ブログ「台湾は日本の生命線」より。ブログでは関連写真も↓
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■台湾新政権の発足に中国は穏やかならず
台湾では五月二十日、国民党から民進党への政権交代が行われ、蔡英文氏の総統就任演説が行われるが、NHKは十一日、それに対する中国の態度を次のように伝えている。
―――台湾の総統に、中国が独立志向が強いと見なす、民進党の蔡英文氏が就任するのを前に、中国政府は台湾海峡の危機にも言及しながら、蔡氏に「1つの中国」という考え方を受け入れるよう圧力をかけました。
―――就任演説に「中国大陸と台湾はともに1つの中国に属する」という考え方が取り入れられなかった場合は、報復的な措置を取るとみられています。
―――国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は、11日の記者会見で、中国と台湾の間では1992年に当時の窓口機関どうしが「1つの中国」という考え方で一致したと主張し、2008年から続く国民党政権下の台湾とは、「この考え方を基礎にして平和と安定を保ってきたのであり、こうした現状が続くよう望んでいる」と述べ(中略)一触即発の事態を連想させるような「台湾海峡の危機」にも言及しながら、蔡氏に「1つの中国」という考え方を受け入れるよう圧力をかけました。
どうも穏やかではないようだ。
■「台湾海峡の危機」を仄めかす中国
この「92年に『1つの中国』という考え方」での台中の「一致」は「九二共識」と呼ばれ、日本でも「九二年合意」「九二年コンセンサス」などと訳されている。産経新聞の用語解説(一月十一日)によれば、
―――(中台)双方が中台は不可分だとする「一つの中国」を確認した。
―――その一方、台湾の国民党政権は「中国」が「中華人民共和国」と「中華民国」のどちらを指すかは各自で解釈できると説明しているが、中国側は公式に認めていない。
―――文書はなく、民進党は「合意は存在しない」との立場を取っている。
このような「合意」を、台湾併呑を国家目標に掲げる中国は対台湾交流の「政治的基礎」と位置付け、国民党政権もそれに応じて来たわけだが、しかし民進党は、「一つの中国」なる虚構宣伝を認めておらず、「九二年合意」の存在も認めていない。
そのため中国は同党に対し、再び「台湾海峡の危機」を招来したいのか、と恫喝を強めつつあるのである。
■中国に軒を貸せば母屋を取られる
それでは民進党の新政権は国民党の馬英九政権と同様に「一つの中国」原則を受け入れ、自らの国家主権を制限、あるいは否定するかのような姿勢を示し、緊張の高まりを防ぐべきなのだろうか。
やはりそうではないだろう。
これは日本にしても南支那海沿岸国にしても言えることだが、こうした中国覇権主義の前での徒な譲歩は、「軒を貸して母屋を取られる」という事態に発展しかねないし、そもそも中国はまさにそれを狙っているのである。
ここは日本もASEAN諸国も台湾新政権との提携を深め、共同で中国に対する抑止力を構築して行くべきではないだろうか。なぜなら台湾がこれ以上中国の側に傾斜して行けば、アジア太平洋地域に大きな影響が及ぶこととなる。いずれ台湾が呑み込まれれば、東支那海、南支那海、そして西太平洋までが、みな中国の「内海」と化してしまいかねない。
台湾でも、たとえば李登輝元総統は、そうした中国への譲歩による国家主権の喪失について警鐘を打ち鳴らし続けてきた。
中国が目下注視するのは蔡英文氏が就任演説で中国の要求にどう応えるかだが、李登輝氏は十二日、「九二年合意を認める必要はない」と訴え、注目を集めている。
「中国の圧力は受けるだろうが、恐れる必要はない。逮捕されて銃殺にされるわけでもない」と蔡英文氏にエールを送るとともに、「九二年合意」は「もともと存在しない」「嘘を強引に真実にするなど、私は同意できない」などと、こうしたものを振りかざす馬英九政権を非難したのだ。
■李登輝元総統が明らかにする「歴史事実」
実は、九二年当時に総統だったのがこの李登輝氏だが、その彼はこれまで一貫して「九二年合意は存在しない」と証言し続けている。
今回の李登輝氏の合意否定発言を受け、慌てたのが馬英九政権だ。総統府報道官は「李元総統は恣意に歴史事実を否定している。しかし歴史は変えられないし、他人からも自分の過去に向き合いたがらないでいると勘違いされるのでは」と批判したのだが、これに対して民進党の徐国雄立法委員(国会議員)は次のように反論している。
「李登輝氏への反論は、総統府こそが歴史を歪曲していることの証である。九二年合意なる名称は蘇起氏の発明であることは彼自身が認めており、これもまた合意が虚構たる証明だ」と。
