自らの虚言を自覚できない厚顔無恥に失笑も
2014.2.27 産経新聞
欧州一のクリ生産国だったイタリア。1911年に83万トン近い生産量が2012年には1万8000トンにまで激減した。10年ほど前に中国より輸入した苗木に付着していた害虫が、瞬く間に全土に広がったせいだ。もちろん、イタリアの植物検疫の甘さが問題。もっとも、厳しくしたところで、中国国内の大気や沿岸の超弩級汚染同様、中国発の「害」は増殖し続ける。
中国も締結したはずだが、国際条約で開発・生産などを禁じた生物・化学兵器をおおっぴらに製造・拡散しているようなものだ。ただ、中国の食材・農林水産品が国際的信用を墜とせば、自身の国力を落とす。同じ様に、中国の軍事膨張や居丈高な恐喝まがいの暴言は、反中同盟を自然に結成させる反作用となって現出する可能性を秘める。《中国の自滅》である。
ダボス会議での厚顔無恥
絶えず中国の脅威にさらされるわが国には僥倖だが、笑っていられる立場にはない。憲法改正による自衛隊の国軍化や集団的自衛権の解釈見直しなど、安全保障上の欠陥を埋めぬ限り《日本の自滅》も有り得ない歴史ではない。傲岸無礼な中国と、憲法前文で《平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した》と謳い、国家防衛のエネルギーに欠ける日本。「国家の自殺」はどちらが先か…。
1月にスイスで開かれたダボス会議で、中国工商銀行の姜建清会長(61)が、会場を笑わせてくれた。洒落たジョークを発したからではない。自らの虚言を自覚できない厚顔無恥に、会場の政治家や国際機関・大企業・NPO法人幹部、学者らが失笑をこらえられなかったのだった。曰く-
「中国は平和を愛する国。他国を侵略したことはない。どの国も脅したことはない」
13年6月のシンガポールにおけるアジア安保会議でも中国人民解放軍副総参謀長の戚建国中将(61)が嘘をついた。
「中国は平和を愛する国家。海軍は周辺国に挑発的行為を採ったことはない」
さすがに、フィリピンのヴォルテル・カズミン国防相(69)が反論した。
「南シナ海で実際に起きている現実と全く違う」
以下、賢者を自任しても、どこか間が抜けている中華帝国について、米政府・軍に影響力を持つ現代を代表する戦略家にして戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問、エドワード・ルトワック(71)の近著《自滅する中国/なぜ世界帝国になれないのか=芙蓉書房》の助けを借りて、論じてみる。
「勝利による敗北」
《自滅する中国》に通底する論理的支柱の一つは、一方的に勝ち続けることで相手の反動を呼び起こし、結局は自らを滅ぼしてしまう逆説的論理《勝利による敗北》。政治・軍事・経済・文化・移民など、あらゆる分野での国際常識を逸脱した台頭・侵出は畢竟、周辺諸国はじめ諸外国の警戒感や敵愾心を煽る。中立的立場の国はもとより、友好国にとっても許容限度を超え、離反まで誘発。敵対関係にあった国同士の呉越同舟さえ促す。そうした国々は公式・非公式に連携・協力し、場合によっては同盟関係構築にまで関係を昇華させる。国際情勢は中国にとって次第次第に不利になり、その大戦略・野望を挫く結果を自ら引き寄せる。
実際、日本はベトナムに経済支援を実施→ベトナムはロシアから潜水艦を購入→同型潜水艦を運用するインド海軍が、越海軍乗員を訓練する-互いに意図しなかった構図を生んだ。一時後退していた米比の軍事関係も、元に戻り始めた。戦略的協力への進展度合が遅く、どこかもどかしい米印関係も、牛歩ながら前進している。全て中国の脅威の“お陰”だ。
自国のパワー増大がもたらす、反中包囲網によるパワーの減退という皮肉=逆説的な状況の回避には「軍の拡大を遅らせる」以外にない。ところが、中国は他国への挑発的大戦略を止められない。なぜか-
まず、中華思想に魅入られた中国に「対等」という感覚はない。冊封体制や朝貢外交に代表される「上下関係」が全てだ。しかも、2500年以上前の春秋戦国時代に著されたとされる《孫子の兵法》にもあるように、陰謀や騙し合いを当然のごとく繰り返してきた。漢民族は狡猾な策略こそが知恵だと信じて疑わず、欧米や日本などは権謀術数によって操れ、優位に立てると過剰なまでに確信する。
漢民族に戦略の才なし
しかし、それは同一文化内では通用するものの、異文化に強要すれば自国の崩壊を招く。モンゴルやトルコ系王朝、満州族に敗戦を喫したため、過去1000年において漢民族が大陸を支配したのは、明王朝(1368〜1644年)時代ぐらい。ルトワックは自信を持って断じている。
「漢民族に(彼ら自身が思っているような)戦略の才はない」
ルトワックは、中国に対抗する策も進言する。中国経済鈍化=軍拡の鈍化を狙った、中国を脅威と捉える国々による対中経済・通商包囲網の構築である。ただし、こう付言した。
「韓国は例外で、中国に擦り寄った」
そういえば、韓国の金寛鎮国防相(64)は「済州島に韓国海軍の基地が完成したら中国船舶も寄港は可能だ」と語った。大国に媚びへつらう事大主義を絵に描いたような発言。脅威対象が奈辺にあるか分からず、国家を衰退させてきた伝統・文化は不変のようだ。
ところで、米アジア太平洋安全保障研究センター准教授が外交誌ナショナル・インタレストで明言している。
《中国と韓国は日本を孤立させようと考えているが、日本は国際社会で孤立してはいない。むしろ、南シナ海の行動で中国が孤立している》
米ケイトー研究所の上席研究員もインタレスト誌で《安倍晋三政権が憲法改正に踏み込んでも、中韓両国以外は驚く程好意的》と指摘した。
日本が早期に安全保障上の欠陥を是正すれば「国家の自殺」を回避。うまくいけば《中国の自滅》を目の前で堪能できるやもしれない。その際には、中国単独の「自殺」より、韓国を巻き込んだ「無理心中」を期待したい。日本に安全保障上・経済上の悪影響のない範囲で…。
(政治部専門委員 野口裕之)
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