「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」より転載
宮崎正弘
世界のタックスヘブン地図が激変、マネーロンダリングされたカネは
新しいミステリアス・ゾーンになぜ駆け込んだか?
本書の中味は一部に大胆かつ飛躍的な仮説も含まれ、表面的な現実の世界の動きと仮説との距離があって、本当かな、と考えさせる箇所が幾つかあるが、ともかく「面白い」のである。
菅沼氏は長らく公安調査庁の第一線にあってソ連、中国などの共産主義国家の謀略を分析してきた日本では珍しいインテリジェンスの専門家。
藤井氏は米国留学と滞在がながく、ワシントンならびにウォール街に独自の人脈を、しかも豊富に抱えて会員限定のニュースレターも発行している政治学者だ。
この二人が世界のもっともミステリアスな謎に正面から斬り込んだのだから、面白くない筈がないだろう。
そして二人が注目する共通項はFATCA(外国口座税務規律)である。米国の金融新条項であるFATCAによって世界のカネの動きが激変した。
このことは小誌でも昨夏以来屡々指摘してきたことである。
従来のタックスヘブンに集約され累積されてきた膨大なカネが、スイスを離れ、ケイマンを離れ、ルクセンブルグを離れ、では何処へ行くのか?
新しいタックスヘブンは北朝鮮とチャイナではないか、と類推される大胆なシナリオに本書の読者がいかに対応するか、投資家はどうするのか?
それにしても米国は他国の思惑を顧慮せず、一方的に規制をかけてみたり緩めてみたり、恣意的である。
それに見事に振り回されるのは日本であり、中国はむしろ、米国がこうでるとわかると、奇妙奇天烈な対策を取って攻撃を躱す国である。
中国は反腐敗キャンペーンの一環として米国から情報を貰うためにFATCAに協力的でさえある。
「しかしFATCAによってマネーロンダリングが不可能となれば、FATCAの規制を潰そうとする、様々な謀略が展開されるだろうし、既に従来のタックスヘイブンに代わる拠点を設ける動き」があり、その一つが北朝鮮であると菅沼氏は指摘する。
にもかかわらず「ひとり日本だけが拉致問題と経済金融制裁で身動きが取れない状態で、朝鮮半島の『旧宗主国』としての特権が次々と失われつつある」とも菅沼氏は付け加えられる。
これを受けて藤井氏が、もうひとつ「イスラム国」の動きを追求する。
「イスラム金融自身が表の顔も裏の顔も持っている。現在、シティやスイスがタックスヘブンとして機能しなくなったために、国際金融界のダークサイドは、その拠点の一つをイスラム世界に移そうとしている」
世界の裏情報の集大成と、こうしたデータに基づく推論、ならびに独特な近未来予測に本書は満ちている。