【論説】建国宣言、静かなる革命

【論説】建国宣言、静かなる革命

   アンディ チャン

ニューヨークタイムスに建国宣言が出てから六日たち、たくさんの電話やメー
ルを戴いた。日本の桜チャンネルに短いニュースが載り、それを台湾の友
人に転送したあとは反応が大きかった。桜チャンネルの報道で、「建国宣言
を世界に向けて発布したのは終戦以来始めてのこと」と言ったのを聞いて、
その意味の重大さを悟った台湾人、日本人がかなり多い。

●建国宣言の意義と内容

建国宣言は三つの段落だけである。(1)台湾の帰属は未定であり、台湾人
に自分の国を建てる権利がある。(2)台湾人は中国人でない、中華民国は
流亡政府である、中国人を恐れるな。(3)我々の国を建設することを世界に
宣言する。

台湾の帰属が未定となり、当時の住民は無国籍となった。当時の住民
とその子孫に建国の権利がある。この宣言には正当な理由があり、世
界各国は否定することが出来ない。しかし中華民国からの独立なら中
華民国の反対はもちろん、中国の干渉さえ受ける。宣言では明確に否
定している。

台湾には13%ほどの中国人が居て、彼らを建国宣言に入れると中華民
国から独立することになり中国人の妨害を受ける。自力建国すら難し
いのに外省人を入れるなら彼らの「隠された目的」を否定できない。

●静かなる革命がおきている

前の記事(No. 324)にも書いたように、原稿作りの際に今の台湾住民、
つまり在台中国人も含めた台湾の住民がみんな参加して「独立」すべ
きだと主張した人が最後まで私の書いた建国宣言に同意せず、毎度の
討論に結論が出ないようにしてきた。建国と独立の違いがわからない
のではなく、わかっているから建国宣言をさせない「隠された目的」
があったのかもしれない。この疑問は最後まで解けなかった。

台湾人民が先だ、ニューヨークタイムスに掲載しても人民が動かなければダ
メ、台湾人民に向けて檄文を書くべきと言う人も居た。実際には世界に向け
た「台湾人の初の宣言」だけで大いに効果があった。

台湾に住む人たちも世界に向けた宣言を読んだ。読んだから効果があっ
た。一人が行動すれば続く人が出る。これが静かなる革命の始まりである。
私は静かなる革命を起こした隊長ではなく、喇叭を吹いた二等兵である。み
んなも隊長になろうとしせず、進軍ラッパを吹く二等兵になって欲しい。

宣言が掲載されると、たくさんの人が掲載ニュースや写真を方々に転送して
くれた。ある人は友人に電話でかけまくり、ある人は台湾の新聞にタイムスの
ニュースを送り、別の人は台湾人新聞に建国宣言を出し、費用を負担すると
いう。

この人が出した金で今日、18日のロスの台湾日報に英文と漢文の建国宣言
が掲載された。すると広告を見た友人がすぐに電話してきて、彼もこの「無名
の人」に続いて同じ建国宣言を掲載する資金を出す、と教えてくれた。彼ら
はみんな行動派、尖兵となったのである。

これまで行動する方法を知らなかった大衆が、あるヒントを得て行動を起こ
せば、それが「草木皆兵」、号令を掛ける隊長でなく、みんな「蔭葦」となって
中華民国に大きな脅威を与える結果を齎す。檄文を書くか、建国宣言をす
るかと議論するより、「まず行動しろ(Just Do It)」である。

●台湾人の権利と義務

建国宣言がでたあと、たくさんの人が中華民国から独立するのではなく自力
で建国するのである、我々は終戦からこのかた、国籍を失った台湾人民に
は自力で建国する権利を持ちながら誰もやらなかった、と電話してきた。

台湾人は建国する天賦の権利がある、中国人には干渉する権利はないと
いう事実に気がついて、多くの人が同意したである。この建国宣言で台湾人
の持つ天賦の人権の重さがわかり、自由と民主の価値観を知ったこと、これ
が大切なのである。

宣言は三段落しかないが、この三段落を読めばその深い意味がわかり、台
湾人全体が同意できる。

終戦当時の台湾人とその子孫に台湾建国の権利がある。中国人は台湾人
民の建国に干渉できない。終戦からこれまで民衆は自力で建国せず、民進
党と呼ぶ中華民国の政党が選挙で国作りが出来ると騙されてきた。民衆が
建国宣言を読めば中華民国から独立するのではなく、自力で建国すること
が理解できて、みなが建国に参加するようになる。

