【最強兵器としての地政学】帝国主義的な中国の暴走を防ぐため、「台湾」防衛は重要
【ZAKZAK(夕刊フジ):2016年10月24日】
ランドパワー(大陸国家)である中国は、19世紀的ともいえる露骨な帝国主義政策をとってい
る。マージナルシー(縁海)である東シナ海や南シナ海を、自らの領海化しようとしている。
このため、東・南シナ海の防衛はシーパワー(海洋国家)である日本や米国にとって、最も重要
な課題になっている。東・南シナ海の結節点が台湾である。
台湾が中国に併合されれば、東・南シナ海を防衛することは極めて困難になる。逆に、台湾が日
米の友好国として独立を保っている限り、2つの海を中国が支配することはできない。台湾防衛は
日本本土の防衛にとっても重要な意義を持っている。沖縄の米軍は台湾防衛のためでもある。
台湾が「世界一の親日」だから守れというのではない。台湾が好きでも嫌いでも、台湾との“同
盟関係”が不可欠なのだ。台湾は日米両国にとって、まさに“不沈空母”の役割を担っている。
2016年1 月の総統選で、台湾の人々は民主進歩党(民進党)の蔡英文主席を選び、「中国に併合
統一されたくない。台湾は独立建国の道を歩む」という決意を世界に示した。実に勇気ある決断で
ある。
台湾は、輸出の約4割が中国向けで、GDP(国内総生産)を超える資本を中国に投資してい
る。総統選での決断によって、中国からさまざまな圧力が強まることは覚悟のうえなのである。
台湾の防衛は、第二次世界大戦中の英国本土の防衛「バトル・オブ・ブリテン」を、模範とする
ことができる。
英国は、ドイツ軍の波状攻撃を受けたが、ドイツ軍の上陸・占領を断念させた。英国本土防衛を
勝利に導いたのは、3つの要因だった。
第1は、制空権(航空優勢)を守り抜き、それゆえ制海権(海上優先)をも維持し、ドイツ軍の
渡海・上陸作戦を不可能にした。制空権がなければ、ドーバー海峡を渡って英国本土に上陸するこ
とが可能だった。
第2は、米国という後背地(補給基地)が存在し、苦境にあった英国を同盟国として支えた。
第3は、最も重要だが、英国民が不屈の忍耐力と独立心を保ち、防衛戦争を戦い抜いた。
別表のチャートは「第二次大戦中の英国」と「現在の台湾」のアナロジー(類似)を分かりやす
く説明したものだ。
現在の台湾にとっては、米国と日本が後背地の役割を果たすことになる。第二次大戦では、ソ連
が英米両国の同盟国だったために、英米はドイツを挟み撃ちにすることができた。
もし、日米台がロシアの協力を得ることができれば、中国を挟み撃ちにできる。バトル・オブ・
ブリテンと同じ戦略をとることができる。
安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が今年12月に行う、日露首脳会談の重要性が分かるだろ
う。=おわり
■藤井厳喜(ふじい・げんき)
国際政治学者。1952年、東京都生まれ。早大政経学部卒業後、米ハーバード大学大学院で政治学博
士課程を修了。ハーバード大学国際問題研究所・日米関係プログラム研究員などを経て帰国。現在、拓殖大学客員教授。近著に『「国家」の逆襲』(祥伝社)、『最強兵器としての地政学』
(ハート出版)など。
・書 名:最強兵器としての地政学─あなたも国際政治を予測できる!
・著 者:藤井厳喜
・版 元:ハート出版 http://www.810.co.jp/hon/ISBN978-4-8024-0023-7.html
・体 裁:四六判、並製、本文216ページ
・定 価:1,620円(本体 1,500円)
・発 行:2016年9月22日
◆ケンブリッジ・フォーキャスト・グループについて:藤井げんき
http://www.gemki-fujii.com/cgf/