(転載自由)
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以下は6年前に上梓した単行本「日本よ、こんな中国とつきあえるか」の一部ですが、参考のために再度掲載させていただきます。
「台湾の声」編集長 林 建良(りん けんりょう)
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「日本よ、こんな中国とつきあえるか?」まえがき
日本は誤解されている。日本人は中国や台湾をよく理解していない。
このことについて日本人が自覚していないか、自覚していながら何もしないかのどちらかのように、台湾人の私には見える。これでいいのかとの思いが、私の中に日増しに強まっていた。そこでこの本を書き、愛する日本に捧げたい。
日本に心理的にも地理的にも近い台湾人でさえ日本像を正しくとらえていないことを、日本に来てから痛感した。日本統治時代を経験した戦前世代の台湾人は日本に対して一種の文化的郷愁を持ち、そのフィルターを通して日本を想っている。一方、私のような戦後世代の台湾人は学校で中国人と同じ目線に基づく反日教育を受け、歪んだ日本観を持っている。
戒厳令の布かれた国民党政権時代、私は大学を卒業するまで台湾無視の完全な中国人化教育を受けた。それは抗日を愛国とする反日教育でもあった。学校の教科書や反日国策映画の中に出てくる日本人は決まって残虐で、狭量で、そして狡猾であった。映画にはちょびヒゲを生やした傲慢な日本人が必ずと言っていいほど登場する。その人物の滑稽さを誇張することで、日本や日本人を最大限に侮蔑するのが映画の目的だったようだ。
しかし、戦前生まれの父が、教科書や映画とは逆の日本人像を私に教えてくれた。それは清潔、真面目、滅私奉公、強きを挫き弱きを助ける、凛々しい日本人像だった。
台湾には「日本精神」(ギップンチェンシン)ということばがある。それは、台湾人家庭で日本人を表現することばでもある。国民党の反日教育に抵抗する気持ちも含まれていたのか、戦前世代の親たちの多くは、日本人すべてが武士道精神を持つサムライであるかのように、子供たちに伝えた。こうして、私の世代では反日の学校教育と親日の家庭教育の狭間で、現実とかけ離れた日本観が生まれた。
日本に来て、日本人ほど生命に対して畏敬の念を持ち、自然をこよなく愛する民族はないのではないかと感じた。日本人は極めてフレンドリーで寛容的で、そして人に自分の主張を押し付けることのないシャイな民族である。外見も内面も清潔で、台湾人からすれば、非常に好感を持てる民族だった。日本人は学校で学んだ日本人像とは全くの正反対の民族だった。
だから、日本に着いた瞬間、いつまでも日本統治時代のことを懐かしんでいる父の気持ちが何となくわかった。父たち戦前世代の台湾人は一所懸命、日本人の良さを子供たちに伝えようとしていたのだ。
ところが、私が経験している日本は、もはや戦前世代の台湾人が懐かしんでいるような日本ではなくなったようだ。今の日本には彼らが憧れてやまない「日本精神」を持ちあわせている日本人は少ない。今の日本には、正義感と冒険心がかなり欠如している。そして、東アジアの平和と安全守ろうとする気概も失っているように私には見える。日本は自国の防衛にさえ責任感と使命感を放棄し、他人任せにしたままである。それ故、見たくないものに目をつむり、思考を停止してしまったかのようだ。
中国という厄介な存在に対する日本の態度は、まさにその典型である。中国は国連などあらゆる場面において、大声で日本の悪口を言いふらしている。それに対して、人の悪口を言わず慎み深い日本は弁解するどころか、ただただ平身低頭謝っているだけに見える。その態度が中国に日本批判の正当性を与え、そのトーンをさらに上げつついろいろ要求し、それに日本が答えるという繰り返しである。
日本の対中国政策は無策に近い。あるいは、まるで中国の宣伝用パンフレットに基づいて行われているとしか思えない拙劣さなのだ。賢いはずの日本人がなぜここまで愚かな対中国政策をとっているのか、私はいつも不思議に思う。つまり、日本は中国人の本質を知らないまま中国と付きあっているのだろう。中国は話せばわかる相手ではないということを、日本人は未だに理解していないのだ。日本人は中国のことを知らない。いや、知ろうとしないと言った方が正しいかもしれない。日本にいればいるほど、そう思うようになる。
中国の本質をわかれば、自ずと日本を含めた東アジアに迫り来る危機を察知できる。そして、その危機を真っ正面から見つめることができれば、国益に準じた有効な対策を取ることができるはずである。
私は中国的教育を受けた一台湾人として、日本の田舎の一町医者として、また台湾独立建国運動の一参加者として、中国、日本そして台湾の本質とそれぞれ抱えている矛盾と苦悩について、募る思いのまま書き下ろした。それが日本と台湾のためになることを祈りたい。
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参考
「中国ガン・台湾人医師の処方箋」林 建良著 並木書房 2012年12月出版