激論ムック・最新号「迷走日本の行方」より転載(書店販売中)
「台湾の声」編集長 林建良(りんけんりょう)
2009年8月11日、原住民枠で選出された台湾の国会議員
高金素梅やその配下が、土足で靖国神社の本殿に登り、ハンド
マイクで「先祖の霊を返せ」と騒いだ。この不埒な行動を阻止
しようとする老齢の守衛がもみ合いの中で軽傷を負ったが、
一行はこの犯罪行為を日本政府に追及されることもなく、抗日
勝利宣言までした。その直後、高金素梅は北京に行き、胡錦濤に
「台湾少数民族による外来侵略勢力への不撓不屈の闘争」と称え
られた。
日本人が中国の慰霊施設でこのような騒ぎを起こしたら、ど
うなるのか。中国からなんの咎めもなく意気揚々と日本に戻れ
るのか。日本政府になんの抗議もなく、外交問題にも発展しな
いですむのか。これは絶対あり得ない。中国だけでなく、どん
な国でも慰霊施設で狼藉するような行為は到底許されることで
はない。しかし、世界の常識ならあり得ないことが、日本では
現実に発生したのだ。
●まず、高金素梅とは何物か。
その名が日本で知られるようになったのは二〇〇二年だった。
靖国神社に「先祖の霊を返せ」と抗議したことをNHKが大々
的に報道したことをきっかけに注目された。その翌年、彼女は
靖国神社とそこを参拝した日本の首相を相手に「苦痛を与えら
れた」として訴訟を起し、日本のマスコミが「反靖国台湾国会
議員」を扇情的に取り上げたお陰で、彼女は一気に有名になっ
た。
今や反靖国のシンボルになった彼女は二〇〇二年まで、靖国
神社の「や」の字も知らなかった。靖国問題という政治テーマ
を教えたのは日本人たちであった。靖国神社に無知だった彼女
が、日本の左翼の誘いに飛びついて反靖国活動を開始したのだ
。
高金素梅の母親は台湾原住民のタイヤル族だが、父親は戦後
台湾渡ってきた中国人の軍人である。中国人の軍人は台湾人を
大量に虐殺した一九四七年の二二八事件の加害者としてのイメ
ージが強いため、台湾人に嫌われている。彼らは中国人意識が
強く、人生の大半を台湾で過ごしながら、台湾人ではなく中国
人であると強く主張している。そのために台湾で生まれ育った
彼らの子供たちも、高金素梅のように台湾人としての意識は薄
く、中国人としての意識が強烈だ。
高金素梅は高校卒業後、すぐ芸能界に入り、タレントとして
活躍した。しかし、芸能活動よりもスキャンダルが彼女を有名
にした。数々の不倫騒動からスキャンダル・クイーンのあだ名
をマスコミに付けられ、しばしばワイドショーや週刊誌のタネ
にされた。今回も政治家との不倫騒動の真っ最中での来日であ
った。
タレント時代の彼女は、「金素梅」の名前で芸能活動を行い
、中国人だと自分のことを強調していたが、比較的に当選しや
すい原住民枠で立候補するため、彼女はタイヤル族である母親
の苗字「高」を加えて、高金素梅としたのである。
今回の騒ぎの企画立案者でもある高金素梅の側近の張俊傑は
中国との繋がりが深く、台湾を中国に併合させることを目的と
する組織「中国統一聯盟」の前幹事長でもある。張氏は以前か
ら、原住民を中国に送り込んで中国の政治イベントに参加させ
たり、台湾原住民に「統一思想」と「中国人意識」を植え付け
るなど、明らかなる中国の協力者である。こうして原住民の身
分を利用して起こした一連の「抗日騒ぎ」は、タイヤル族のた
めではなく、ましてや台湾のためでもない。それは彼女を利用
した親中反日左翼の新たな手口であるのだ。
●台湾を利用する中国の「抗日迂回戦略」
胡錦涛政権は江沢民時代とは違って、微笑外交で日本に接近
するよう方針転換をした。実際、胡錦涛に強い影響力を持つと
