【論説】ラファイエット事件(22)

【論説】ラファイエット事件(22)

          アンディ チャン

國際商務仲裁の判決

パリの國際商務協会(ICC : Chambre de Commerce Internationale)は5月3日、
台湾の中華民国海軍が2001年7月にフランスのトムソン社に対し、ラ
ファイエット艦の購買契約で支払ったリベートの払い戻しを要求した
件で、ICCはフランスの武器製造会社Thales社(元Thomson社)に総額
1億7千万ユーロと利息及び訴訟費用の払い戻しを命じた。この判決
は仲裁法廷判決で世界記録の高額となり、8億6千万ドルに達すると
言われる。

ラファイエット事件とは台湾の軍艦購入にまつわる汚職スキャンダル
で、中華民国、フランスと中国の三国にまたがる汚職、証人抹殺、売
国行為などを含む大汚職事件である。金と政治と暗黒社会の絡んだも
ので、89年に始まった契約交渉にまつわる三国間の軍人や政治家が絡
んで解決できない複雑な事件である。

●ラファイエット事件の概要

1989年、中華民国海軍は韓国からアメリカの設計図による200トン級の砲艦
を16隻購入する計画だったが、フランスの勧誘で当時の参謀総長・?柏村
が強引に6隻のラファイエット艦に変更した。

そこへ中国の抗議が入り、フランスは台湾側に渡す約束だったラファイエット
艦の設計図を中国側に渡し、台湾側はフランスから購入した6隻に搭載され
る武器を中国側に「献上」し、空の船を持ち帰った。その上で契約の水増し
による黒い金を三国艦で分け合ったのだ。明らかな売国行為だが中華民国
政府は売国行為を追及していない。追求すれば国民党が潰れ、中国政府
でも多くの人物が処罰されるからである。

ラファイエット艦の原価は6隻で13億ドルだったが、最終契約では26億ドル
に水増しされ、13億ドルが闇に消えた。なお、契約書にはリベートを取らな
いと明記したにも拘らず、契約書の最後尾にリベートは18%と明記され、ト
ムソン社は仲裁案にある5億ドルのリベートを取ったことが明白である。

中華民国海軍は26億ドルで空船を持ち帰り、17億ドルの武器購入の追加
予算を組んだ。船と武器の原価が13億ドルなのに、17億ドルの武器予算だ
からここでも大幅な水増しは明らかである。この武器購入に関し、新しく購買
部長に任命された尹清楓大佐が汚職仲間に加わるのを拒否して殺害され、
事件が明るみに出た。

フランスでは契約が成立した後、エルフ石油会社の副社長シルバンがトムソ
ン社に対し、契約どおり1%のリベートの支払いを要求したが、トムソン社が
支払いを拒否したので、シルバンはスイス法廷に提訴して勝訴した。これが
今回の國際仲裁法廷で台湾側が提訴したリベート存在の根拠となり、トムソ
ン(テールス)社の敗訴となったのである。リベートはトムソン社が台湾に5%
還元したほか、シルバンが1%のほか、台湾側のブローカー汪傳浦
(Andrew Wang)に1%、リリー劉05%などがある。しかし13億ドルが
闇に消えたのだから残りは少なくとも6億ドルほどある。

フランスの元外交部長デュマの証言によると台湾に還元したリベート
5億ドルはアメリカを経て台湾に送金され、この内1億ドルが中国の
高官(6人と言われる)、4億ドルが台湾海軍と国民党高官に渡ったと
言う。13億ドルの内5億ドルが台湾に渡り、シルバン、汪傳浦(Andrew
Wang)などのリベートを計算に入れても残りの金額とフランス側のリ
ベートは解明されていない。当時の内政部長サルコジー(現大統領)
がリベートの分配を主導した噂があり、リベートを受け取ったフラン
ス側の政治家の名簿などが元首相ドビルパンが関係したClear-stream
事件に発展した。アメリカの民主党長老も貰ったと言う噂もある。

これまでに台湾とフランスの両国で十三人以上の関係人物が不審死を遂げ
ている。台湾の軍部はフランスからラファイエット艦を購入(Operation Bravo)し
たあと、ミラージュ戦闘機(operation Tango)やMicaミサイルの購入契約でも多
額のリベートを支払ったと言われている。Tango計画はBravoの二倍以

