に提出したパイワン族原告である陳清福氏の「意見陳述」(平成22年7月)をご紹介しま
す。
なお、この「意見陳述」には見出しがないため、本誌掲載に当たっては「NHKにねじ
曲げられた私の通訳」と付けたことをお断りします。
意見陳述
陳 清福
1 私は、NHKの人達を3日間にわたって接待し、高士村(クスクス村)を案内し、高許
月妹さんらを引き合わせました。
NHKの人達は近くのホテルに泊まっていて、3日間にわたってクスクス村に通って来
ました。私は、その間村の各所を案内し、昔あった神社の跡地も案内して行きました。
そして、その神社を再建するのが私の夢であると話しました。そのほか、戦前の日本人
は良い人が多かったと言いました。日本人のことをほめればNHKも日本人だから喜ぶ
と思っていましたし、本当のことだったから一生懸命に話をしましたし、接待したので
す。
NHKの人は熱心に聞いてくれているように思いました。カメラ撮影や録音もしてお
りました。
2 私自身少年時代を日本人として育ち、日本語もしゃべれますし、日本には良い感情を
抱いております。3日間も取材を受けたのですから、神社再建のことを初め、日本に対す
る良い思い出話をたくさん話したのに、それは全く放送されませんでした。
私は、NHKの人から「人間動物園」とか「展示」とか「見せ物」という言葉は聞い
ておりません。そのような言葉を聞いたら、私もパイワン族の一人ですからびっくりす
るし、腹が立ちますから覚えているはずです。
私が放送に出たのは、私の自宅の中で、NHKの人が高許月妹さんに話を聞き、その
返事を私が通訳したときの言葉だけでした。
その言葉もねじ曲げられて放送されました。高許月妹さんが、父の思い出について、 「懐かしい。(父とはあまり話をしなかったので、父のことは)余りよく分からない。
父のことはとても話しきれない。」などという言葉を通訳したのですが、放送では、高
許月妹さんの父親が人間動物としてイギリスで見せ物にされたことについての言葉とい
う誤解を与えるようになっています。また、私の通訳した「話しきれないそうだ。悲し
いね。この話の重さね、話しきれないそうだ。言い切れない」の中で出てくる「悲し
い」というのは「懐かしい、愛しい」という意味ですし、「この話」というのは、パイ
ワンの人達が人間動物扱いにされたことを言うのではなく、高許月妹さんの父とのいろ
いろな思い出のことを言っているのです。
3 私は、顔も名前も出てきませんから、私が通訳した言葉は、直前に顔が出ている高許
月妹さんの兄の許進貴さんの言葉だと誰でも誤解します。NHKは、兄妹そろって父親
が惨めな経験をしたことを悲しがっているとわざと誤解させる嘘の放送をしたのです。
4 NHKの放送では、私が通訳だと言っていながら、私の名前は全く出ず、また、通訳
としての報酬は全くいただいておりません。報酬についての契約など無かったのは事実
ですが、我々パイワン族の間では、そんな契約などしなくても、働かせた場合は、謝礼
を渡すのが常識です。私が知っている昔の日本人は、約束していないから金は払わない
などという言い逃れは決してしませんでした。
5 高許月妹さんの名前は、本人がはっきりとNHKに言っております。高許月と自己紹
介したことは絶対にありません。そんなことがあったら、私がびっくりしてしまいます。
6 以上述べたことが正しいかそうでないかは、NHKの録画録音を調べればすべて分か
ることです。私はNHKが高士村で録画録音したすべての記録を裁判所に提出すること
を要求します。