される時殷弘・中国人民大学国際関係学院教授は、「対日接近
は最も必要であり、中国の安保、外交環境の改善に価値ある『
迂回戦略だ』」(『戦略と管理』二〇〇三年二月号)と述べて
いる。対日
接近を「迂回戦略」と考えているのだ。高金素梅のような「反
日台湾人」を利用して靖国と歴史のカードを切り続けるのもそ
の一環だ。反日の基本路線に変更なしと言うことだ。
中国は、周辺諸民族を支配下に置かなければ、満足する国で
はない。その長年の悲願とは一度も支配下に置いたことのない
「東夷日本」を完全に支配することだ。日本に仕掛けている中
国の全面戦争の兵器は、核ミサイルや日本領海でうろちょろし
ている潜水艦だけでない。日本人が理解しなければならないの
は、日本内
部の親中左派勢力こそが日本の国力と財産を根こそぎ奪い取る
中国の尖兵だということだ。一連の靖国問題を「台湾人」に関
与させ、手引きしてきたのが日本人であることも、その象徴的
事例なのだ。
●親中左派の跳梁と保守の無能
日本の親中左派勢力は確実に戦果をあげつつある。民主党親
中左派政権の誕生も、最たる戦果と言えよう。裏返してみれば
、これは保守派のだらしなさの証明にもなろう。親中左派が中
国と連携して教育、マスコミ、芸能界、労組に手を伸ばしてい
ることを座視しているのではないか。更にひどいのは、自民党
保守政権も
中国に媚びていたことだ。安倍、福田、麻生政権が発足当初か
ら靖国神社参拝しないと言明したのも、媚びの心理が働いてい
たと言える。そもそも国の為に犠牲になった英霊を慰めるかど
うかを、外国の顔色をうかがって決める必要がどこにあるのか
。自民党政権内部に蔓延るエセ保守は親中左派以上に中国に媚
び、極秘情報まで売り渡すという無様な事態になっている。
中国の対日内政干渉には、絶えず日本国内の左翼グループが
援護射撃を行ってきた。その結果、中国の代理人となった親中
左派が各界に盤踞し、内部から日本を崩壊させられるほどの力
を持つようになった。台湾にも原住民を反日の尖兵にして靖国
に代理戦争を仕掛けることは、攻撃力を増強しながら、台湾と
日本を離間
させるという一石二鳥の戦術でもあるのだ。そのような内外か
ら挟み撃ちのできる態勢はほぼ完成に近づいている。手を汚さ
ず、日本を落城させる戦略の端倪は、この高金素梅による騒ぎ
でみることができる。
●思想のない親中左派思想
左派思想とは、公よりも私を優先させる自由と人権を擁護す
る思想であるはずだが、戦後日本の左派は、元々自由人権と個
人の権利が保障されている日本で人権思想や個人主義を吹聴す
る一方、中国の一党独裁や専制統治になんの異論も唱えていな
い。靖国に執拗に攻撃していることも然り。反戦と訴えながら
、過去の軍
国主義に攻撃しておきながら、現在進行中の中華覇権軍国主義
に目をつぶっている。彼らの運動は本質的には中国に対する事
大主義だけなのである。事大主義に走ること自体、すでに彼ら
が権力志向になっていることを意味しよう。つまり、日本の左
派とは左派思想のない左派で、日本という国を崩壊させるだけ
を目的としているのだ。しかし、これほど空疎な思想に基づく
勢力に連戦連敗の保守もどうかしている。
●酷似する日本の「反日」と台湾の「反台」
実を言えば、国の裏切者や、それを放置する国民と、それを
後押しするマスコミの存在など、日台両国の社会状況は極めて
似ている。日本の「反日」と台湾の「反台」の両勢力は、思考
、行動パターンがほぼ同じだ。どちらも、よく似た戦後思想状
況の落とし子なのだ。戦後、日本では祖国否定の思想によって
学界、教育
界、マスコミが支配され、日本肯定思想は異端視され、罵倒さ
