ANデビューの第1回「アジアの“一等国”」の放送内容について、「日本が一方的に台
湾人を弾圧したとするような史観で番組を制作することは、公共放送として許されるべき
ではない」とする4月9日付の「抗議声明」を福地茂雄・NHK会長宛に手交した。
要望は2つ。1つは抗議声明にもあるように「この番組の脚本を作成する上で参考にした
書籍など全資料の開示」。2つ目は番組ディレクターの濱崎憲一氏への面談である。
一昨日の15日、当該番組責任者のエグゼクティブ・プロデューサー、河野伸洋氏より小
田村会長宛に14日付の「回答」が届いた。
まずは「必ず返答する」という約束を守っていただいたことに安堵した。だが、予想は
していたものの、自己弁護に終始する、不誠実ともいえるその内容に落胆した。「歴史の
事実を共有することで、日本と台湾、日本とアジアの真の絆を見いだしたい」という番組
の趣旨だそうで、では「歴史の事実」とは何かというと「植民地時代の差別、戦争の深い
傷が残されているという事実」だという。それが「日本と台湾のさらに強くて深い関係を
築いていくことに資する」という。
台湾に「植民地時代の差別、戦争の深い傷」が残っていることは、台湾関係者ならほぼ
誰でもが知っている事実だ。だが一方で、日本統治を評価していることも事実なのだ。だ
から、「植民地時代の差別、戦争の深い傷」だけを描くこの番組のバランスの悪さに、台
湾の日本語世代の方々をはじめ多くの人々が違和感を抱いたのである。
ともかく、NHKからの「回答」をお目にかけたい。この「回答」についてのご意見を
お願いします。
(日本李登輝友の会事務局長 柚原 正敬)
日本李登輝友の会
会長 小田村四郎様
貴日本李登輝友の会から日本放送協会会長宛に送られた「NHKスペシャル シリーズ
JAPANデビュー 第1回 アジアの“一等国”」に対する抗議声明について、会長に
代わって当該番組の責任者として小職が回答させていただきます。
NHKでは、この4月から3年間にわたる企画として「プロジェクトJAPAN」をス
タートさせました。近現代史の大きな節目を迎えるこの三年間に、ドキュメンタリー、ス
ペシャルドラマ「坂の上の雲」などプロジェクト関連番組を多角的に展開し、歴史の中に
これからの日本を考えるヒントを探っていこうというのが、プロジェクトJAPAN」の
趣旨です。
初年度のNHKスペシャルは、「JAPANデビュー」と題し、横浜が開港した1859年
から1945年までを描くシリーズを制作しています。西洋列強に倣って近代国家をめざし、
第一次世界大戦後には五大国のひとつになった日本が、その後国際社会の中で孤立し、焼
け野に立つに至った歴史の流れを、世界各国の一次資料、時代を生きた人々の証言、研究
者の分析などを通じて検証するシリーズです。第1回のテーマが「アジア」であり、日本
が最初の植民地とした台湾に、近代日本とアジアの原点を探り、これから日本がアジアの
人々とどう向き合っていけばよいのか、未来を生きるヒントを探ろうとしたものです。
声明の中に、「『反日台湾』を印象付けるためだったのかとしか思えない内容」、また
「日台離間を企図しているのかとさえ思われる内容」と記されていますが、番組の趣旨は
まったく異なり、歴史の事実を共有することで、日本と台湾、日本とアジアの真の絆を見
いだしたいと考えたものです。
後藤新平についても、民政局長として着任し、台湾全土の調査を行ってから、台湾統治
の成果をあげ、「台湾10年間の進歩」という欧米向けのパンフレットを発行するに至った
経緯を、台湾総督府文書やイギリス領事館の報告など一次資料をもとに、事実を積み上げ
て紹介しています。
「日台戦争」については、この戦いの研究を進めていた日本の専門家が1990年代に名付
け、以後研究者の間ではこの表現が使われるようになっています。
台湾が親日的であるという事実は、多くの日本人が認識していることであり、この番組
でも決して否定していません。一方そうした台湾にも、植民地時代の差別、戦争の深い傷
が残されているという事実を伝えることが、日本と台湾のさらに強くて深い関係を築いて
いくことに資すると考えています。視聴者からも、事実を初めて知り、そのことを踏まえ
て関係を築いていくことの大切さを記した意見が多数寄せられました。なにとぞ番組の趣
旨をご理解いただきたいと思います。
なお、番組制作にあたっては、2万6千冊の台湾総督府文書や、イギリス、フランスの外
交史料をはじめ膨大な一次資料を読み込み、また国内や海外で数多くの研究者を取材して
います。
以上、ご理解よろしくお願いいたします。
平成21年4月14日
日本放送協会 ジャパンプロジェクト
エグゼクティブ・プロデューサー 河野伸洋