広東省では初日に2030人が申請し、初日からの3日間で2万190件に達したなどと報じられたが、その後の報道がパタリと途絶えた。
台湾人にはどうも不人気なようだ。「居住証」を申請する際に指紋などの個人情報の提供が義務付けられていることや、メリットばかり強調しデメリットが不明などの理由で取得に消極的だという。台湾統一に向けた準備段階と見ている台湾人も少なくないという。
中国が台湾の人材勧誘や企業誘致のため今年2月28日に打ち出した台湾人優遇策「恵台31条」も、どうやら不発に終わりそうな様相を呈している。
頼清徳・行政院長が中国の目的は台湾を併呑することだと強調したこともあってか、中国で就業する台湾人の減少基調に変わりはなく、中国が求める教師や学生、医者といった人材の対中流出でも、明らかな増勢はないと伝えられている。台湾の大陸委員会も9月6日に「台湾社会に与える影響は軽微」と表明している。
あの手この手、脅したり賺(すか)したり、正面から搦(から)め手など、台湾を我が手中にと術策を駆使する中国だが、申請開始から1ヵ月の居民居住証も、デザインを中国の身分証明証と酷似させる“工夫”を施したにもかかわらず、台湾では中国が期待するような効果は出ていないようだ。
李登輝元総統が真摯に取り組んできた台湾人アイデンティティの高まりを、中国側は見くびりすぎてどうやら見誤ったようだ。中国の台湾へのさまざまな圧力は、台湾人の反発を招いている証左でもある。
————————————————————————————-新身分証、新たな火種に=中国、長期滞在台湾人に「居住証」【時事通信:2018年9月30日】
【台北時事】中国大陸に長期滞在する台湾人を対象に、中国当局が新しい身分証の発行を開始し、台湾で波紋を広げている。中国側は「台湾同胞も中国人とほぼ同じ公共サービスが受けられる」と触れ込み、取得を奨励。台湾側は「台湾人を引き入れるための統一工作だ」として取得に反対の立場を打ち出し、中台間の新たな火種に浮上している。
身分証は「居住証」と呼ばれ、中国に183日以上滞在する台湾人のほか、香港、マカオの出身者を対象に9月1日から発行が始まった。台湾籍を放棄する必要はなく、中国人と同じ18桁の番号が付与されるため、中国側は電車や飛行機、宿泊の予約、金融機関の各種手続きがより簡単にできるほか、教育や就業などの面でメリットが得られると主張している。
一方、台湾で対中政策を主管する大陸委員会は、居住証を取得した台湾人が中国で新たに課税の対象となり、個人情報が収集されるなどのリスクを懸念。中国の国務院台湾事務弁公室は「政治的な権利や義務の調整とは関係ない」と否定するが、「中国に住む台湾人の多くはデメリットが判然としないため、取得に消極的」(上海在住の台湾人女性)なのが現状だ。