れてきた。台湾では二十年間続いた李登輝・陳水扁台湾人政権
でも蒋介石によって台湾に持ち込まれた台湾軽視の大中国思想
を抹消することができなかった。
高金素梅をここまで大胆にさせたのは、もちろん背後にある
中国の存在であろう。しかし、もっと深く考えれば、中国に対
する媚びが日本全体に蔓延しなければ、果たしてこれほど不埒
な行為ができたのかとも思う。日台両国の愛国者が、喜んで中
国のコマを演じる彼女を批判するのはもっともだが、自らの戦
略的錯誤も反省すべきではなかろうか。
*************************************************
【激論ムック・最新号】「迷走日本の行方」
書店販売中、
オークラ出版
内閣支持率70%?!死に至る日本の病と新政権
◎口絵カラー 日本の現在。カオスの淵から見えるもの 2
◎緊急特別座談会
STOP!日本解体計画―抵抗の拠点をどこに置くのか
城内実×小林よしのり×三橋貴明×西村幸祐 6
◎追悼、中川昭一氏。誰が政治を殺したのか? 西村幸祐 28
◎総特集1
失われた日本人の座標軸
世界は新政権をどう見たか 島田洋一 32
米中接近と「東アジア共同体」という幻想 藤井厳喜 35
中国の「今」と日本の迷走 宮崎正弘 40
政権交代で揺れる沖縄の防衛 恵隆之介 44
「台湾=生命線」を忘れた日本人 永山英樹 48
ついに一線を越えた高金素梅 林建良 52
キューバ革命から見た、迷走日本 奥村篤信 57
民主党・対北政策への不安と期待 増元照明 65
◎特集1 「日本人のもの」でなくなる日本
どんどん広がる偽装認知 桜井誠 70
移民政策のツケに苦しむフランスを見よ 但馬オサム 77
国籍のありがたみを忘れた日本人 石平 82
中国人留学生というトロイの木馬 有門大輔 86
赤い十字架の恐怖―韓国キリスト教の精神侵略 若杉大 90
朝鮮通信使イベントを警戒せよ 但馬オサム 96
◎特集2 メディアが死守する戦後レジーム
平成の秩禄処分という見方 高山正之 100
「新世紀のビッグブラザーへ」の世界へ進む日本 三橋貴明 108
敢えて自民党の下野を歓迎する 岩田温 115
これからのメディアに問われるもの 水島総 122
◎column ある二等陸佐の嘆き 若杉大 126
◎総特集2
民主党内閣の恐怖
迷走&暴走する民主党新政権 花岡信昭 130
私は民主党の国家解体政策を許さない 土屋敬之 136
女流国防論第11回 北沢大臣の着任先は『敵地』なのか 桜林美佐 140
既に鳩山民主党も中国の手に堕ちたか 山村明義 144
民主党の日本解体法案の真実 水間政憲 148
首相官邸異状あり 阿比留瑠比 152
◎column
支那げしの花・アグネス・チャンに「白い靴下は似合わない」 鉄幹ばなな 156
まだいたのか、田中真紀子! 詠清作 158
◎好評連載
匿名コラム 天気晴朗(伍)滑稽に踊る哀れなゴマメ太郎 160
思想の誕生第11回 「神の国」アメリカ 「神の国」日本(一) 西尾幹二 161
21世紀からの思索第11回
早くも訪れた民主党の落日―矛盾だらけの「社民」政権 西部邁 170
情報の考古学第10回 変革の思想が問われていた時代(その3) 西村幸祐 178
ネット言論多事争論第11回
激震が走った芸能界とスポーツ界 宮島理 182
知垢庵夜話第11話 ミユキ・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンド 但馬オサム 186
書評コーナー 190
編集部からのお知らせ 194
執筆者プロフィール 198