日本李登輝友の会メールマガジン「日台共栄」より転載
好田 良弘(日本李登輝友の会会員)
昨夜(8月19日)放映されたBS日テレの「深層NEWS」は、前夜(8月18日)に引き続き、台
湾人従軍経験者の証言を放送していた。高齢にもかかわらず、はっきりとした証言は興味深いもの
であったが、第1回放送分と同様に、解説の一部と番組進行役の姿勢には疑問がある。
まず、武見敬三氏による解説の大部分は、客観的な事実を伝えていた。しかし、日本の敗戦で、
台湾人が「中国人に戻らされた」という解説には納得できない。
「戻る」というのは元に復することだが、証言者のように、日本統治下に生まれた台湾人が中国
人であった時期はない。つまり、生まれた時から台湾系日本人であったが、日本が台湾の統治を放
棄した結果、中国国民党の実効支配により、「中国人にさせられた」のが事実である。少なくと
も、証言者の一人である金沢武勲氏が見せた涙は、中国人に「戻らされた」のではなく、中国人に
「させられた」屈辱の大きさを物語っていたのではないか。
したがって、「中国人に戻らされた」というのは、武見氏の主観を反映した表現であると言え
る。昨夜の放送で、武見氏は台湾人の従軍志願について、「日本人になろうとした」とも解説して
いた。
これら一連の発言から、武見氏の台湾人観について読み解くと、「台湾系日本人といえども、そ
の本質は中国人である」。だから、従軍志願は日本国民としての義務感によるものではなく、「中
国人が日本人になるための努力活動であった」。しかし、日本の敗戦により努力は無となり、元の
「中国人に戻らされた」ということになる。
次に、私有財産である軍事郵便貯金残高の精算問題について、武見敬三氏からは、日本政府の働
き掛けにもかかわらず、台湾の実効支配者であった国民党政府の都合により、長年、放置された経
緯の説明があった。非常に理解しやすい説明であったが、説明を受けた番組の進行役は、問題の所
在を植民地支配に集約し、結論とした。その結論には、武見氏による解説を消化吸収した形跡がな
かった。
つまり、進行役には、武見氏の解説を消化吸収して集約させる柔軟性を見ることが出来ず、ただ
「植民地支配に対する痛切な反省とおわび」による思考の硬直化だけが顕在化していた。その姿勢
で、取材の成果や解説の内容を、視聴者に対し、正しく伝えることができるのだろうか。
ただ、前日放送分を含め、番組の大部分を占めた台湾人従軍経験者の証言は、これまで台湾で話
を聞く以外には知る機会がほとんどない、大変貴重なものだった。これらを家庭で視聴する機会を
提供した今回の番組放映には意義がある。
総括すると、貴重な証言の数々とともに、武見敬三氏の台湾人観と番組進行役の硬直した思考を
発見したことも、番組を視聴した成果なのかもしれない。
【8月20日】