で、リベートも二倍以上だったと言われるが、調査は難航している。

●リベート返還訴訟

トムソン社とのラファイエット契約ではリベートを取らないと明記し
てあるにも拘らず、同じ契約の最終部に「リベートは18%」と明記し
てある。しかしこの訴訟を起こしたあとトムソン社は支払いを拒否し
たので台湾側が國際商業仲裁に持ち込んだのである。リベートの存在
はシルバンがトムソン社を訴訟したとき既に明白だったので、仲裁案
はトムソン社に不利なことはわかっていた。だがトムソン社が5億ド
ルと利息の支払いを命じられれば会社が潰れるので、フランス政府は
さまざまな方法で和解を申し込んでいた。

フランス政府の提示した条件の一つは、85年に開発したダッソー社の
最新型Rafale戦闘機と、8隻の掃雷艦の販売だったが、フランス側の
提示した値段は一般に知られている値段より遥かに高額で、値段を吊
り上げてリベートを解消する意図が見え見えだった。

●台湾側の反応

台湾の中華民国政府はこれまで通り政府高官や軍隊が勝手に値段を吊り
上げた契約を結んで汚職することが難しくなった。だが中華民国はフランス
と国交がないため交渉は難航して、司法や仲裁に頼ってもフランスが簡単
に払ってくれるはずがない。

そこで台湾政府は元トムソン社のエージェントで、同時に台湾海軍のエージ
ェントでもあった汪傳浦(Andrew Wang)が多額のリベートを取っていた事実を
突き止め、スイス法廷に提訴して汪傳浦及び彼の家族の銀行口座、64個の
口座を凍結して台湾に引き渡すよう要求した。

同時に台湾の司法部はチューリッヒ銀行に保管されていた汪傳浦の資料の
引渡しと、汪傳浦本人の引渡しを要求したが、汪傳浦はイギリスの国籍を持
っているため英国に逃れ、当時の行政院長・謝長廷が汪傳浦の命を保証す
る条件でスイス側は二箱の資料を台湾に渡した。

ところが当時の国民党党首・馬英九は資料が公開されることを恐れて司法
部に「公開禁止」を命じた。その後になって二箱の資料が紛失したと言う噂
もあるが、資料は今日まで公開されていない。

●ラファイエット事件の問題点

ラファイエット事件は國際汚職、売国行為、國際スパイ、証拠隠滅と
暗殺事件である。そしてこの事件に関連したのは台湾の中国人、中国
の高官とフランスの高官で、特に中華民国海軍は世界に分布している
チンパン(青幇)と台湾のヤクザ組織・竹聯幇との関連が強いので、
事件の関係者が事実を喋る前に消されてしまうか、消されることを恐
れて関係者は口を噤んでいる。

また、中華民国政府は事件の解明を避けているため、フランス政府(テ
ールス社は半官半民の会社である)に強く要求せず、汪傳浦の銀行口
座にある金を取り戻せばよいと宣伝している。だが汪傳浦の口座にあ
る金は明らかな違法所得で、テールス社の金を返すことではなく、彼
個人の違法リベートの金を取り戻すことなのである。

もう一つの難点は汪傳浦が台湾側とトムソン社から梅取ったリベート
は、ラファイエット契約以外にミラージュ戦闘機、Mica空対空ミサイ
ルの購買にも拘っているので、彼の口座から全額を取り戻してもトム
ソン社がラファイエットの全額を払い戻したことにならない。

ミラージュ戦闘機の契約はラファイエット契約の二倍以上で、リベー
トも二倍以上ある。これを調査すれば?柏村の他にも沢山の政界大物
がかかってくるので、台湾の中華民国政府は隠したがっている。

フランスから購買した軍艦の武器を中国側に引き渡した軍人の売国行
為は死刑に値するものだが、青幇のコントロールにある海軍に事実を
喋る人間はいない。民間では軍と政府の合作が得られず、竹聯幇が怖
くて調査が出来ない。売国行為を追求すれば台湾の軍人や政治家のほ
かに中国の政治家が敵に回るので、台湾のスキャンダルは解決がつか
ない。独裁国家では正義は通らないのである。


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