが、父のいた大陸というものを一度この目で見てみたい、言葉を覚えたいと考えていました」(「CREA」 9年2月号)
…等々、かつて、蓮舫氏は、二重国籍を隠すことはなく、堂々とこれを表明していた。つまり、蓮舫氏は、「うっかり手続きを怠っていた」のではなく二重国籍を認識し、その上で国会議員となり、閣僚となっていた。そして今回の告発がなければ、二重国籍のまま自衛隊の最高指揮官であり、外交責任者たる「総理」を目指す野党第一党党首となっていたのである。問題の核心は、ここにある。
では、新聞はこれをどう伝えただろうか。この核心をきちんと報じていたのは、読売と産経2紙だけで、ほかはこれらの重要なファクトを隠した上で、〈「純粋な日本人」であることは、それほど大切なのだろうか?〉(朝日 9月25日付)〈根底には純血主義や排外主義、民族差別意識があると感じる〉(毎日 同21日付)といった具合に論点はすり替えられた。
過去の蓮舫氏の発言を紹介し、二転三転する同氏の発言を正確に報じなければ、読者に論点は見えてこない。今回もそれらを補い、本質的な論争は、すべてネット上でくり広げられた。そこに生じたのは、ネットでも情報を取得する層と、新聞やテレビのみにこれを頼る層との圧倒的な意識の乖離(かいり)である。
国民にとって、新聞は、もはや必要不可欠な存在なのか。そんなことまで考えさせてくれた蓮舫氏の二重国籍問題だった。
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【プロフィル】門田隆将
かどた・りゅうしょう 昭和33年、高知県出身。中央大法卒。ノンフィクション作家。最新刊は、リーダーの本来あるべき姿を実録で描いた『リーダーの本義』。