ど・みちお氏(本名・石田道雄)が104歳で亡くなった。皇后陛下がまど氏の『どうぶつたち(The
Animals)』を英訳して出版されたことや、日本人で初めて国際アンデルセン賞作家賞を受賞したこ
とでも知られる。
明治42年(1909年)、山口県徳山町(現在の周南市)に生まれたまど氏は9歳のときに渡台、台
湾で詩や童謡の創作を始めている。台北工業学校土木科を卒業後、台湾総督府道路港湾課で働いて
いた25歳のときに投稿した作品が北原白秋の目に止まり、本格的に創作活動をはじめたという。
このほど、読売新聞が「単行本未収録の詩や俳句など160編が存在することが分かった。戦前の
日本統治時代の台湾で過ごした若き日の作品95編は、後の作風を思わせる心温かいユーモアの漂う
言葉が刻まれていた」と伝え、生まれ故郷にある周南市美術博物館が開館20周年記念として来る11
月13日から「まど・みちおのうちゅう」展を開催するとも報じている。
9歳から約30年を台湾で暮らした世界的詩人のまど氏。読売新聞は、『続 まど・みちお全詩
集』(理論社、2015年9月刊)を編纂した市河紀子さんの「まどさんの詩の原点は、亜熱帯の風物
に囲まれ、多感な頃を過ごした台湾にあります」と伝えている。
◇ ◇ ◇
周南市出身の詩人まど・みちおは、 「ぞうさん」「やぎさん ゆうびん」など数多くの童謡や詩
で親しまれています。本展では、文学関係の資料や映像をまじえて、まど・みちおの詩人としての
足跡をたどるとともに、50代はじめに描いた絵画作品を通して、 詩とはまた違う宇宙観を紹介し
ます。
◆周南市美術博物館開館20周年記念「まど・みちおのうちゅう」
http://s-bihaku.jugem.jp/?eid=509
・期 間:2015年11月13日(金)〜2016年1月17日(日)
・会 場:周南市美術博物館開館
〒745-0006 山口県周南市花畠町10-16
TEL:0834-22-8880 FAX:0834-22-8886
http://s-bunka.jp/bihaku/
まど・みちおさん 未収録160編
【読売新聞:2015年10月8日】
◆詩や俳句 若き日の台湾時代の作品も
童謡「ぞうさん」「やぎさん ゆうびん」などで知られ、昨年2月に104歳で死去した詩人、ま
ど・みちおさんの単行本未収録の詩や俳句など160編が存在することが分かった。
戦前の日本統治時代の台湾で過ごした若き日の作品95編は、後の作風を思わせる心温かいユーモ
アの漂う言葉が刻まれていた。伊藤英治、市河紀子編『続 まど・みちお全詩集』(理論社)に収
録された。
海に来て
「おーい」と言うて
もう一度
「おーい」と言うて
する事がなくなった
[「海に来て」(1935年)より]
哀かなしいほどおおらかで、優しい。新たに掘り起こされた詩にも、まどさんの世界があった。
1909年、山口県に生まれたまどさんは、9歳の時に台湾へ転居。台北工業学校を卒業後、台湾総督
府に勤めながら雑誌に投稿を続けた。92年に一度、全詩集が編まれた後、続編刊行に向け、新聞や
詩誌などに掲載され、単行本化されていない作品の調査が進んでいた。
蚊をたたいたら
手のひらに
長い足して
死んじゃった
そっとその足
触ったら
ぽろりと千切れて
落ちちゃった
[「蚊をたたいたら」(同)より]
小さな虫や植物、自然にも心を感じ、まどさんは大きな言葉を紡いだ。今回の著作に収録された
台湾時代の作品には、後年のまどさんと同じく、ヤギや蚊など身近な生き物を題材にした詩が多く
あった。
一方、20歳の頃には、本名・石田道雄にちなみ「石田路汚」の俳号で、自由律俳句を詠んでい
た。<毎日毎日製圖(せいず)ひきに役所へ行くのだ>といった、後の詩人のイメージとはひと味
違った句を残した。「支那の嫁入」と題する異国の風物を詠んだ詩などもあった。
続・全詩集刊行を機に、改めてその詩業が振り返られそうだ。市河さんは、「まどさんの詩の原
点は、亜熱帯の風物に囲まれ、多感な頃を過ごした台湾にあります。その頃のものを含め、多くの
作品が読めるようになることで理解が深まれば」と話す。
◆故郷の山口で展覧会
まどさんの故郷、山口県周南市の市美術博物館では、11月13日から「まど・みちおのうちゅう」
展が来年1月17日まで開かれる。
生まれてから9歳までを同市で過ごしたまどさんは、50代初め頃を中心に、詩作の傍ら抽象的な
絵をパステルや水彩などで描いた。購入や寄贈により、同館は現在、絵画やカットなど290点を収
蔵する。
展覧会では、収蔵品から厳選した絵画作品約50点が展示される予定。また文学関係の資料やテレ
ビの出演映像などを通じて、詩人の足跡をたどる。 (文化部 待田晋哉)