2014.1.26 産経新聞・産経抄より転載
戦後、日本を占領した米国人の日本文化への理解のなさはひどいものだった。例えば歌舞伎は「仮名手本忠臣蔵」のように仇(あだ)討ちを奨励し、封建的で残虐なものが多いと、やり玉に挙げる。一部の演目はGHQの「検閲」で上演禁止になった。
▼当時「娯楽の王様」だったチャンバラ映画も「武士の殺し合いはいけない」と、禁止された。漢字は習得に時間がかかるから、国民の教育程度を引き下げる。ひいては、民主化の妨げになる。そんなムチャな理由で日本語のローマ字化をはかろうとする動きもあった。
▼いずれも表面ばかりを見て、何百年も培った「武士の魂」や漢字文化の歴史など全く眼中にはない。自国の正義だけを固く信じるという米国人の一面だったといっていい。そういえば、キャロライン・ケネディ駐日米大使にも、そんな「米国人」が感じられてならない。
▼先日、短文投稿サイトのツイッターで唐突に、和歌山県太地町で行われているイルカの追い込み漁を取り上げた。「イルカが殺される非人道性」を深く懸念しているという。「米国政府は追い込み漁に反対」と、日本語と英語の両方で書き込んであった。
▼追い込み漁は日本の伝統的漁法のひとつである。個人的にクレームをつけるのは自由だ。だが今、占領地でもない町の漁法に「米国政府」として反対するとなれば、話は別だろう。菅義偉官房長官が早速「法令に基づき適切に行われている」と述べたのも当然である。
▼そのケネディ大使は父親の大統領を受け継ぎ日本での人気は高い。安倍晋三首相の靖国神社参拝への「失望」表明を金科玉条として安倍批判に利用するメディアもある。だが大使も今少し日本の伝統を学んでいただかねば、いずれ背を向けられる。