この蘇起なる人物は、馬英九政権下で国家安全会議秘書長を務めた人物で、彼が大陸委員会主任委員当時の二〇〇〇年四月、つまり民進党の陳水扁政権発足の直前に「九二年合意」を創作したことは台湾では常識だ。
国家のために中国との間の緊張を緩和させるためだったと本人は説明するが、要するに蘇起氏も馬英九総統と同じ中国系なのである。
民進党の台湾人政権の発足で祖国との戦争をするくらいなら、進んで台湾の主権を祖国に献じてしまおうという彼ら特融の降参主義的な考えで、「九二年合意」を案出したのだろう。
蘇起氏が創作した「合意」内容は前記の産経の解説の通り。「『中国』が『中華人民共和国』と『中華民国』のどちらを指すかは各自で解釈できる」というものだが、中国はそこまでの内容は「公式に認めていない」。
それは当たり前である。あの国が「中華民国」の存在を認める訳がないからだ。
言わば「合意なき合意」と言うことか。しかし馬英九政権はその件に関し、中国側に抗議することはないのである。これもまた同政権が降参主義に陥っている証だろう。
■どこの国の味方か―またも産経社説は玉虫色
ところで、日本においても、蔡英文政権の対中譲歩を呼び掛けるような言論が見られる。
「台湾政権交代 地域の安定に資する道を」と題する産経新聞の十四日の社説などはそれだ。
実は民進党の政権交代に関する産経の社説は、なぜかいつも玉虫色で、焦点が?みにくい。
要するに中国やそれに迎合する馬英九政権を批判し、日頃の産経色(同紙は中国から右翼(=反中)媒体と批判されている)は見せてはいるものの、しかしよく読まないと分からないかもしれないが、他方ではたしかに、その中国に対する譲歩を、民進党に求めているように見えるのだ。
そして今回もまさにそれなのである。たとえば、先ずは馬英九政権をこう批判する。
―――2期8年にわたった中国国民党の馬英九政権の下では、急速な対中接近が進み、アジアの安定が崩れることへの懸念も生じた。
そして中国の覇権主義的な姿勢に対しても、しっかりと次のように。
―――中国の狙いは、経済的に台湾を取り込むことで、政治的にも中国の支配下に置くことにある。中国は、「独立派」とみる民進党への政権交代を控え、外交分野で台湾への圧力を強めている。
―――中国はこの数カ月だけでも、台湾を外交承認していた西アフリカのガンビアと国交を回復し、経済協力開発機構(OECD)の国際会合から台湾代表を排除した。
―――民主的な政権交代の意義を理解せず、次期政権の出ばなをくじこうとする横暴は到底、容認できない。中国共産党は台湾の武力統一も辞さないとの構えも崩しておらず、蔡新総統は、難しいかじ取りを迫られよう。
ところが…
■産経支える「産経ファン」なら納得しまい
社説はその後一転し、「九二年合意」の受け入れを求める中国の期待に、民進党政権ができ得る限り応えるよう訴えるのである。
―――中国共産党は、「一つの中国」の原則を中台双方が認め、その解釈をそれぞれに委ねた「92年コンセンサス」の確認を、台湾の次期政権にも求めている。民進党はその存在を認めていないが、蔡氏は、これまで中台が積み上げた「既存の政治的基礎」を尊重するとの柔軟な考えもみせている。
―――蔡氏の就任演説には内外の目が注がれている。地域全体の安定を視野に、台湾の発展を実現できる賢明な指針を示してほしい。
要するに就任演説は中国が納得してくれる内容でやってほしい、と産経は蔡英文氏に要求したわけだ。
ここでは中国に妥協することを「賢明」と呼んでいる。賢明とは「判断が適切なこと」を指すが、敵性国家に歩み寄るのがなぜ適切な判断なのか。産経社説は以前にも同じ意味でこの言葉を使っているが(一月十七日社説「政権交代 民意踏まえ賢明な道探れ」)。
それから「地域の安定を視野に」などとも訴えている。これに思い出すのが上記の「一つの中国の考え方を基礎にして平和と安定を保ってきた現状が続くよう望んでいる」という中国政府の蔡英文氏に対するアピールだ。
まさにそれと軌を一にしてはいないか。こんなことをわざわざ訴える目的は何だろう。やはり中国と同様、蔡英文氏が緊張を高めるトラブルメーカーであるとの印象を広めるためだろうか。
想像だが、これを書いた記者は、もしや中国とは関係がとても深くはないか。そうしたことの確認は、産経社内で行われるべきだ。
そもそも産経は、台湾の新政権に対中妥協を求める社説を掲げる閑があるなら、中国の「横暴」をもっと非難するとか、日本政府に対中国での日台連携の強化を求めるとか、そんな内容の社説を掲げるべきではなかったか。
よく産経は保守派層の「産経ファン」に支えられていると言われるが、その「ファン」達も、それを望んでいるはずだ。
繰り返すが、日本は台湾の中国接近こそに警戒をするべきなのである。