「建国の権利」は台湾人民にあるが、同時に「建国の義務」も台湾人民にあ
る。政党に頼ってはいけない。台湾人政党を名乗る民進党は個人の利権、
中華民国の利権を得るための政治運動で、台湾建国は主張しない。

成立当時の民進党は「台湾の独立を目差す」と綱領に書いてあった。しかし
今の民進党員は選挙しか口にしない。建国を考えない党員が民衆を惑わ
す現状を打破しなければ台湾建国はできない。

●足並みを乱す者

建国宣言を発表したあと気になることがあった。私が各団体の同意を得ない
で勝手に団体の署名を書き入れたことを「疑う」と言う人がいたのである。私
は台湾に行って各団体を訪問し、代表に宣言原稿を渡して説明し、代表が
了承したあと理事会で討論、同意してから団体名を書き入れたのである。
「疑い」のウイルスを撒いて宣言効果を減らすつもりかもしれない。

次に私が台湾で接触した代表の名前を教えろと言ってきた。参加を拒否し
た人が賛同した団体の名や、代表の名を聞くのはいかにもおかしいので返
事をしなかった。団体の名はすでにタイムスに出ているからわざわざ聞くこと
はない。参加しなかった人が掲載された後になって代表の名を探るのはお
かしい。返事をする必要もない。

ある人は寄付金の会計報告を出せと電話してきた。これは善意の勧告なの
か、寄付者の名簿を公開すればブラックリストに載るのか判然としない。

寄付をした人は少ない。私に握手をしてくださいといって、そっと現金を握ら
せてくれた人がいた。名前を言わなかったが非常に心が温まる思いがして
感謝している。この人以外に現金や小切手をくれた人はみな友人で、発表
後は電話、メールで報告している、公開する必要はない。

● マタイ福音について

この度の計画でいろいろな暖かい援助で感謝すべきことがたくさんあ
ったが、人を見ることの大事さを経験し、反省すべきこともあった。
反省は大事なことなのでここに書いておく。

台湾の政治は複雑で、それぞれ違った主張があり、主導者になりたが
る売名行為も多い。同志が他人の意見を自分の物として宣伝する、陰
口を言うなどの苦い経験をした人も多い。建国運動は団結が大切だが、
一度でもこのような目にあえば感情に罅が入るのは確かである。

ある人が非常に嫌な経験をして、それを何度も言うので、私は生意気
にもその人に対し、台湾で政治運動をするなら人を許すべきで、融和
と団結が大切だと言ったら、許すことは絶対できないと叱られた。

私はクリスチャンではないが、偉そうにマタイ福音書を引用して、キ
リストは人を赦すのは7度ではなく7を70倍せよと言ったではないか、
人を許し、合作してこそ団結できると生意気にも説教したのだった。

ところがあるとき気がついて、その人の体験を自分に当てはめて「彼
らを許せるか」と自問したところ、自分でも許すことが出来ないこと
がわかった。そこで始めて人を許すのがどんなに難しいか、大いに反
省したのである。

他人に勧告するのは易しいが、自分が行うのは難しい。人を許せと説
教するのは易しいが、自分の体験なら「許せない」と思う。人に勧告
するより他人の身になって自省すべきだと悟ったのである。自分が出
来ないことを他人に要求するべきではない。

●隠された目標

断っておくが、私は今回の体験である人を許す、許さないと言ってい
るのではない。私の提案した建国宣言計画はいろいろな理由をつけら
れ、半年以上も遅れたのである。同志か、スパイかと考えたらもう許
す許さないの問題ではない。警戒心を高めて対するだけである。

この考えを私の尊敬する友人と相談した結果、次のような結論が出た
ので読者諸氏の参考に書いておくことにしたい。

(1)赦すのは神の仕事、人間の仕事ではない。
(2)赦しても決して忘れるな(You can forgive, but never forget)
(3)いつも用心して、安易に人を信用せず無防備になるな。
(4)立ち止まって相手に「隠された目的」があるか考えろ。
(5)喋るより聞く方に回れ。雄弁は銀、沈黙は金なり。


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